連載:100万回再生される「笑い」の法則(第三回)
「ツッコミだと視聴者に見たいと思わせるのが難しい」芸人・きしたかの&スタッフが語る”怒らせたい動画”へシフトした理由
芸人がYouTubeやTikTokなどで発信することが増えた要因は、主にコロナ禍の影響であったが、いまやお笑いの表現の場の1つとして大きなプラットフォームとなった。動画コンテンツが盛り上がるいま、SNSで拡散され、話題を呼ぶような「お笑い動画コンテンツ」はどのように作られたのだろうか。連載「100万回再生される『笑い』の法則」」では、企画や制作を手掛ける人物たちにインタビュー。スマートフォンのなかで起きる“笑い”を生み出す秘訣を探っていく。
今回登場するのは、結成10年、マセキ芸能社所属のきしたかの2人と、YouTubeチャンネル立ち上げ当初から作家や編集を担当している大河内敦揮氏。チャンネル登録者数10万人を超えるYouTubeチャンネル『高野さんを怒らせたい。【きしたかの】』をきっかけに、テレビへの出演が増えている2人。彼らにとってYouTubeとはどんな場所なのか。(於ありさ)
YouTube開設当初は「好きなものを扱いたかった」
ーーYouTubeでの発信を始めたきっかけはなんですか?
高野正成(以下、高野):最初は大河内が言ってくれたんだよね?
大河内敦揮(以下、大河内):そうですね。ちょうどABEMAのバラエティ番組『チャンスの時間』で、きしたかのがロケをしていたのを見たのですが、それがすごくおもしろかったんです。それで「こういうのをもっと見たい!」と思ったのですが、探しても全然メディアに出ていなくて(笑)。僕が見るためにも「YouTubeやりませんか?」と言いました。
ーー大河内さんから誘われたときにはどう思いましたか?
岸大将(以下、岸):大河内とは3年くらい連絡を取っていませんでしたが、もともと友だちだったし、また一緒に何かできるなら嬉しいなって。半分お遊びで始めました。
高野:そうそう、大河内が言ってくれたのが嬉しかったですよね。最初はいまのようなチャンネル(「高野さんを怒らせたい」)でもなかったから、普通に楽しかったし……。
岸・大河内:(笑)。
ーーチャンネル概要欄を見ると2020年3月に開設したようですが、コロナ禍の影響はあったのでしょうか。
大河内:いや、コロナ禍になるよりも前から動いていました。僕が「YouTubeやりませんか?」と言ったのは、2019年の秋ごろでしたし、1本目を撮ったのは2020年1月でしたから。
岸:最初は本当に暇だったから、暇つぶし感覚で。コロナ禍だからということはありませんでしたね。
ーー「高野さんを怒らせたい」というチャンネルになる前、チャンネル開設当初は、どんなチャンネルにしようと思っていたのでしょうか?
大河内:無理にお笑いをやるのではなく、自分たちの好きなものを題材にやっていけたらいいなと思っていました。キャンプ好きな芸人さんがキャンプチャンネルをやっているイメージ。だから2人に好きなものを聞いたら、2人とも趣味がなかったんですよね。
高野:何ヶ月かに1回「趣味はありますか?」って聞かれたんだけど、2人とも「ないな〜」って。
大河内:だから、最初はYouTuberごっこみたいなことをしていました。
岸:YouTuberがやっていたようなことを、やらないっていうボケを続けるみたいな。ボケなのか、ボケじゃないのかもよくわからないみたいなのが2年くらい続きましたね(笑)。
ーー開設当初、チャンネル登録者数や再生数など、なにか目標はありましたか?
