「一番漫才に近い映画が撮れた」令和ロマン・くるまが語る初監督作品『BREAK SHOT』の裏側

2026年5月16日、収容人数2万人を超える「Kアリーナ横浜」で、令和ロマン単独ライブ『RE:IWAROMAN』が開催される。同公演で初披露となったのが、コメディアンとして活躍してきた、髙比良くるま(監督名義:くるま)が初監督を務めた短編映画『BREAK SHOT』だ。
あらすじ
高速道路を走る、6台の車。
車内では、言い訳や見栄、探り合い、仕事の焦り、誰かの追跡、動画再生数のための無謀な挑戦、そしてどうでもいい会話が続いている。
それらの時間を記録していたのは、車内のドライブレコーダーだけだったー。
そもそも、2万人規模の会場で芸人が単独ライブを行うこと自体が異例である。さらに、その舞台で自ら手がけた短編映画を上映するというのだから驚きだ。しかも本作は、単独ライブでの上映にとどまらず、劇場での上映も決定しており、さらに世界の映画祭への出品も視野に入れて動いているという。
今回、リアルサウンドテックは本作の監督・脚本を務めたくるまにインタビュー。なぜ本格的な映像作品を制作するに至ったのか。そして豪華すぎる出演俳優たちや、撮影場所となったバーチャルプロダクションスタジオの先端技術について話を聞いた。
相方・ケムリにも“極秘”の映画制作

ーーなぜ、短編映画を制作することになったのでしょうか?
くるま:最初は、単独ライブの幕間映像として制作しようと考えていたんです。芸人の単独ライブは、ネタを続けて披露するんじゃなくて、その合間に映像を流したり、企画コーナーを挟んだりする構成が一般的なんです。最近は、自分たちのYouTube動画を流すことも多いですね。いまでは多くの芸人がYouTubeチャンネルを持っていますが、昔はそのライブのためだけに作った映像を流すこともよくありました。
そういった流れがあるなかで、今回の単独ライブは「Kアリーナ横浜」という大きい場所だし、予算も扱えるだろうから、「何か大きいことをしませんか」とライブのプロデューサーさんに相談したら、「短編映画はどうですか」というお話があがって。ネタとネタのあいだに映画が流れるなんて聞いたことないし、せっかくだから撮ってみようという話になったんです。ちなみに相方(松井ケムリ)にも出演してもらってるんですけど、映画になることは伝えていないんです。いやーまさかここまで本格的な作品になるとは思っていないでしょうね。
ーーそうなんですか?(笑) なんの撮影なのかは気になりそうですが。
くるま:彼はもう……何も気にしないんですよ。春日(俊彰/オードリー)さんとかと一緒ですね。動じない。さすがに「何かに使われるんだろうな」くらいは思っていると思いますけど、映画になるとは予想してないんじゃないんでしょうか。もしこの作品が何かしらの賞を獲ってレッドカーペットを歩くことになったら、本人には言えないから、僕が彼のアクリルスタンドを持って歩こうかな。
ーーそれはちょっと見たいですね(笑)。
くるま:そうするには、やっぱりちゃんと作らないとボケにならないじゃないですか。だからテーマ決めやプロットも、映画祭を狙うことを前提で作りました。

ーー本作にはほかにも、オダギリジョーさんや高良健吾さんなど、名だたる俳優が出演しています。そのなかでも主演を務めるのが、お笑いコンビ・サルゴリラの児玉智洋さんだと伺いました。
くるま:はい、もちろん児玉さんで。
ーー主演にオファーした理由は?
くるま:面白すぎるからです。僕らは同じ年にチャンピオンになってるんですよ。『キングオブコント2023』と『M-1グランプリ2023』で大会は違うんですけど。そこから見ていたのもあったし、芸歴はめちゃくちゃ先輩なんですけど、サルゴリラさんがトリオからコンビになった年に僕らが1年目で、実質同期みたいな感じもあって。劇場もよく一緒に回っていました。
あとサルゴリラさんのお笑いって、僕がめっちゃ好きなお笑いなんですよね。とくに自分に刺さるお笑いというか、不条理な感じがあって。今回の映画も、サルゴリラさんが普段のネタでやられているようなことに近いんです。そういう思いもあって、お声がけをさせていただきました。でも主演っていうのは教えてなかったんですけどね……。それはあとから伝えました。
ーー主演と伝えたときはどんな反応をしていましたか?
