石若駿とAIの共演が生み出した、“即興演奏を解体&再構築する”特殊な音楽体験 『Echoes for unknown egos――発現しあう響きたち』を観て
ここで述べた以外にも、「Echoes for unknown egos」は、即興演奏、プレイヤーの身体性、偶然と意図、音楽における楽音と非楽音(西洋音楽史上、打楽器が常にこの狭間で揺れ動いてきたことを想起したい)、そしてテクノロジーとの協働……といったさまざまな思考をうながしてくれるパフォーマンスだった。先に述べたように、それが見ごたえのある、興味深いものに結実していたことも特筆すべきだろう。
しかし、もっとも興味深かったのは、実際に石若らに話を聴いてみると、本作がもたらす豊かな経験と問題提起が、コンセプトありきの理詰めでつくられたものでは決してないということだった。実装されたアイデアのひとつひとつはどれも、一年半にわたるチーム全体での試行錯誤を通じてかたちになったもの。逆に言えば、今後もブラッシュアップされ、変化してゆく可能性に満ちた作品なのだ。またどこかで、本作が新たなアイデアと共にお披露目されることを願いたい。
※本稿の執筆にあたり、エージェントの仕様など全体のテクニカルな構成については当日配布のハンドアウトやアフタートークの内容を、また具体的な制作プロセスや意図については石若駿・松丸契の両氏、及びプロデューサーの竹下暁子氏への取材内容を参考にした。ご協力ありがとうございました。
(画像提供=山口情報芸術センター)