MCU『ソー』作品でも題材になった終末の日“ラグナロク” 名作『ゴッド・オブ・ウォー』続編は、“北欧神話の最終戦争”を通して何を描いたか

『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』レビュー

 前作の魅力を考える上で重要なのは、大作でありながらも、その物語構造自体は極めて明快かつシンプルなものであったということだ。

 クレイトスにとって最愛の妻だったラウフェイ(フェイ)の「九界で最も高い山の山頂で、自らの遺灰を撒いてほしい」という願いを叶えるため、与えられた運命を全うするという使命感こそがクレイトス(及びプレイヤー)が物語を進める動機となっており、それは物語の最後まで決してブレることが無かった。

 それは息子であるアトレウスや、他のキャラクターに対する態度においても、(様々な交流やを経て、そのアプローチこそ変化することはあっても)同様であり、その強い意思こそがゲーム全体を動かす推進力となっていた。

 このような一貫性は『GOWラグナロク』においても踏襲されているが、前作と比較すると、相当に捻りの効いたものとなっている。今作におけるクレイトスの目的は、前作のラストで明らかになったラグナロクの到来を巡る予言を回避することにある。すなわち、”与えられた運命に抗う”という、前作とは真逆の考え方がクレイトスの行動における動機となっているのだ。

 前述の通り、ラグナロクとは世界の終焉を意味する。さらに、前作で明らかになったアトレウス=ロキという事実は、クレイトスにとって、自らの息子が壮絶な戦争の中心となることを示唆している。もちろん世界の終焉を回避することは前提だが、何よりも、かつて戦いに狂い、大切なものを失ってしまった自分と同じ思いを最愛の息子に味わってほしくない。そんな父としての葛藤が、クレイトスを新たな旅へと誘うのである。

 ここで効果的にはたらくのが、本作がそもそもラグナロクという北欧神話の有名な物語をベースにしているという点だ。神話の物語が圧倒的なグラフィックと魅力的な展開、意外なアプローチによって再現されていくことの興奮と、着実に悲劇的な結末へと近付いていることへの焦燥感。

 この2つの感覚の奇妙な共存は、前作以上にプレイヤーを物語へ強く惹き付けていく。神話に基づいた予言された未来が迫ろうとも、クレイトスは息子を守るために、その運命に抗い続ける。その一貫性こそが、本作の強烈な魅力となっているのだ。

 もちろん、その背景で描かれる親子の変化についても忘れてはならない。『GOWラグナロク』のクレイトスとアトレウスは前作での冒険を経たことによって、序盤からある程度素直に意見を言い合える関係性を構築できている状態にある。

 だが予言を知っているのはアトレウスも同様であり、さらに自らが巨人族であることを知ったことによって、彼もまた自分なりの使命感を抱き、自分の意思で行動をするようになっていく。それは同時に周囲の大人、とりわけ父親であるクレイトスに対する懐疑心や反抗心へと繋がり、無垢で純粋だった前作の頃とは異なる理由で、しばしばぶつかり合うようになっていく。

 その描き方は極めてリアルで生々しく、成長した息子の姿に手を焼くクレイトスの姿は、まさに反抗期を迎えた子どもの扱いに苦労する親そのものだ。そんな新たな時期を迎えた親子の関係性の変化もまた、本作の物語において重要な意味を持っている。

 また、今作ではいよいよアトレウスがロキとしての物語を本格的に歩み始めていくのも見どころだ。映画「マイティ・ソー」シリーズにおいても極めて特徴的に描かれている通り、ロキといえば北欧神話における屈指のトリックスターで、悪戯好きとして様々な状況をかき乱してしまう存在として知られており、純粋無垢なアトレウスの姿からは似ても似つかないものだ。だがアトレウスの持つ優しさや、新たに芽生えた使命感に基づいた行動、そして周囲の大人との反発が、結果として、全く予想できないアプローチによってロキの物語へと結実していく。

 本作が描いた”新たなロキ像”は非常に興味深く、一見の価値があると言って良いだろう。主神オーディンやトールのユニークな描写も相まって、知れば知るほどに舌を巻く、そんな新鮮な北欧神話の体験が、本作にはたくさん詰め込まれている。

ラグナロクが近付くにつれ、敵勢も自分自身も熾烈さを増していく血塗れの戦闘アクション

 来るラグナロクを目前に、クレイトスたちに待ち受ける戦いもまた、前作よりも遥かに激しさを増していく。それに呼応するように、本作の戦闘アクションもまた、前作における魅力を残しつつ、さらにアプローチを広げ、より一層に楽しく、過激で、歯ごたえのあるものとなっている。

 基本的なシステムについては従来のメカニクス(弱攻撃・強攻撃/ガード・パリィ/固有技)を踏襲しているが、なんといっても今回は、物語終盤まで戦斧「リヴァイアサン」のみを武器として使っていた前作とは異なり、最初から双剣「ブレイズ・オブ・カオス」を利用することが可能だ。

 氷属性・ヘビー寄り・対個人向きとなるリヴァイアサンと、炎属性・ライト寄り・対集団向きとなるブレイズ・オブ・カオス、この対照的な2つの武器の使い分けが本作における戦闘の基礎となる。なお、この”複数のタイプの攻撃の使い分け”は、戦闘をサポートしてくれるアトレウスなどについても同様だ。

 今作では前作よりもさらに多様な種類の敵が登場するが、その中には固有の弱点や耐性をもつものも少なくない。

 (あくまで筆者個人としては)難易度ノーマルであればある程度のゴリ押しも可能であるように感じられたが、リヴァイアサン、ブレイズ・オブ・カオス、アトレウスの弓といった武器の特徴や性能、(前作よりも幅が広がった)スキルツリーや物語を進めていく上で拡張されていく戦術などを会得した上で、敵の種類や地形を見ながら臨機応変に攻撃を叩き込んでいくことによって、前作以上に熾烈な攻撃を仕掛けてくる敵勢を真の血祭りに上げる。これこそが『GOWラグナロク』の戦いだ。

 「ダークソウル」シリーズをも彷彿とさせる重量感のある手触りは今作においても更に磨きがかかっており、その上で大幅に拡張された戦術の知識と本能によって大量の敵勢を捌いていくカタルシスは、前作以上に爽快感のあるゴア表現も相まって、さながら『DOOM Eternal』にも匹敵するものとなっている。

 本作の戦闘アクションは、近年のアクションゲームの中でも明らかに出色の出来と言って良いだろう。また、ここで書いた内容は全体の一部であり、きっと最後の瞬間まで飽きることなく、歯ごたえのある戦いに没頭できるはずだ。

 ちなみに探索を進めていくと、本編で出会うボス(こちらも前作以上のバリエーションと壮絶なスケール感を誇っているのだが)よりも遥かに強力な敵と出会うこともあった。具体的には、フロム・ソフトウェア作品などの死にゲーを好む筆者でも、1時間近く苦闘する相手に幾つも出くわしている。だが、そのいずれもが理不尽さを感じることの少ない、絶妙な難易度調整が施されており、何度倒れてもついコンティニューボタンを押してしまうのだ。死闘を求めているというプレイヤーにも、是非本作をおすすめしたい。

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