マンガ家・山本さほが語る“ゲーム観”――「私にとってゲームとはご飯を食べるようなもの」

マンガ家・山本さほが語る“ゲーム観”

なにかしらの試練を乗り越えられたときに感じる“ゲームの楽しさ”

――『moon』にハマっていた当時は小学校高学年だったと思いますが、当時、将来はどのような職業に就きたいと思っていましたか?

山本:そのときは、うっすらとですが“マンガ家になりたい”とは思っていました。休み時間にマンガを描いて友だちに見せたりもしていましたから。

 さらに当時は、幼なじみ数人に遊んでもらうためだけに、『RPGツクール』でかなりの大作を作ったりもしていました。

 クラス全員をキャラクターとして登場させて、ひとりずつ何かしらが原因で死んでいく、というストーリーのRPGだったのですが(笑)。

 それをせっせと作りながら「このネタなら、幼なじみも笑うだろうな」と、頭のなかで思い浮かべる"笑い顔"がそのときの原動力でしたね。

 マンガを描くのも、ゲームを作るのも、本当に楽しかったんです。単に「人を楽しませること」をやりたかったんだろうな、と思います。

 いま振り返ると、友だち1~2名を笑わせる、というモチベーションだけで、よくあそこまで労力をかけてやっていたな、と、思いますけど(笑)。

 さすがにいまはもう、その幼なじみを笑わすためだけに、何十時間もかけて、ゲームは作れないです(笑)。

――なお、ゲームで遊んでいて、どんなところが楽しいと感じますか?

山本:自分が上手くなったとき、なにかしらの試練を乗り越えられたときに楽しさを感じますね。

 FPSなどの対戦ゲームは、よりわかりやすくて、勝負に勝ったときに大きな喜びを感じます。

 私はこれまでの自分の人生で、あまり人に勝てることがなかったと言いますか、たとえば、勉強がすごく出来たり、運動が得意だったりと、人に勝ってきた経験がそんなになくて……。

 そういう勝利体験や成功体験が、誰でも簡単に味わえるのは、ゲームだからこその魅力のひとつで、そういう部分が好きなんだと思います。

 同時にゲームは、コミュニケーションツールとしての楽しさもありますよね。

 じつは、30歳を越えてから、(学生時代と違って)新しい友だちってだんだんできなくなってくるな、と感じていたんです。

 でも、共通のゲームの話題で盛り上がったりすると、初めてお会いした人でも「じゃあ、こんど一緒に(オンライン)ゲームをしましょう」と、気軽に“ゲーム友だち”になれるんですよね。

 そういう意味では、最近の私にとって、ゲームは“大人になってから友だちを作るツール”になってきました。

 また、オンラインゲームは誘いやすい、というのもありますね。「今度飲みに行きましょう」、「買い物に行きましょう」など、一緒に出掛けたりするようなことだとなかなか急に誘いにくい場合もありますけど、その点ゲームならば、「『オーバーウォッチ2』をやってるのなら、こんど一緒に(オンラインで)遊びましょう」と、気軽に誘いやすいんですよね。

山本さほ

――これまでの人生において、分岐点になったゲームはありますか?

山本:マンガ家になる直前に、『コール オブ デューティ ブラックオプス2』にめちゃくちゃハマってまして、トータルで1000時間以上プレイしていたんです。

 当時は、アパレル店員として働いていたのですが、仕事が終わって家に着くのが21時ごろ、そこから寝るまで毎日3~4時間ほど遊んでいました。

 そんな折に、友だちに「マンガ家になりなよ」と説得されて、『岡崎に捧ぐ』を描き始めたんですけど……。

 じつは、そのときにかなり悩みまして、もしマンガ家を目指すならば、『コール オブ デューティ ブラックオプス2』を遊ぶはずだった時間が、マンガを描く時間に割かれてしまう、と(笑)。

 冗談のような話ですが、本当に悩んだんですよ(笑)。

 そんななか、一大決心をしてゲームを遊ぶのを我慢し、半年かけてマンガを描き、それをネットで公開したことで話題に取り上げていただきました。

 そのおかげで、このように晴れてマンガ家になれたので、まさに『コール オブ デューティ ブラックオプス2』は人生の分岐点となったゲームだと思っています。

 当時、『コール オブ デューティ ブラックオプス2』を選んでいたら、何かしら違う仕事をしている“ただのゲーム好きな人”、になっていたと思います(笑)。

――ちなみに、マンガ家になるうえで、ゲームから受けた影響はありますか?