高野:伸ばしていこうみたいな話はしていたよね。伸ばした先で、見てくれる人を増やせたらなって。でも、なかなかうまくいかず……。
大河内:当時はそれでも楽しかったですしね。チャンネル登録者数が10人増えただけでも嬉しかったし、僕としては今もそうですが、3人でYouTubeというシミュレーションゲームを楽しめていた感覚でした。
怒らせたい動画に舵を切ったのは「高野さんの良さを出すため」
ーー2022年1月11日に「高野さんを怒らせたい。【きしたかの】」のリニューアル1発目の動画が投稿されました。怒らせたい動画に振り切ったきっかけを教えてください。
大河内:わかりやすいチャンネルにしなきゃいけないなというのは、ずっと考えていたのですが、そのわかりやすい何かがずっと見つからなかったんです。
岸:僕としては、登録者数、再生数を伸ばすというよりも、きしたかのの宣伝をして、仕事に繋げなきゃ意味がないなと。それで方法を考えた時に、高野のツッコミを見せたいなと思いつきました。
大河内:高野さんがフロントマンとして、きしたかのという看板を広めてくれたらなと。ただツッコミという言葉はあまり使いたくなかったんですよね。「見たい」と思わせるのが難しそうだったから。それで、ボケで用意したものにツッコむというのを、怒らせたいに言い換えました。
高野:俺は「怒らせたいチャンネルやります」ってもう決まった段階で言われて、なんかオープニングに使うからとかって理由をつけて、ムダに走らされました。だから、もう何を言われても「知らねーよ」って感じでしたね。
ーードッキリ動画というジャンルの中でも、さらに絞った“怒らせたい”というジャンルにしたときに絞りすぎることへの不安はなかったのでしょうか?
大河内:不安はなかったですね。それが高野さんの魅力なんで、それがダメだった時はYouTubeがダメなんじゃなくて、芸人としてダメなんやなと。
岸:たしかに、そうですよね。
高野:それ初めて聞いたぞ(笑)。
ーー(笑)。では、怒らせたいというチャンネル名にしたことで、メリットも多かったんですかね?
岸:そうですね。ただ高野が怒ることにとらわれすぎちゃって、ツッコミ忘れて、ただ怒鳴っているだけのときとかもたまにあって。そういう姿をYouTube以外の現場で見ると、怒らせたいという名前をつけてしまったデメリットを感じます。「怒ればいいんだろ」って思っているんだろうなって。
ーー怒らせたい動画の手応えを感じはじめたのは、いつでしょう?
高野:「【ドッキリ】映画の字幕がずっと天気の話で怒らせたい。【きしたかの】」の動画ですかね。芸人たちから「あれ見たよ」って言われることが多くて「めっちゃ見てるじゃん」って思ったんです。
ーー動画を出す前から伸びることを見込んで投稿しているのでしょうか?
岸:1つの動画としての伸びは、あまり考えていないんですよね。ただ、おもしろいのを撮りたいなって。
大河内:もしも売れていたらバズってお金を儲けることを考えるのかもしれませんが、きしたかのは売れていないので、売れるためのYouTubeにすることが目的なんです。バズることよりも、業界の人にきしたかののおもしろさをアピールできたらいいなって。だから、バズることよりも、高野さんの良さを引き出せるかどうかばかり考えています。
岸:高野のすごいなと思うところは「ここでこういうこと言ってくれたらいいな」ということを、全部言ってくれることですね。たぶん本人は意識していないと思いますが。
高野:……思ったこと言ってるだけなんで、意識はしてないね。本当にびっくりしたときって、狙いとか考えられないんですよ。
「あれは高野さんのジャンルではない」企画者大河内・岸のこだわり
ーー企画はどのように考えているのでしょうか?
大河内:基本的に岸さんと2人でZoomで話し合っています。
高野:それが悔しいんですよね。チャンネル開始当初は3人でやっていたことを、知らない間に2人でするようになって。しかも、俺が「YouTubeおもしろいね」って言ってもらえたときに「ありがとうございます」ってお礼をしたら、横にいた岸が「高野。YouTubeやってるの? あれは俺と大河内のチャンネルで、高野はゲストだからね」って言われて、あれは腹立ちましたね。
大河内:それは岸さんのいう通りですよ。「怒らせたい」は僕と岸さんのチャンネルです。
高野:でも、おもしろいって言われたら、お礼ぐらいはしたいじゃん。お前関係ないじゃんって、お客さん扱いするのはやめろよ(笑)。
ーー撮影してボツになることはありますか?
高野:めっちゃあります!
岸:めっちゃではないけど、あるにはありますね。
大河内:こっちが引くほど、目真っ赤にして怒っちゃったやつがあって、それは出していないです。
岸:怒らせようとした結果、怒らせすぎちゃったんだよね(笑)。