AITuberが辿ってきた道筋と、その先にある未来 「紡ネン」や「ごらんげ」を手がけるパイオニアたちが語り合う

パイオニアたちが語り合う『AITuber』

「一番つらい部分を代替できれば、AITuberをやっていく意味はあるなと思います」(玉置)

――玉置さん側がVTuberシーンにどうコミットしてきたのか、というところも気になっているのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

玉置:私は2017年ごろからVTuberシーンを追いかけているいちファンでもあるんですが、配信をみていると、VTuberの視聴者の中には本人から「やめてほしい」と言われていてもゲームの進め方を指示したり、いわゆる伝書鳩行為(※2)をしてしまう人を度々見かけることがあって。これはシーンの課題としてたしかに存在するんです。

 では、やるなと言われているのに何故そういうことする人がいるのか。それはVTuberのことをどこかでゲームのキャラクターとして見てしまい、ゲームキャラ的にプロデュースしたいという欲求を抑えられない人がいるからだと思ったんです。

 それは人間に対する態度ではなくゲームキャラに対する態度なので、この欲求自体を人間に向けるのは駄目だと思うんですが、この欲求自体があるということは事実なんだと向き合ったときに、「その欲求こそAI配信者という新キャラクタージャンルが担うべきなのではないか」と考えたんです。そうすればリアルの配信者のストレスを軽減することができるかもしれないと。

(※2:見ている配信者のことや様子、発言などを別の配信においてコメントすること。配信と直接関係ない話題であることが多かったり、宣伝ととらえられてしまい、その配信者に悪印象を与えてしまう可能性もあることから、控えるよう呼びかける配信者が多い)

明渡:VTuberに限らず、アイドルなどでもお客さんが喜んでアイドルは苦しいといったような、何らかのトレードオフが発生している可能性はありますよね。人を喜ばせるために人が疲弊するという状況を、もし仮に機械が引き受けられるのであれば総量的には幸せが増えそうだという思いはあったので、こちらとしても面白いなと思いました。一番つらい部分を機械が代替していくことができれば、社会貢献という言い方が適切かはわかりませんが、AITuberをやっていく意味はあるなと思いますよね。

――社会的な課題を解決するアクションであり、どちらかといえば介護・福祉に近い考え方でもあると思います。

明渡:なかには「VTuberは人間だから面白いのであって、AIのVTuberはうまくいかない」という意見を持つ人が一定数いますし、その気持ちもわからなくはないんです。ですが、もし人がAIや機械に対して好きという感情を持つようになったら、それはすごく革命的なことじゃないですか。そういう意味であえて流行らなさそうなところに正面から突撃していくという精神が楽しいなと思ってやっています。

――話は逸れてしまいますが、AITuberやVTuberを作る人のカルチャー面でのバックグラウンドも気になります。お2人の中で、現在の事業に大きく影響を与えたと感じる作品や文化などはありますか?

玉置:大前提として「AIなんて、人間よりも劣っていることしかできないだろう」という考え方だと、こういうことは思いつかないですよね。そういう意味で一番影響を受けたものはSF小説の『戦闘妖精・雪風』だと思います。人間と一対一の深い関係性を築くことができて、それを絆と呼ぶこともできるといったこともはるか昔に作者の神林長平さんが言っていることでしたし。あとは『銀河ヒッチハイク・ガイド』ですかね。イギリスの小説なんですが、皮肉屋なAIのキャラクターが出てくるんです。そのキャラクターはAIが発展しすぎたせいでうつ病にかかっているAIで。AIのキャラとしてはむしろこういう“尖ってるキャラ”の方が良いなと思っていて、そういった考え方は現在の取り組みにも繋がっているといえます。

