“大工歴50年”のYouTuber・大工の正やんが語る過去と業界の実情 「寝る暇もないほど働いていた」
“職人”の父と“職人じゃない”息子
──「大工の正やん」チャンネルでは、正やんの職人姿と、実際の建築現場について紹介していますが、撮影しているのは息子さんの啓太さんなんですよね。
船井啓太(以下、啓太):そうですね。基本的に撮影・編集は僕が行っています。
──なぜ父である正やんさんを動画に出演させようと考えたのでしょうか?
啓太:僕が海外に何年か出向く予定だったのですが、コロナになり頓挫してしまって、何もすることがなくなってしまったのがきっかけです。チャンネルが生まれたきっかけは、本当に偶然でしかないんですよ(笑)。自分の側で親父が何十年も大工を続けていたので、それを試しに発信してみようと思いました。
──偶然の産物によるコンテンツだったんですね。
正やん:私はYouTubeという名前は知っていましたけども、見たことなんてありませんでした(笑)。正直、わしの仕事なんか誰が見るんやろうなと思っていましたよ。でも、今となってはこんなに多くの人に見られるんやなと、驚いていますね。早めに結果が出てよかったです。
啓太:始めたころは、半ば無理やり撮影させてもらっていました(笑)。YouTubeで発信するというのはどういうことなのかについて、親父に説明するのはなかなか難しかったので、制作していくなかで覚えていってもらえたらいいなと。
──それがいまや、動画投稿を始めて2年で登録者数約47万人(2023年1月時点)と、かなりの勢いで人気が出ていますよね。
啓太:ありがたいことに、たくさんの方に大工職人の世界を届けられているのかなと思います。ただ、このチャンネルは親子だからこそ実現しているのかなと。
──それはどういうことでしょうか?
啓太:特に撮影は僕じゃないと難しいかなと思っていて。仕事をしている間、ずっとカメラを向けられ続けるって、撮影者が他人の場合はきつく、プレッシャーも大きいと思うんです。親子という関係性だから苦になりにくかった。あとは、僕が大工職人ではないというところも、動画の強みになっているのではないかと分析しています。
──啓太さんは大工職人の仕事に携わった経験はないのでしょうか?
啓太:まったくなかったです。大学もIT系の大学だったので。でもそれが逆に良かったなと思います。動画は親父にナレーションを入れてもらっているんですけど、当然親父は職人の使っている言葉で話したり、職人の目線で話したりします。同じ大工職人さんが聞いたら理解できると思うのですが、僕と同じような一般の方がそれを聞いたら、意味が伝わりにくい部分が出てきてしまうんです。だから一度僕が親父のナレーションを聞いて、意味がわかるように少し組み替えてから動画に落とし込めば、もっと見てくれる人の幅が広がるのではないかと予測しました。最初はとにかく表現の部分にこだわりましたね。
──職人である正やんさんと、そうではない啓太さんのコンビだからこそ、専門的な話をわかりやすく噛み砕いて発信できたのですね。
啓太:親父が普通に発した内容が職人にしか伝わらないのではないかという問題が起きることは、活動を始める当初から懸念していたことだったので、2本目の投稿あたりからこの方法は実践していました。今は、親父もある程度噛み砕く必要がある部分はどこなのかが掴めてきたみたいで、そのままナレーションを載せることもあります。あとは、福井の方言が出すぎてしまったときに、少し修正するくらいですね(笑)。
──正やんさんがコンテンツの「源」、啓太さんが「分析・発信」と、役割のバランスが上手く取れているんですね。啓太さんは分析をどのようにして行っているのでしょうか?
啓太:1番参考にしているのは、動画をアップしたときに反映される、「アナリティクス」です。視聴者さんがクリックした箇所や離脱した箇所の統計を客観的に見て、ユーザーの反応を次の動画に落とし込んでいます。コメントはあまり分析の対象にはしていませんね。なぜかというと、コメントをしている人の割合は、視聴している総人数に比べて、圧倒的に少ないからです。ほとんどの人がコメントをせずに動画を見ているということですよね。
──なるほど。
啓太:それよりは見ている人全員の反応がわかるデータを元に分析した方が、客観的に動画の改善点を考えることができるのではないかと思ったんです。今はアナリティクスを中心に、日々分析・修正をしていますね。
ジャンルは違えど“モノを作る”親子
──親子であるお二人にとっては少し気恥ずかしい質問かもしれませんが、お互いが尊敬しているところはどんなところだと思いますか?
正やん:結果を出しているところですね。私はネットの世界のことは全然わからないので。息子は自分で調べて、研究するのが好きなんだなというのが、見ててわかります。それがちゃんと結果となっているので、海外に行くことはできなかったけど、ちょっとだけ人間として前に進めているのではないですかね。
啓太:実はこの活動をするまで、親父の仕事場を見に行ったことがなかったんです。だから、本当に家を建てている人なんだっていうことがわかると、「すげーっ!」と素直に感動しました(笑)。あとは絶対に妥協しない職人だということですね。そうじゃないと職人として終わる、という考えでやってきた人なので、そこはすごいなと思っています。
僕もけっこう頑固なタイプなんですけど、親父はその10倍くらい頑固なんです(笑)。だから僕たちはいつも喧嘩しているので大変なんですけど、何かを追求して良いものを作りたいというところは一緒なのかなと思うので、そこはやはり親子なんだなと感じますね。
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