「TikTokで本の売り上げが変わる時代」マンガと小説ではどう違う? 書店員はなに聞く、動画と書店現場の関係
「若い世代には『案件だから叩く』みたいな傾向はない」
今後、本紹介動画クリエイターの影響力をさらに増大させていくためには、「本」あるいは「マンガ」特有の事情や課題を踏まえて手を打っていく必要があるだろう
「小説紹介をしているけんごさんとも『いいねを押してもらうまではいけても、そこから実際に買ってもらうのが難しい』と話しています。たとえばドラマやアニメなら紹介すればスマホでAmazonPrimeVideoやNetflixを開けばすぐに観てもらえます。マンガも『LINEマンガで無料ですぐ読めます』みたいなケースはTikTokからマンガアプリに流せばダイレクトに反応がある一方で、『紙の本をリアル書店で買ってほしい』と思っても直接導線が作れない。それから、動画がバズったおかげで売れて品切れになると、増刷して書店に並ぶまでに平気で1か月くらい経ってしまうのがジレンマですね」
加えて、マンガの場合は小説とは異なる困難もある。
「小説だと書店店頭で『TikTokで話題』というくくりで複数タイトルを並べて平台や棚を作りやすいんです。そうすると一冊一冊は話題の旬が過ぎていてもまとめ売りすることでもう一度認識してもらえる。一方でマンガは基本的に1タイトルごとの巻数が多いので、TikTok銘柄でまとめようにも何タイトルも置くスペースが書店にはない。小説よりも書店現場で『面』で売りづらいんです」
うまく長続きさせる方法はないのか。
「『チャンピオン』連載の『桃源暗鬼』が去年1、2巻が出たときバズったこともあり、今年の夏に4巻が発売されるタイミングで秋田書店さんが書店店頭でのプロモーションと複数のTikTokクリエイターに声をかけたキャンペーンを連動させてやっていました。このときは各巻数万部単位で売れたんじゃないかな。出版社が公式で書店店頭とTikTokを絡めてタイミングをある程度コントロールしながら展開してもらえると反響が長続きするし、大きくなっていくと思っています。先ほど言った複数タイトルまとめての『面』づくりの難しさも考えると、マンガは1作品を集中的に売り出す方がいいかもしれません」
出版社主導でTikTokクリエイターにお金を払って取り上げてもらう場合、“案件”臭に視聴者が引いてしまうリスクも気になるところだが……。
「お金をいただいた場合、ハッシュタグに#PRと入れていますが、もともと自発的にマンガ紹介をしてきたなかでマンガのPR動画が入っても特に気にならないようで、批判コメントが付いたことはないですね。若い世代には『案件だから叩く』みたいな傾向はないんだと思います。昔の2ちゃんねるとかにあった『嫌儲』とは全然文化が違う」
ただ、フォロワー数が多いほどPRの発注金額が高くなり、出版社がこれから売り出したいマンガの認知拡大に依頼する場合には宣伝費的に折り合いづらいという課題はある。
ここまで見てきたように、さらに影響力を増すためにはクリアすべきいくつかのボトルネックがある。しかし、そこがわかってきたということは、逆に言えば「TikTok売れ」の伸びしろはまだまだ大きいということでもある。