くるま:ものすごく困っていました(笑)。でも演技力は芸人のなかでもトップ中のトップなので、素晴らしかったです。サルゴリラさんのお芝居って、小芝居じゃなくて大芝居なんです。そこがいいんですよ。もうあんまりいないんです、そういう方って。ゴールのないお芝居というか、それをおじさんたちがやっているのが好きなんですよね。
ーーオダギリさんや高良さんのお芝居はどうでしたか?
くるま:もちろん素晴らしかったのは前提として、それぞれやり方がバラバラだったのが面白かったですね。作品を見ていただければわかると思うんですけど、オダギリさんはもうアドリブ三昧でした。撮影前に、この作品はエチュード気味でやるということは伝えていたので、本当に大暴れしてもらいました。
オダギリさんは俳優でありながら監督もやられていますし、プレイングマネージャーとしての先輩でもあるんです。役を演じるうえでも、見せ方に関して一段上の引き出しを持っていると感じました。作品全体のトーンを左右するレベルで表現を引き出してくれるのが、「すごいな」と思いました。手数がすごかったです。
高良さんは、作中で笑われる役だったんですけど、コメディでそういう役を演じる経験があまりなかったみたいで、心の底から不安そうにしていました。毎回「これでよろしいんですかね……?」って確認してくださって(笑)。それがめっちゃ良かったですね。その扉を開けることができて良かったなと、勝手に思いました。その一方で、不安を感じているなかでも芝居を作り上げていく姿には、俳優としてのすごさも強く感じましたね。
ーー本作は「高速道路での玉突き事故」が、ストーリーの軸になっています。どのように着想を得たのでしょうか?
くるま:芸人が手がける以上、コメディ作品にすることは最初から決めていました。ただ、単に面白い映像にするのではなく、きちんと映画として成立する“会話劇”にすることは強く意識していました。
そこで選んだのが、“ドライブレコーダー視点”で撮るという方法です。制作期間も限られていたので、視点を固定した方がやりやすいかなと思ったんです。漫才も、限られた空間の中で展開する会話劇ですし、僕としても作りやすいかなと。映画祭も視野に入れるなら、テーマもわかりやすい方がいいですしね。
ーーワンシチュエーション作品は単調になりやすいという難しさもありますが、ストーリー展開はどう考えましたか?
くるま:そこはあまり考えなかったです。そもそも漫才もワンシチュエーションなので。そういう意味でも、この話は相性がよかったかもしれません。でもストーリーの軸が“玉突き事故”になるので、いろんなキャラクターを出した方がいいなとは思っていました。いろんな“おもしろ”が生まれるようにさまざま職業の人を登場させたり、人数の組み合わせもバリエーションを持たせたりして。そこはスムーズに思いつきましたね。
それぞれのキャラクターのバックボーンだったり、事故を起こしてしまう理由とかも考えて。お笑いでもそうなんですけど、自分たちのなかで成立するストーリーがあるっていうのが好きなんですよね。ネタも尺は4分しかないけど、本当は背景にいろんなストーリーがあって。このキャラにはこういうことがあって……って考えるのが好きなんです。
ーー作風はコメディということですが、演技面はどんなことを意識して作りましたか?
くるま:俳優さんには、コメディをやろうと思わせないようにすることを意識しました。僕は以前、『笑いのカイブツ』という映画で、仲野大賀さんに漫才の監修をしたことがあるんです。そのときに、俳優さんが抱いている漫才のイメージと、実際の漫才が少し違うことを知って。
“発声のスピード”が違うんですよね。俳優さんはお腹から声を出しているので、どれだけセリフを急いでも、遅く感じたんです。だから「もっと口先で言うとぽくなりますよ」という指導をさせていただきました。そしたら、仲野さんがめちゃくちゃ僕そっくりになっちゃったんですよ(笑)。本当はオードリーさんに似せなくちゃいけなかったんですけど……。
ーーそんな違いがあるんですね。
くるま:要するに、あまり「コメディをしよう」とか考えずに自然に撮った方が面白くなると思ったんです。だから数分のシーンをワンカットで撮影して、あとから組み合わせるという作り方にしました。映画の撮影方法も踏襲しつつ、見ている人を飽きさせないようなライブ感も出せたんじゃないかなと思っています。
「お笑い芸人×先端技術」異色のタッグが組み合わさって生まれた映像

ーー本作は、「清澄白河BASE」内のバーチャルプロダクションスタジオで撮影が完結されたと伺いました。改めて本スタジオの特徴について教えてください。
大賀英資(以下、大賀):後ろに広がっているのが大型LEDディスプレイなんですけど、背景となる3DCGをリアルタイムレンダリングしながらこのディスプレイに投影して、手前の被写体やオブジェクトをカメラで撮影することで、背景CGと実写の合成を行なうことができるスタジオです。

ーーなぜこちらのスタジオを使うことにしたのでしょうか。
くるま:「この映像、撮るのムズいです」って撮影部の方に言われたんですよね。僕は車の走行シーンとか事故のシーンを撮るのが難しいんだということを、よくわかっていなかったんです。ちょうどその話をしていたら、オダギリジョーさんがスタジオで制作した映像を見つけて。オダギリさんが車から降りたら、後ろの景色は全部LEDだったんですよ。それを見て「え、すげえ!」と思って。スタジオを使うのにどれくらいお金がかかるとか、どんな技術が使われているのかも何にも知らないまま、「もうこれしかない」と思いました。
ーー大賀さんは、本作のお話を聞いたときどう感じましたか?
