25周年を迎えた名作FPS『ゴールデンアイ 007』の“映画原作ゲーム”としての魅力。実は関心を誘う要素の宝庫?
秘密兵器、対戦専用キャラと説明書、果ては攻略本にも仕込まれた”フック”
発売当時、思春期真っ盛りだった筆者からすれば、”秘密兵器”はとりわけ心くすぐる要素だった。レーザー照射から爆弾の起爆装置、果ては磁石まで内蔵された腕時計はその象徴である。実はゲームオリジナルの秘密兵器だったと気づかされた「モーションセンサー爆弾」も外せない。このような突飛なものが出てくるなら、映画版はどんなことになっているのかと気になってしまうのも無理はない。
『ゴールデンアイ 007』を名作たらしめる存在である対戦モードにも、映画版への興味を誘うフックが満載である。ひとつはプレイヤーキャラクター。このモード専用の「ジョーズ」「オッドジョブ」「サミディ」「メイデー」の4名がそれだ。
特に長身で鋼鉄の牙を持つ「ジョーズ」、不死身の「サミディ」は設定のインパクトもさることながら、1人用の本編にもおまけステージで対決するだけあって印象に残りやすい。また、そのような突飛なキャラクターが登場するというのもまた、映画版への興味を抱きやすくなっている。そもそも鋼鉄の牙を持つ、不死身という時点で分かりやすい。ほかの2名もゲーム本編ではお披露目しないのだが、鋼鉄の刃を仕込んだ山高帽を武器にする、とてつもない怪力の持ち主という設定が異彩を放つ。
加えて、彼らが映画版のどのシリーズ作に登場するか、説明書でも特別な枠を設けてきちんと解説されている。それもあって「映画だと彼らはどんな感じなのだろう?」と、興味を持ちやすい。こうしたインパクトのあるキャラクターを選別したのもまた、いずれは映画版も観て欲しいという制作側の思いを感じさせられるところである。
対戦に関してはもうひとつ、4つの特殊ルールに付けられた名称もフックになっている。「007は二度死ぬ」「黄金銃を持つ男」「リビング・デイライツ」「消されたライセンス」。映画版をご存じなら、いずれもシリーズ作の名称から取られているのは明らかだろう。筆者は「なんだか不思議な名前だな」というのが第一印象だったのだが。
ただ、後になって実はどれも映画版のシリーズ作から取られていたと知って、大変な驚きを覚えた。これに関しては、前述のキャラクター4名のように説明書にて由来は解説されていない。しかし、名称の独特さもあり、気になりやすい一面がある。実際、元ネタが気になって調べた人も当時、少なからずいたのではないだろうか。
また、本作は攻略本もいくつか発売された。その中でも小学館より発売された任天堂公式ガイドブックは、ステージごとに映画版ではどんな場面になっているのかを短く紹介する「映画との関係」なるコメントも付記されていた。
それを通し、実はこのステージはゲームオリジナル、映画版だともの凄いアクションシーンになっているといった情報も得られたのである。(ちなみにクリア後のおまけステージにも同様のコメントが記されている)
これも映画版への関心を強烈に誘うフックとして機能してたのは明らかだろう。攻略本自体は別売ゆえ、遊んだ全てのプレイヤーがこの情報に触れられた訳ではない。ただ、完全攻略を目指そうとすれば、映画版の情報へと行き着く”公式”の道筋が立てられていたというのは、特筆すべき試みだったと言えるかもしれない。
ほかに、1997年当時は『ゴールデンアイ』の次作、『トゥモロー・ネバー・ダイ』の上映が間近に控えていたという背景もある。それも映画版への興味を誘いやすかったが、ゲームだけでもこれだけのフックを設けていたところには、本作には新たな『007』ファンを開拓する狙いも込められていたのでは、と推察したくなるものがある。
現にこうして足を踏み入れた人間からすれば、『ゴールデンアイ 007』というゲームは優れた原作付き作品であり、その入門編に仕上がっていた印象だ。
もちろん、そこには大前提たる単体のゲームとしての面白さもある。ただ、それだけに終わらせず、原作に対する興味を持ってもらう仕掛けを至る所に設ける試みは、他の同じようなゲームも参考にする価値があるのでは、と思うところだ。