『Weekly Virtual News』(2023年1月10日号)
MR路線のHTC、超軽量型のシャープ、跳ね上がる機能のShiftall……『CES 2023』で飛び出してきた新たなXRデバイスたち
2023年の幕開けからほどなくして、世界最大の技術見本市『CES 2023』が開催された。テックの最前線である一大イベントに、今年もXR・メタバースに関わるものが集まった。
注目の新顔は、HTCの新顔『VIVE XR Elite』だろう。ハイエンド路線のスタンドアロン機種であり、なおかつフルカラーパススルー機能なども備え、MR路線も視野に入れた一台だ。重量は約625gとやや軽めだが、バッテリーを取り外すことでより軽量なメガネ型へと変身する。同社のメガネ型デバイス『VIVE Flow』の後継とも捉えられるだろう。
価格も税込179,000円とハイコストだが、『Meta Quest Pro』も志向する「VRとAR・MR両対応」という路線も見据えた、未来的かつ野心的なデバイスと言えるだろう。長らくXRデバイスの展開が控えめだったHTCにとって、大きな一打となることを期待したい。
Shiftallのメガネ型VRヘッドセット『MeganeX』の全容も発表された。5.2KのマイクロOLED採用の高画質・高表現力が、約320gという軽量なメガネ型フレームに詰まった一台だ。手軽なつけ外しが望まれるビジネスシーンや、長時間の連続使用が見込まれるVRメタバースユーザーにも適している。ただ、明らかになった税込249,900円という価格を前に、コンシューマ層の多くは息を呑んだだろう。しばらくはtoB向けの運用がメインとなりそうだ。
Shiftallはもう一つの隠し玉を用意していた。VRコントローラー『FlipVR』だ。このコントローラーは、ボタンやサムスティックが設置された操作バネルが手の甲側に”跳ね上がる(フリップアップ)”という、ユニークな機構を備えている。手の平がフリーになることで、飲み物を手に取る、楽器を演奏する、キーボードやマウスを動かす、といった操作をやりやすくなる。特に『VRChat』ヘビーユーザーなどから熱視線が注がれる、野心的なVRデバイスだ。
続々と国内大手企業が名乗りを上げているXR・メタバースデバイス業界に、シャープも参戦する構えを見せている。『CES 2023』でも展示されたプロトタイプは、約175gのとても軽量なゴーグル型のデバイスで、独自機構もいくつか見られる一台になっているようだ。スマートフォン接続での使用が前提となっているらしいが、プロトタイプなので本採用される仕様かどうかは読めない。最終形は未知数だが、シャープの参入によって、国内企業による競争はさらに加速するだろう。
『PlayStation VR2』や『mocopi』を控えているソニーは、「CES 2023」では幅広い発表を行った。EV(電気自動車)や、『グランツーリスモ7』『Beat Saber』の『PlayStation VR2』対応、バーチャルプロダクションや新型空間再現ディスプレイなどなど。そしてサッカークラブ「マンチェスター・シティ」との協業と実証実験の開始は興味深い取り組みだ。
発表によれば、マンチェスターシティのホームスタジアム「エティハド・スタジアム」を再現したメタバースを作成し、アバターとなってサッカー観戦・応援を楽しめる場を提供するようだ。
イメージ映像では、アバターのエモートでほかのユーザーとの連帯感を楽しんだり、3DCG化された試合のリプレイを、好きな角度や選手視点からチェックできるコンテンツを体験できる様子が描かれている。メタバース上にコミュニティを作り、ファンのエンゲージメントを最大化する試みになるとのことで、今後の具体的な展開にも注目したいところだ。
このほかにも、東北大学発ベンチャー・エーアイシルクによる、導電性繊維だけで作られた触覚グローブや、法人向けハイエンドVRデバイスを手掛けるVRgineersが発表した「パーツ購入で自由にカスタムできる」という触れ込みのVRヘッドセット「Somnium VR1」など、『CES 2023』に向けて新たなデバイスが次々に登場している。私が耳にしていない情報もまだまだあるだろう。
さて、この中で芽を伸ばすのは一体どれか。幾度目かの「VR元年」とも、「メタバースの幻滅期」とも捉えられる、2023年。XR、メタバース、そしてプレイヤーたちの活躍と、幅広い動向が絡み合う新たな一年が始まる。