連載「AI×エンタメの“現在地と未来”」 第一回:AITuber
AITuberが辿ってきた道筋と、その先にある未来 「紡ネン」や「ごらんげ」を手がけるパイオニアたちが語り合う
「AI CAST」に込められた「安心して“推せる”ように」という想い
――明渡さんは先日「AI CAST」を立ち上げられましたが、改めてAITuber事務所を新たに立ち上げることになった背景をお伺いできますか?
明渡:まず、AI CASTと紡ネンは別のものとして捉えています。紡ネンというキャラクターのブランドはすでにプロデュース方針がしっかりしているので、いまからいろんなことを試すキャラクターではない。なので、そうした試行錯誤ができて自由に作れる場所がほしかったんですね。
あとは、個人でもVTuberになれる、あるいはAITuberを作れる時代になっていく中で、企業として提供できるものが何かと考えてみると、事務所に所属している人たちを応援する安心感であったり、キャラクター同士の関係性の変化を楽しんだりという部分になってくると思うんです。なのでいろんな制約を取っ払って、人数がたくさんいて楽しいVTuber事務所的なものを作っていこう、というのがこの事務所を作った背景です。
――AI CASTの“推しを育てる”的な側面は「ごらんげ」とシンクロする部分もあると思います。玉置さんはAI CASTの立ち上げをどのように捉えているのでしょうか?
玉置:今のGPTブームより前の時代に、キャラは増やしたいけれど技術的にどうやればいいんだろうという相談は受けていたんです。ですから、今世代のGPTが登場したことによってようやくそれが実現して、事務所という形で取り組めるようになったから立ち上げたのだな、という認識でいます。
その上で、弊社がやっている「ごらんげ」や「プロジェクト・メロウ」といった、「プレイBYライブ」のコンセプトで括られるプロジェクト群は名前の通りゲームを「プレイすること」がコンセプトにあるので、そこでVTuber事務所が根幹にあるPictoriaさんとは棲み分けができていると思っています。
――おそらくAITuberのシーンはどんどん活性化していくと思いますが、お2人はAITuberシーンが今後生まれ育っていくことについて、その展望の予測などを含め考えをお聞かせください。
明渡:我々は「AITuberを見て育った」という世代を作っていきたいという大きな目標に向かってパートナーシップを組んでいる、という前提があるので、プレイヤーが増えることは歓迎です。「VTuber世代」というのがあったように「AITuber世代」のようなものが生まれたり、大きなフェスみたいなものが開かれると理想的だという話は前からしていたので。そういった中で、いろんな可能性を捨てたくないなと思っているんです。たとえば、次は「人を見たときと同じ感情をAIでも生み出す」ということを本気でやっていきたいと思っているので、個人的にはエンタメの方面で、VTuberシーンのような盛り上げ方をするところに最初は力を入れていきたいです。
玉置:自分もどんどんAITuberを作る仲間が増えてほしいと思っています。その上で2つ考えていることがあります。まず私たちは「AITuberを作ること」をゴールにしているのではなく、根本的にはユーザーコミュニティが大事だと思っているんです。どういう風にお客様のコミュニティを盛り上げていくか、という部分を重要視している。結局AITuberの話も、ゲームキャラそのものが自動化して、自動でお客様同士のコミュニティを強化したり盛り上げていく、というある種のインフラが成り立っていけば良いなと思っているんです。そうなるとAITuberというロールは一側面でしかない。「YouTubeで配信しているからAITuberである」という枠は簡単に越えて、いろんなメディアやインターネット上のコミュニティにおいてAIが活躍することで人間関係やコミュニティができて、それをキャラクターがコントロールしながら、より価値の高いものにするために動くという状態がゴールだと思っています。
なのでAITuberのプレイヤーが増えるかどうかという議論だけではなく、対話できるAIを使ったコミュニティプロデュースや、コミュニティエンハンスメントを行うというアイデアそのものが広まってほしいなと思っています。
そしてもう1点は常にノウハウはオープンでありたいということ。ノウハウの独り占めをしたり、あとからプレイヤーが入ってこれないように邪魔をしていたりすると、その界隈自体が成長しなくなってしまうんですよね。ちゃんとオープンにやっていかないと、そもそも界隈は成り立たなくなるんです。
なぜそこを強調するのかというとですね。こういうものが流行ってくると、段々似たような人が集まって村社会化して、あとからプレイヤーが入りにくくなって停滞する、ということが起きやすいんです。が、そういったことにはなってはいけない、と思っています。
――最後に、いまお話できる範囲でそれぞれが担当されているプロジェクトの今後の動きややりたいことについてお伺いできればと思います。
玉置:「ごらんげ」では3月24日に3キャラクターである「京ぽぷり」がデビューしました。いま注目されているAI技術の領域と親和性があることにチャレンジしていくので、ぜひご覧いただければと思います。具体的に言うと、今までは提示された選択肢に対して数字を打ち込むだけだったのが、言葉や文章を認識して行動を取るようになります。そのときにゲーム状況がどうなってるかを把握した意味理解を行いますし、さらに日本語がある程度崩れていても、しっかりと理解して動いてくれます。
あとは、ディープラーニングを利用した強化学習の仕組みをかなり取り入れていて、みなさんの努力によって成長していく過程を見ることができるので「育成の楽しさ」をより強く打ち出せるかな、と考えています。これまでの「ごらんげ」が“無人のVTuber”といった意味で盛り上がっていたのに対して、京ぽぷりは日本語も理解できて“育つAITuber”として注目できるかと思います。
「ごらんげ」の中でGPTの活用もしていく予定です。キャラクター同士の試合大会を開いて、お客さんが自分のポイントを予想投票するといったゲーム性も持たせていきたいと思っているので、そのような“AIスポーツ化”に向けても、さまざまなプロジェクトを進行していきたいと思います。
明渡:私はとにかくAITuberというものをマス化させていくために様々なことをしていきたいと考えています。AITuberに関係のある人や興味がある人たち全員とコラボレーションするために、本当にやれることを全部やっていきたいですね。
■関連情報
『VTuber Fes Japan×おしゃべりフェス in 超会議2023 「わいわいトライアルレーン」』
AITuberの紡ネンと魔法少女アイマインが登場(AITuberレーンは入場無料。別途ニコニコ超会議入場料が必要)
日時などの詳細:https://vtuberfesjapan.jp/shabefes/
紡ネン:https://www.youtube.com/@TsumugiNenCh
魔法少女アイマイン:https://www.youtube.com/@AiMain_aicast