山本:正直、それはあんまりないんですよね(笑)。

 ただ、私はこれまでに、ものすごい時間をゲームに費やしているので、お仕事(マンガ家)うんぬんではなく、私という人間そのものがゲームの影響を受けて形成されているんだと思います(笑)。

 マンガ家になる以前は、ゲームに携わる何かしらの仕事に就きたい、と考えたこともあります。

 それこそ、就活をしていた時期に、さきほどお話したラブデリックに入社したいと思い調べたこともありました。

 ただ、そのときには、もうラブデリックは解散していて、新たにスキップ、バンプール、パンチラインという3社に分かれていたんです。

 そこで、その3社に「新卒採用は受け付けていませんか?」とメールを送ったのですが、私がゲーム開発未経験ということもあり、「現在は、経験者の中途採用のみしか受け付けておりません」と、それぞれ丁寧にお返事をいただいたんです。

 もしそこで採用されていたら、ゲーム開発の仕事に就いていた可能性もありますよね。

 とはいえ当時は、ゲームを作るのにどういう役割の人がいて、どういう流れでゲームが作られるのかもまったくわかっておらず、「ラブデリックの作品が好き」という熱意だけでメールを送っていました(笑)。

愛用のバックパックにつけられた『moon』のロゴのキーホルダー。

――現在はどのくらいの時間をゲームに割いていますか?

山本:ほぼ毎日、1日5時間は遊びます。

 自宅で仕事をしているので、丸1日、家から出ないことも多いんですよね。寝てるか、仕事をしているか、ご飯を食べているか、ゲームをしているかのどれかです。

 「毎日、よく5時間もゲームができるよね」と思われるでしょうが、会社勤めの方の通勤時間や、仕事終わりに飲みに行く時間などをゲームに充てていると思っていただければ(笑)。

 けれど、ぶっ通しで5時間プレイしているわけじゃないんです。

 私は、ひとつのゲームをじっくり、ではなく、いろいろなゲームをちょこちょことつまみながら遊ぶことが多いんです。ですので、1日トータルで5時間という計算です。

 また、用途によって、プレイするゲームを分けています。

 軽くサクっと遊びたいときは、Nintendo Switchの携帯モードでゲームを遊んだりします。たとえば、『スプラトゥーン3』のバイト(サーモンラン)とか。

 また、仕事が終わったら、ボーッと気楽に楽しめるようなゲームをプレイすることが多いのですが、最近はRTS(リアルタイムストラテジー)の『ノースガード』にハマってます。寝るまえに“3戦”プレイする、というのをここずっと日課にしています。

 それと、仕事に煮詰まったら、一度中断してストレスが発散できる作品をやることが多いです。最近ですと、FPSの『オーバーウォッチ2』を1試合だけやって、また仕事に戻ります。

 このように、休憩用、寝るまえ用、ストレス発散用など、遊ぶゲームを分けているんです。

 いろいろなゲーム機で遊ぶことが多いので、、私のデスクはゲーム機のコントローラーだらけです。Xbox Series X、プレイステーション5、プレイステーション4、そしてNintendo Switchのプロコントローラーなどが置きっぱなしでごちゃごちゃしていますね。

ゲームで遊ぶことは、自分を映し出す“鏡”のようなもの

――ゲームで遊びながら、マンガのネタを考えたりもするのですか?

