メタバース普及によって「増える仕事」と「減る仕事」は? 専門家が語る、“メタバース定着後の未来”と“日本での普及が滞る原因”
日本はメタバースの普及が遅れている
――そもそも、日本はメタバースの普及が遅れているのですか?
井上:はい。その理由としてメタバースに興味のある人が比較的少ないことが挙げられます。世界経済フォーラムの調査結果によると、「VRやARを含む現実世界と仮想世界を融合させ、新たな体験をつくり出す技術“エクステンデッド・リアリティ”を日常生活で使うこと」に肯定的な感情を抱いているのは、中国(78%)が最も高く、次いでインド(75%)と約8割。翻って日本(22%)は主要国で最低でした。
(参考:How enthusiastic is your country about the rise of the metaverse?)
――普及の道のりは遠そうですね。
井上:ただ、VRを使用しないメタバースは日本の一部の若者の間で流行っています。スマホで使う『ZEPETO』のように、メタバースと意識することなく使っているケースも珍しくありません。最近では、スマホ向けメタバースSNSアプリ『Bondee』が話題になったり、しています。その他、『フォートナイト』や『Roblox』が小中学生の間で流行っており、徐々に広がりを見せつつあります。
――参入する企業の多さも普及に影響しそうですね。
井上:そうですね。日本でもメタバース参入を始める企業は増えています。ただ、それは「既存のメタバースをビジネスに活用しよう」という範囲に留まったケースばかりです。
――何か不満がありそうですが?
井上:日本はメタバースのプラットフォーム、VRデバイスでは遅れをとっています。プラットフォームでは韓国の躍進が著しく、デバイスではPICOなど中国勢が目立っていますね。
――活用する側に回ってしまうと、海外企業のほうが多く儲けられそうな……。
井上:はい。プラットフォームやデバイスでの主導権を握れなければ、メタバースで最も収益をあげられる部分を海外に持っていかれることになります。それではGAFAのような企業は日本から育たず、大きな経済的損失にもなるでしょう。
――先程「メタバースはお金をかけずに楽しめる」という指摘がありました。つまりは日本が今後もデフレを脱却できない場合、メタバースの普及率は加速するのでしょうか?
井上:実際、東南アジアのような発展途上国のほうがメタバースに興味を持つ人の割合が高いです。ただそれは、そういった国の人たちは上昇志向があるため、メタバースやNFTといった新しいものに興味を持ちやすいからだと推察されます。
――日本とは少々事情が異なりそうな……。
井上:日本は長らく経済停滞が続いた結果、他の国と比べて相対的に経済衰退しているような状況です。発展途上国の人たちとは違って上昇志向の欠如が顕著な状態に陥りつつあります。
新しい技術に興味を示さない人が多い傾向があります。消費や投資に対する消極的な心理状態“デフレマインド”が、長期間のデフレ下によって根付いた結果でしょう。また、「デフレのためにお金がなくてVRデバイスを買えない」という人も少なくないことも影響しているかもしれません。
――こと日本においては経済状況と普及率に相関はあまりなさそうですね。
井上:とはいえ、「お金がないのでメタバース内で遊ぶ」という傾向もあり得ます。インターネットと同様に一度普及してしまえば、そこに入り浸る人は増えるでしょう。VRデバイスが手に入りやすくなれば変わるかもしれません。
――具体的に日本でメタバースを普及させる方法はありますか?
井上:バーチャル美少女ねむさんのような方が、どんどん地上波でメタバースの面白さを伝えるといいと思います。また、いまのままでは、多くの人はVRデバイスを買う余裕がないので、根本的には経済停滞から脱却することが重要ですね。
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