大賀:ストーリーについてはある程度聞いていたのですが、最初の打ち合わせでくるまさんの熱意がすごく伝わってきたんですよね。そのあと実際にスタジオも見てもらったんですけど、とても喜んでくれて。
くるま:いま映している映像もすごいんですけど、そのときはいろんなデモ映像を見せていただいて。宇宙の映像を流すと僕が本当に宇宙にいるように見えるし、もうわけがわからない(笑)。みんなこれ知ってるのかな? と思いながらずっと興奮していました。
大賀:そんなリアクションを見て、僕らも嬉しくなっちゃって。いやぁ、うまいなーと思いましたね(笑)。
くるま:いやいや、本当にすごいんですよ、ここ!
大賀:これまでは、バーチャルプロダクションを使ったことがない監督の方と、「どう使えばどんな映像が撮れるのか」を一緒に考えてきました。今回の企画も、その経験を活かして支えられるのではないかと思ったんです。だからこそ今回は、監督であるくるまさんと“伴走”するようなかたちで、一緒に試行錯誤しながら関わらせていただけたらと考えました。自分たちの強みと、くるまさんが 求められている部分が、ちょうど噛み合ったように感じたんです。
ーー撮影はどのように行ったのでしょうか。
大賀:背景の映像はすべて撮り下ろしで、その撮影はくるまさん側の撮影部にお願いしました。撮影部には、撮ってきた映像をスタジオのディスプレイに出力したときに綺麗に写るようなコーデック(映像の圧縮形式)や色設定を事前に伝えて、あとは我々の方で色味や明るさの補正、ノイズの調整を行いました。
あとは、カメラの高さですね。実際にスタジオに車を入れて撮るときの高さに合わせないと、奥の方のパースがズレてしまうので、高さはマストで合わせてくださいと伝えました。
くるま:うちの撮影部も「こんなのやったことねぇよ」みたいな感じでめちゃくちゃ興奮して、テンションが上がってましたね。高速道路を1日中走り続けて撮影したんですけど、ベテランさんも含めて、みんなが新しいことにワクワクしているのが、僕的にも嬉しかったです。知らないうちに、僕は全員がやったことがない課題を課していたみたいですね(笑)。
ーースタジオでの撮影はどのように進んだのでしょうか?
大賀:撮影してきた映像をディスプレイに出力するだけだと、ズレもあるしリアルさがないので、ポストプロダクション(撮影後の仕上げ作業)で使っているVFXのソフトウェア『Autodesk Flame』で、加工を行いました。今回はさらに、リアルタイムでレンダリングできるツール『SMODE』も掛け合わせて撮影をしたんです。これらは一見地味な作業に見えるかもしれないんですけど、意外とこの作業が映像にリアルさを持たせてくれるんです。
あと照明は、『MIMIK』というLEDを模した照明器具を使いました。『MIMIK』はLEDよりも少し粗いんですけど、光量が段違いに強いんです。しかも照明自体がLEDのようになっているので、そこに我々が映像を流すと、映像そのものが照明になるんです。
くるま:撮影中、大賀さんが謎の場所に通信してなんか指示しているんですよね。
大賀:インカムで、オペレーターと一緒に映像を見ながら、その場で調整していたんですよ(笑)。
くるま:大賀さんが「1回ちょっと調整します」とか言って、その数分後にはもう違うバージョンの映像が出てきて。すごいですよね。俺にできるのは、その数分間をつなぐことでした。もう幼稚園からいまに至るまで、ありったけのエピソードを話しましたよ(笑)。
「一番漫才に近い映画が撮れた」
ーー今回は特殊な撮影方法やスタジオでの作品づくりとなったかと思いますが、監督として振り返ってみてどうでしたか?