山本:『週刊ファミ通』で連載中のゲームエッセイ『無慈悲な8bit』は2015年にスタートし、気が付けばもう7年も連載させていただいています。

 連載開始まえは「ネタ切れしたらどうしよう」、「週1連載だけど毎週ゲームを遊ぶかな」、「ゲームを仕事にしてしまったら楽しくなくなってしまうかな」と、思っていたのですが、そんなことは一切なく全然大丈夫でした!(笑)

 ちなみにマンガのネタにはしてないけれども、遊んでいるゲームはめちゃくちゃたくさんあります。たぶんネタにしているのは、プレイしているゲームの半分くらい。

 そう考えると1週間に最低でも1本以上はなにかしらのゲームをプレイしている計算です。それを7年間続けていると思うと、自分ながらにちょっと怖いですね(笑)。

――非常にたくさんのゲームを遊ばれていますが、どのようにして面白いゲームを見つけているのですか?

山本:基本はすべて、友だちからの口コミです。

 「今度こういうゲームが出るよ」、「このゲームは面白いらしいよ」など、LINEで送ってきてくれるんです。

 なお、ゲーム仲間のLINEグループが3つほどありまして、そこから情報を仕入れることが多いです。そのなかで、自分に合いそうだな、という作品があれば購入するようにしています。

 もちろん私も、面白いゲームの情報をネットで見つけたら、すぐにそのリンクをみんなに送ってます。

――今後、発売されるゲームで期待している作品は?

山本:断然、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(2023年5月12日予定)ですね。

 もういまから覚悟しています。仕事が手につかないことに対しての……(笑)。

 前作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を遊んだときの衝撃が凄くて、あのときのゲーム体験は本当に素晴らしいものでした。

 自分では、どんなに面白い作品でも、途中でゲームを中断して他のことができるタイプの人間だと思っていたのですが、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は、初めてそれが制御できないほどのめり込んだ作品だったんです。

 ご飯食べることも寝ることも惜しんでハマるという、初めての経験だったので、最新作もとても期待しています。

 ただ、今回もハマりすぎて筆が進まず、お仕事先の方々には迷惑をかけてしまうかもしれません。この場を借りて先に謝っておきます(笑)。

――ご自身にとって、ゲームとはどのような存在ですか?

山本:“ご飯”と同じですね(笑)。

 誰でも“ご飯を食べたくなくなること”はないじゃないですか。それと同じです(笑)。

 もちろん、同じゲームを何十年もやらされていたら、さすがの私も「もうやりたくないよ~」と思いますけど、ゲームって時代に合わせてずっと面白い作品が出続けているわけです。

 しかも、コンシューマーゲーム、パソコンゲーム、スマホゲーム、アーケードゲームをあわせると1週間に、何十本という新作がリリースされているじゃないですか。

 ゲームメーカーさんやゲームクリエイターさんの努力で、それが今後もずーっと続いたら、まさに一生飽きることがないんじゃないかな、と思うんです。

 さらには、最新作だけではなく、昔のゲームを掘り起こせば、私好みの面白い作品も山ほどあるはずです。

 そう考えると1日5時間でも、全然遊び足りないと思います!

――では最後に、ゲームから得た人生の教訓は?

山本:ゲームで遊ぶことが自己分析に繋がっているかな、と感じることはあります。

 たとえば、ゲームに負けるとすごく怒る人っているじゃないですか。

 でも、私は負けてもまったく怒らないですし、そういう意味では、「私は負けず嫌いじゃないんだな」と感じたり。

 あと、RPGなどで、長文のメッセージやセリフがあると、だんだん読めなくなってくるんですよ。そんなときは、「ああ、私って集中力がないんだな」と(笑)。

 そういう、たくさんの“自分に対する気付き”がありますね。

 そのような意味では、私にとってゲームはまさに、自分を映し出す“鏡”のような存在でもありますね。

本人いわく、ゲーム関連のグッズやウェアが大好きだそう。取材当日は、プレイステーションのスニーカーとソックスで来てくれた。

■関連リンク
山本さほ公式Twitter: https://twitter.com/sahoobb
山本さほ公式Instaram:https://www.instagram.com/saho_yamamoto/

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