コンビニのアバター店員に、アパレルブランド発のアバター製品――“100日後に動くまでの過程”にも注目が集まる「アバター」の可能性

過程にも注目集まる「アバター」の可能性

 活動にアバターが半ば不可欠なVTuberにとって、アバターが手元にない時期をどう乗り越えるかは悩みのタネだろう。いまのところ、デザインが完成するまでは仮のアイコンで、Live2D化して動くようになるまでは平面のイラストで、先んじて配信活動などを開始するケースが多い。

【初配信】100日後にVtuberデビューする女子高生。100日目。

 この「先行デビュー」とも「準備期間」ともとれる時期を、一種のプロセスエコノミーとして提供しようという試みを……およそ100日前にこの連載でも紹介した。「100日後にVTuberデビューする女子高生」だ。TikTokでバズり注目を集めた名もなきバーチャル女子高生が、ついに先週VTuber「唯恋ひな」としてめでたくデビューを果たした。

 今後はVTuberの王道たるYouTube上での活動はもちろん、TikTokでの活動も継続するとのことだ。デビュー後はじめてのTikTok動画は13.3Kいいねというスコアを叩き出しており、今後のTikTokでの活躍も十分に期待できるだろう。こうした「アバターを得て動くまで」の流れがコンテンツとなり得る状況は、それだけアバターの価値の大きさを示しているとも言える。

 VTuberやメタバースを通して、アバターは徐々に社会へ広まりつつある。いまやアバターでなにかしらの業務をこなす「アバターワーカー」と呼ぶあり方も生まれているほどだ。コンビニ大手のローソンも先週、アバターワーカーの投入へ舵を切った。

 アバター事業を手掛けるAVITA株式会社との協業を発表したローソンは、未来型店舗「グリーンローソン」へ、アバター接客サービスを通したアバターワーカーの導入を開始する。10名から30名ほどの就労者を募集し、11月末の店舗オープンとともに導入予定だ。これにとどまらず、2023年度中に50名、2025年度中には1000名の「ローソンアバターオペレーター」を育成するとのことだ。

 アバターワークの勤労形態はいわゆるリモートワークだ。加えて、アバターを介することで年齢や性別、身体的ハンディキャップの制約を一部乗り越えることができる。コンビニ業界における「深夜の人手不足」という課題に、「いつ、誰でも働くことができる」アバターワークが解答となるかもしれない。インフルエンサーたるVTuberとのコラボレーションにもタッチできるアバターワークに、大手企業も注目を始めている。

 同じくアバターに注目している業界として、アパレル業界が挙げられる。衣服という商材は「アバターの衣装・スキン」に転用できるためマッチしており、BEAMSやSPINNSなどが進出を果たしている。そんな「アバター×アパレル」領域に、WEBストアの.st(ドットエスティ)を展開するアダストリア株式会社が、オリジナルアバターという商材を引っ提げて参戦した。

 「メタバースファッションアバター」の第一弾として発表された『枡花蒼』は、人気アバタークリエイターのひゅうがなつを中心としたクリエイターチームによって制作。「VRChat」対応アバターのスタンダードのひとつである「ケモミミの美少女」でありながら、アパレルブランド「RAGEBLUE」の衣服を身に纏うファッショナブルなデザインだ。

 『枡花蒼』は単体としても完成しているが、着用している衣服データはひゅうがなつが手掛ける他のアバターにも着用可能とのことだ。「人気アバターの衣服だけを他のアバターに移植する」という楽しみ方は、VRChatユーザーではよく見られるものであり、このユースケースに目をつけている点は興味深い。アバター本体は10月に発売予定で、9月23日からは試着可能なワールドも公開済みだ。

 各所で活用されているアバターの本質は、3Dモデルというデジタルデータであり、「ファイル形式」と不可分の存在だ。3Dモデルのファイル形式にはいくつかある。国内発の3Dモデルファイル形式として2018年に発表され、国内外のアプリケーションやメタバースに採用された「VRM」もそのひとつだ。

VRM1.0を使ってみよう!新しくなったVRMのポイント解説

 そんな「VRM」が、9月22日付けで「バージョン1.0」が正式にリリースされた。これまで公開されてきた「バージョン0.x」からエラー修正や機能拡張が行われた次第だが、なによりメジャーバージョンが昇格したのは大きいだろう。これを機に、アプリケーションやプラットフォーム間の相互運用性を担保する「アバターの共通規格」として、「VRM」のさらなる普及・拡大に期待したいところだ。

 「もうひとつの身体」として、仕事やファッションで纏う「衣服の一種」として、あるいは「サービスの中核」として、アバターは少しずつ、着実に広まりつつある。よく、「メタバース時代の到来とともに、一人一アバターを持つようになる」と語られることはあるが、メタバースよりも先にアバターが社会に定着する可能性は、具体例の増加から見ても十分考えられるだろう。

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