連載「AI×エンタメの“現在地と未来”」 第一回:AITuber
AITuberが辿ってきた道筋と、その先にある未来 「紡ネン」や「ごらんげ」を手がけるパイオニアたちが語り合う
ここまで人々が当たり前のようにAIの是非について議論する状況を、誰が想像しただろうか。少なくとも、半年前まではそうではなかったはずだ。
世の中の流れが変わったのは、間違いなく『ChatGPT』のリリースだろう。そしてマイクロソフト社のBingにOpen AIの技術が搭載されたこと、GPT-4がリリースされたことなど、大きなトピックだけでも枚挙に暇がない。
ビジネス・テック面でAIについて掘り下げるメディアは多々あるが、エンタメ視点からこの激動するAIの時代について取り上げるべく、今回より連載「AI×エンタメの“現在地と未来”」をお届けする。初回は「AI」×「VTuber」という新たなジャンル『AITuber(アイチューバー)』事業を手がける代表的なプレイヤーとして、「紡ネン」や「AI CAST(アイキャスト)」などを手がける株式会社Pictoria 代表取締役 CEOの明渡隼人氏と、AI実況者育成番組「ゴー・ラウンド・ゲーム(ごらんげ)」や「プロジェクト・メロウ」、「プレイBYライブ」などを手がけるバンダイナムコエンターテインメント 第2IP事業ディビジョン シニアプロデューサーの玉置絢氏が登場。かつてより関係の深い二人に、AITuber事業をはじめるまでの背景や、ルーツにあるカルチャー、現在のAIをめぐって激変する世の中に感じることなどを聞いた。
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実は2019年ごろから計画されていた「AITuber」構想
――まずはお2人の関係性からお伺いできればと思います。元々ご交流がおありなんですよね。
玉置:そうですね。元々、2019年の末に「2人で何かやろうよ」という話をしていて、その時にAIのVTuberにチャレンジしようか、と盛り上がったんです。そうして出来たのがPictoriaさんの「紡ネン」、バンダイナムコエンターテインメントの「ゴー・ラウンド・ゲーム(以下、ごらんげ)」。やがては「プロジェクト・メロウ」にもつながる企画でした。
――それはお互いに持っていた構想を持ち寄ったんですか? それとも別のトピックについて話してるうちに「AITuberが面白そうだ」という話になったんでしょうか。
明渡:玉置さんの方では、AIを活用したいろんなコンテンツを作ろうという流れがすでにあったんです。Pictoriaは「斗和キセキ」からVTuber事業を手がけてきて、配信や動画投稿の知見がある中で、次は技術的、文化的なチャレンジがしたいと思っていたところでした。そこで、AIを使ったコンテンツという玉置さんの発想と合体したものをやってみようという流れだったと思います。
玉置:私の方では主に、AITuberを始める切っ掛けとして3つのパーツがあるんですが、元々は「ごらんげ」と全く関係のないAIのゲームの企画を考えていたんです。その中で、どうせだったらAIがゲームを遊んでいる様子をリアルタイムでYouTubeに流したり、ゲームのキャラクターが音楽を流しながら喋ったりといったことができないかと考えていたんです。そこで「AIのVTuberを作ればいいのでは」という考えを持っていたのがひとつめのパーツです。
ふたつめは、『Among Us』とか『Fall Guys』は明らかに配信に映えることがヒットのトリガーになっていて、逆算したときに、今後ゲーム実況で盛り上がるゲームを作る、という考え方をする人は増えるだろうなと思っていたことです。
そして2019年くらいに、ホロライブの白上フブキさんに『エースコンバット』のゲーム実況をして頂いたんですが、そのときに白上フブキさんを見て「次の『エースコンバット』ってアニメキャラクターみたいな見た目のパイロットが出てくるのか」と勘違いするコメントを見かけたんです。それで「そうか!」と気づいたのですが、VTuberってどこまでがゲームの登場人物で、どこまでがゲームの外の実況者なのかが分からない境界線上の存在であることが面白いなと。そういったことがヒントになりまして、VTuberによるゲーム実況をきっかけにゲームが流行るのなら、VTuberとゲームをもっと融合させたものが、今後世に出てきてもおかしくないなと思ったんです。
三つめが、明渡さんのPictoriaがVTuberにも強い開発会社であること。開発能力も持っていて、なおかつVTuberも得意なのであれば、ゲームを遊ぶVTuberのAIを作るのがいいのではないかと考えたことです。
明渡:そんな流れで、「ごらんげ」の場合だとゲームを踏まえてより大きなサービスとしてやっているわけですが、うちはうちでクイックに動こうという考えで2020年の11月に紡ネンを出したんです。そういった意味ではスタートアップ的なカルチャーを持つ弊社と、深く大きく考えるバンナムさんが奇跡的に噛み合った結果なのかなと思います。
玉置:そうですね。とりあえずAIのVTuberというのが決まったあと、明渡さんから「紡ネンを出していいですか」と言われたとき、即断でお先にどうぞという話をしたんです。なぜかというと、当時の弊社でのAIに対する一番の懸念として「リアルタイムで言葉を作って話すAIによくある問題発言をしたらどうするんだ」という議論があって。それは後に起きる「Neuro-sama」の事件(※1)から振り返ると、正しい指摘だったんです。なので、雑談系のAITuberについてはそこが解決するまでの間、フットワークが軽いPictoriaさんに先に始めてもらい、バンナムの取り組みとしてはAI配信のコツやトラブル対処のベテランとなったPictoriaさんの知見を後から共有してもらった方がいいなと。現在はそのベテランと一緒にパートナーを組んだ状態で、うまく当初懸念の問題に対しても強いGPTのようなAIがリリースされたので、すごくいい流れになってきています。
(※1:Jack Vedal氏が開発したAITuber「Neuro-sama」が、配信において倫理的な問題発言をして、配信プラットフォームの「Twitch.tv」においてアカウントがBANされた事件)