くるま:大賀さんがやってくださっている細かい技術的なことは、正直理解するのは難しいんですけど、一応監督として深くうなずいたりしていました(笑)。なんというか、知ったかぶりをしたいわけじゃなくて、現場の空気を壊したくなくて。わからないところは僕があとで調べたらいい話だし。
僕は監督だけど、もう強豪校のロッカールームにいるような感覚でした。それぞれの分野のプロフェッショナルが集まって、僕はもうやることがないから「ゴーゴー!」って盛り上げたり、お茶とかドリンクとか用意するみたいな。そしたらもうなんとかしてくれたって感じです(笑)。
ーー本作は、随所に先端技術が使われているんですね。
くるま:現場ではみんながそれぞれの必殺技を持ち寄っているような感じでした。それがカッコよくて、僕はひたすらいい雰囲気を崩さないことに徹していましたね(笑)。
ーーくるまさんは、芸人としてプレイヤー的な立ち回りをすることが多いと思うのですが、監督はまた違ったポジションのように感じます。
くるま:いやそれが、一緒でした。僕は普段からプロデューサー的なことをやっていたんだっていうのは、今回監督をやってみて気づいたんです。芸人のお仕事をしているときも、どうやってバランスを取るかしか考えてなくて。漫才も、相方のセリフとか見せ方でウケるように考えています。僕の発言でウケてるシーンなんてほとんどないですよ。昔から、この人なら何をしたら面白くなるのか、みたいなことを考えるのが好きで。というか、それにしか興味がなかったんですよ。
ーー「自分がウケたい」という思いがあまりないタイプなのでしょうか。
くるま:自分にあまり興味がないんですよね。テレビやラジオのお仕事でも、相手が上手くいった瞬間を見るのが気持ち良くて。今回の映画は、みんながそれぞれプロの方達で、自分はなんの知識もないので、全体のバランスを整えてコメディっぽく仕上げるのが仕事でした。いろんなプロフェッショナルな方たちと作品づくりができて、すごく楽しかったです。
ーー今回はとくに専門的な知識に長けている方も多かったんじゃないでしょうか。
くるま:そうですね、感覚的にすごいことをしているのはわかるんですけど、僕には何がどう優れているのか説明はできません。でもそこを付け焼き刃でわかったような顔をして制御をしても意味がないので、そこはリスペクトを持って、僕は僕のできることをやる。コミュニケーションを取って、できるだけストレスのないかたちで撮影を進められるようにしていました。
そこは今回本当にスリムにできたんですよね。そこが一番嬉しかったです。撮影も2日で終わったし。しかもそんな遅い時間までやっていないですからね。
ーーそれはすごいですね。
くるま:このスタジオだからこそ実現したスケジュールですよね。このスタジオと僕の性格もすごく相性が良かったように感じます。先端技術が使えるのもそうなんですけど、「この方法でできないこともないけど、こうやってやった方がいいよね」って多くの人が思う方向に進められたというか、このスタジオでできる現象そのものが僕の性格にすごく合っていました。「いまいいことができてる!」って実感しましたね。
ーー最後に、本作を視聴する方にメッセージをお願いします。
くるま:2度と同じものは撮れないと思います。僕が初めて監督をした作品ということもあるのですが、いろんな人の技術がすごく詰まっているので、そういった意味でもまた同じことはできないんじゃないかと。脚本通りに演じてもらうのではなく、撮影現場でチームでの会話の中で生まれてきたもの、俳優部チームのアドリブも満載。そういうものがカチッと固まって、かたちになったものなんです。
演劇のなかでは、一番漫才に近い映画が撮れた気がします。これまで僕が見てきた映画のなかでも、一番漫才に近い。そこを見て欲しいので、お笑いが好きな人にも、映画が好きな人にも、「こういう作品もあるんだな」と、肩肘張らずに楽しんでいただけたら嬉しいです。




























