“大工歴50年”のYouTuber・大工の正やんが語る過去と業界の実情 「寝る暇もないほど働いていた」

“大工歴50年”のYouTuber・大工の正やんが語る過去

 50年もの間現役で活躍している、ベテラン大工職人・正やん。長年培った確かな技術と、福井弁が混じった素朴なナレーションが、YouTube上で人気を博してる。

 時代の流れにより失われつつある古来の建築技法や、なかなか見ることのできないアングルでのリアルな建築現場の様子が魅力的な大工の正やん。今回はそんな正やんと、撮影から編集までを担当する実の息子・船井啓太氏に話を聞いた。(はるまきもえ)

知られざる正やんの下積み時代

──正やんさんは大工のお仕事を始めてどのくらい経つのでしょうか。

正やん:中学卒業後に大工の世界に入ったので、もう50年になりますね。

──50年! 大ベテランですね。大工になろうと思ったきっかけは?

大工の正やん

正やん:うちは船大工の家系だったんです。私で4代目になります。当時は船の材料が木材からプラスチック製へと変わっていった時代だったので、船大工の仕事はなくなりつつありました。だから、自然と建築の大工職人を目指すようになったんです。

──大工以外のお仕事をするという道は考えなかったのですか。

正やん:ものづくりがもともと好きだったので。私は組織の中で働くことがあまり向いていない性格なので、会社員はできんやろな、と思います(笑)。

──大工のお仕事は親方から教わったのでしょうか?

正やん:工務店に入ってからは、兄弟子から仕事を教わりました。最初の1年は、まず雑用ですね。朝、親方の家に行って扉を開けてロープで括り、作業場に行って掃除をして、砥石なんかの整理をしてから1日が始まるんです。工務店の規模にもよりますけど、だいたいいつも建設する家を2〜3軒掛け持ちしているので、雑用係がすることはけっこうありまして、最初の1年はそれで終わりますね。

──やはり、すぐに作業をやらせてもらえるわけではないんですね。

正やん:人数が少ない工務店だと分かりませんが、私が入ったところは8人いましたので、すぐに技術的なことを教わるのは難しかったですね。それから何年か修行して1年御礼奉公をし、私は10年目になる年に「独立したい」と親方に言いました。

 独立には2パターンあって、家1軒を丸々請け負うものと、大工仕事の部分だけをいただいて、その分の仕事をしてお金をもらうものがあります。独立して最初の2〜3年は、私も家1軒の建築を丸々請け負っていたんですけど、家を1軒建てるということは、まず1軒分の資金を用意しなければいけないということなので、それが大変でしたね。

──当時はあまりお金がなかったんですか。

正やん:ほとんどなかったですね。それでも、独立して2年目のときに自分の家を建てて、それとは別に仕事で建てる家を2件掛け持ちしている時期なんかもありました。そのときはさすがに寝る暇もないほど働いていたので、大変でしたね。いまに至るまで、いろんなことがありましたよ。

──50年もの間、大工職人をされている正やんさんですが、昔と今で業界にどのような変化があるのでしょう。

正やん:建築の依頼数は昔も今もあまり変わらないのですが、昔に比べて今は、工期が圧倒的に短くなりましたね。昔は木1本1本から材料を切り出す“手刻み”という方法で家を建てていたのですが、今は“プレカット”と言って、工場ですべて材料を切り出して運んできてくれるんです。それによって、1年に1軒のペースで家を建てていたものが、3ヶ月で1軒建てれるようになりましたね。

──それは大きな変化ですね。

正やん:工期が短い分人件費なども減るので、費用の面でもそちらの方が安くすみます。作業量も少なくなり、効率化されましたね。

──手刻みを経験している職人さんと、プレカットしか経験していない職人さんでは、仕上がりに違いはあるんですか?

正やん:いえ、そんなことありません。職人さんの技術があれば一緒だと思います。建築技法や家の建て方は時代によって変わってきますが、妥協しない職人であることがいつの時代でも大事だと思っていますよ。

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