VR業界、VTuber業界、そしてVRChat――三者三様の「師走の慌ただしさ」を見る

三者三様、バーチャル界隈の「師走の慌ただしさ」

 師走の慌ただしさが加速している。特に12月17日、Metaの顧問CTOであるジョン・カーマック氏が退社したという報せは、業界に大きな衝撃を与えたことだろう。Oculusの時代からVRに注力し、一体型VRの先駆けとなった『Oculus GO』の開発にも関わった逸材が、Metaから去ることになった。

 去り際のコメントでは、現在のMetaのポジションにはポジティブな見解を示す一方、「効率性」については毅然と批判している。これを「反りが合わなかった」と見るか、根本的な問題の指摘と捉えるか。いずれにせよ、コアな人材が消えたMetaの先行きは、またひとつ不安材料を抱えることになるだろう。

 VTuber業界も慌ただしい。この時期にはよくあることだが、引退報告が続いている。2018年から活動してきた『Re:AcT』の射貫まとい、動画クリエイターとしても活躍している『のりプロ』の鬼灯わらべ、人気が高まってる『NIJISANJI EN』のYugo Asumaなど、著名どころの引退が相次いで発表された。

 公式の文面に「容認できない点が多々ある」とまで記され、卒業配信もスキップされたYugo Asumaと、卒業後も動画クリエイターとして関わり続ける鬼灯わらべは、明暗を分けるような終わり方でもある。いずれにせよ、年の瀬はなにかとキリが良いタイミングなのはたしかだ。

【祝!】月ノ美兎 登録者100万人達成!

 よろこばしいできごともある。『にじさんじ』所属の月ノ美兎が、ついにチャンネル登録者数100万人を達成したのである。2018年2月にデビュー以後、『にじさんじ』全体を、ひいては以後のVTuber業界全体にも影響を与えた逸材が華々しい大台に届いたのは、いちファンとしても感慨深い。

 いまなお常識に囚われない活動を続けている月ノ美兎だが、達成記念に出されたコメントが「わたくしの人生を面白くしてくれてありがとう!!」なのも、なんというか彼女らしい。来年も我々に驚愕と笑顔をもたらすような活動を期待したい。

 ソニーのモーションキャプチャデバイス『mocopi』が話題をさらっているVRデバイス業界では、まだまだ慌ただしい動きが続く。『mocopi』最大の対抗馬と目されている『HaritoraX』を手掛けるShiftallが、にわかに新型フルトラッキングデバイス『HaritoraX ワイヤレス』を発表したのである。

 センサー同士が有線接続されていた従来機種と違い、『HaritoraX ワイヤレス』は全てのセンサーが独立し、PCやスマートフォンと接続する。各センサーも小型になり、稼働時間は約20時間と『mocopi』の倍だ。従来機種の上位モデルではないとのことだが、「小型で長時間動く」という特徴に惹かれるユーザーは多いだろう。販売予約は来年3月から4月、発送は6月予定だ。

 自分の手をまるごとVRに持っていくことも、そろそろ叶いそうだ。12月17日に、Diver-Xが手掛けるグローブ型VRコントローラー 『ContactGlove』が、『Kickstarter』にて先行予約が始まったのである。翌日に確認したところ、目標値は達成済み。注目度の高さがうかがえる。

Playing VRChat with ContactGlove

 『ContactGlove』は手にはめるグローブであり、繊細な指の動きをくまなく取得できる。さらに、指の動きを用いてボタンやスティック操作といったコントローラー入力を行うことができる。言ってしまえば、自分の手で自由に仮想世界を歩み、操り、触れることができる。VR没入感をより一層高める、期待のデバイスだ。

 『VRChat』方面は相変わらず動きが活発だ。複合施設「渋谷キャスト」と東急株式会社は、VR・AR・現実世界をまたがって展開するプロジェクト「トリプルキャスト」を発表した。その第一弾企画は「バーチャルエアレース」だ。『VRChat』に再現された「渋谷キャスト」で、空を飛ぶマシンに乗ってレースを楽しめるワールドが公開中だ。

 ワールド制作には、建築設計事務所「NOIZ」と、多くのワールド制作を手掛けてきたVoxelKei氏も関わっている。実際、このエアレースで使われるマシンは、過去の同氏制作ワールドでたびたび登場した飛行ギミックに近く、手触りはかなり良好だ。「渋谷キャスト」ではこのエアレースを皮切りに、さらなるリアルとバーチャルの垣根を超えた取り組みを展開するとのことだ。

 昨年、一足早く『VRChat』に乗り込んだ日産自動車も、継続的な取り組みを展開している。12月15日に、バーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」がアップデートされた。機能追加によって使い勝手が向上したほか、年末まではホリデーシーズン仕様となった。銀座の交差点に大きなクリスマスツリーが現れており、気分はすっかりクリスマスだ。

 同日には、アップデート記念として日産のデザイナーによる講演が行われた。主な内容は「日産自動車のデザインの歴史や手法」について。とはいえ、おカタい話ではなく、プロダクトデザインの歩みや最前線についてわかりやすい説明が広がる、企業ならではのコンテンツだった。登壇者と参加者の距離感も近く、企業のメタバース活用として地に足ついた取り組みを続けてきている印象だ。

 先週はなかなかに密度の高い一週間だったと言えるだろう。しかし、師走の慌ただしさはまだまだ続くのではという予感がある。今年も残り2週間程度だが、できる限りバーチャルな業界の動きをこの連載でお伝えできればと思う。

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「ヴァーチャルユーチューバーは、わたくしにとって天職なのかもしれない」  これは月ノ美兎が活動をし始めた最初期、Youtube…

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