明渡:個人的に一番好きなSF作品は『BALDR SKY』というゲームです。その作品の世界では、SFで想像されている様々な技術は大体が実現されていて、そしてそれらが荒廃したあとの世界なんです。自分は「最先端の技術が自然に生活の中に組み込まれている」みたいなものを作りたくて、たまたま話しかけたのが人間じゃなくてAIだったくらいに生活の中に溶け込んでいるといいなと考えていて。テクノロジーそのものに興味があったというよりは、そういった技術が普及した先で人々がどういう生活しているか、という部分に興味があったので、そういった意味でもすごく楽しいゲームです。

明渡隼人氏

――明渡さんのnoteにも「紡ネンがAITuberの起源というつもりはないが、現時点では紡ネンが最もYouTube Ch登録者数が多いAITuberである」と書かれていましたが、ファーストペンギンだったからこその苦労や試練も乗り越えてきたと思います。先ほど玉置さんに「お先にどうぞ」とおっしゃっていただいて開発を始めたという経緯はお伺いしましたが、実際に開発を進めて世に出るまでの期間、特に印象的だったことや苦労した点がありましたらお伺いしたいです。

明渡:ChatGPTがAPIとして提供される以前と以降で全く異なりますが、ChatGPT以降はキャラクターの“性格づけ”が昔より容易にできるようになったんです。でも、少し前――紡ネン時代と言い換えることもできますが――のAIはキャラクター付けが相当難しかったです。大元のモデルをファインチューニングしていじること自体がかなり難しかったので、どうやってキャラクター付けをしていくかというのは、想像を絶する難易度でしたね。

 それと、いまはVTuber市場を参考にもできますが、当時は事務所やプロダクションといった“箱”を作るべきなのかどうかも含め、一切ベンチマークがなかったんです。なので、紡ネンを作っているときは「広い世の中に自分とAIのVTuberの存在だけがある」という感覚で、なにをしたらいいのか、すべきなのか、選択肢が広すぎたのも難しいポイントでした。もはや難しいという概念を超えて、馬鹿なのかもしれないくらいの気持ちでやっていたというのが正直なところでした。

 ただ、配信に来てくれて「ちゃんと学習させてあげよう」という熱心なファンの方が出てきはじめて、段々とその数も増えてきたことで「体験を提供できている」と実感するようになったので、そこは救いだったかなと感じています。

――玉置さんは先程、大企業の懸念として「AIが言ってはいけないことを言うかもしれない」という点があったとお話されていましたが、実際に紡ネンが出て「ごらんげ」を進めていく中で、その懸念をどのように乗り越えていったのでしょうか?

玉置:ChatGPTはこれまでのAIに比べて、そういった不適切な言葉に対するガードがかなり固いんです。言語生成をするAIの中でいうと、これだけ喋れてかつ危なげないものは相当に珍しいくらいで、我々が無理やり発言させない限りは「そういうことをこの場で話すには不適切」みたいなことをちゃんと言ってくれるんです。

 ただ、まともだと今度は敷かれたレールの上しか走れない感が強くなっていくので、キャラクターが増えていくとみんな似たり寄ったりになってしまうんですね。でも、どんなゲームやアニメにしても、ぶっ飛んだキャラの方が人気が出る事例が多いんです。

 なので、今後AITuberの世界ではいかにその枠の中で「ぶっ飛んでるけど一線は越えない」ような面白いキャラクターを作れるか、というのがすごく大事になると思っています。そこが腕の見せ所になってくるので、それはこれまで蓄積したノウハウを活かしながら、GPTでいよいよ本格的に取り組むときにどうしていくかという形になるかと思っています。

――ガードが固くなることは諸手を挙げて歓迎すべきことかと思いきや、逆にキャラクターの幅を狭めかねないという懸念もあるんですね。

玉置:単純にどんな芸能人の方でも、ぶっ飛んでいて面白い人ほどスキャンダルのリスクが高いということと一緒です。そもそも炎上するかどうか以前に、普通に見ているときに過激なキャラクターばかりだと疲れるじゃないですか。そういった塩梅をどうしていくかは難しい部分だと思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる