「男女の『こうあるべき』をなくしたい」 ジェンダーレスTikTokクリエイター・聖秋流と考える“生きやすい世界と社会”
次世代のクリエイターを輩出し続ける、ショートムービープラットフォーム・TikTok。ここから世に出ているクリエイターは、特に“いま”の若い世代が持つ新たな価値観を体現していると感じることが多い。
今回インタビューしたクリエイター・聖秋流(せしる)は、そんな“新たな価値観”をわかりやすく提示してくれる一人だ。ジェンダーレスな考え方・生き方をオープンに表現し、ファッションやメイクを追求する姿や、関西弁を活かしたユニークなおしゃべりで、多くのファンを獲得している。今回は、聖秋流の過去やTikTokを始めたことで生まれた変化、アンチへの対応、生きやすい世界と社会、自身がプロデュースするファッションブランド「Ceci&Ü(せしゆー)」についてなど、多くのトピックについて話してもらった。(編集部)
本当は内気でネガティブ……自信をつけて生きやすい世界にしたかった
ーーTikTokを始める前、聖秋流さんはどんな人だったんですか?
聖秋流:もともとは人前に出ることが嫌いで、ネガティブで、内気で、ほんまに暗い性格なんです。幼稚園の頃からずっとですね。自分の顔が嫌いだったので、中学のときもずっとマスク生活でした。
ーーどういうきっかけで、今のように自分を表に出すようになったのでしょうか。
聖秋流:「生きやすいようにしたい」と思ったんですよ。なんでこんなに自分が嫌いなんだろう、内気なんだろうと考えたときに、自分に自信がないことに気がついたんです。だからまずメイクをがんばったりして自信をつけて、人前に出ることにしました。
ーー自分に自信をつける方法が数ある中で、なぜメイクを選んだのでしょう。
聖秋流:私は小学校のころから女の子と仲良くしていたので、メイクが身近なものだったんです。だからその効果がどれほどすごいものかもわかっていました。ある日、コンプレックスを直すためにメイクしてる人がいるのを見て、「まさにそれや!」と思って。自分が嫌いな部分もメイクなら改善できる、と奮起したのがきっかけです。
ーーご自身のセクシャリティを自覚したのもそのあたりですか。
聖秋流:外で遊ぶってよりかは、教室でおしゃべりしてるタイプで、もともと男の子と話すより、女の子と話してる方が楽しかったし、スカートを履くことにも昔から抵抗がなかったんですよ。だから、自覚したというより、自然とそうなっていったというか。家族や友達が、自分がそういう人間やということをすんなり受け入れてくれたのも大きいのかもしれません。
ーーそれはすごく大きいですね! 自信をつけてSNSで発信するとなったときに、まず選び取ったSNSはTikTokではなかったんですよね。
聖秋流:ずっとやっていたのはTwitterです。ただ何かを積極的に発信するわけではなくて。そのあと友だちに「TikTokやってみれば?」と言われたのがはじまりです。
ーー始める前と後で、TikTokへの印象に変化はありましたか?
聖秋流:やる前は怖かったですね。誰もが匿名でコメントできる場所ですから。でも何もしないまま自分が生きにくい世界で生きるのも嫌やなと思って。ありのままの自分を世の中に公表すれば自分も生きやすくなるし、同じ境遇の人も生きやすくなるはずなので、やってみようということで始めました。
ーー自身の発信スタイルを見つけるのに試行錯誤されたと思いますが、最初のころとの変化はありますか?
聖秋流:自分的には最初とあまり変わってないですね。昔からずっと聖秋流そのまんまだと思います。
ーー聖秋流さんの過去の動画を改めて拝見したのですが、動きやしゃべりなど、回数を追うごとに研ぎ澄まされているように思います。
聖秋流:ほんとですか? 照れるんですけど。
ーーより自信がついてきたというのが、動画越しにも感じられます。
聖秋流:嬉しい(笑)! でもそれって自分でつけたんじゃなくて、ファンの方のおかげでついたものなんですよね。だから毎回コメントをチェックするようにしているんです。
ーーSNSの世界に出ていくと、必ずしも肯定的な人ばかりではないですよね。ネットに出たことで、精神的に揺らいだ時期はありましたか?
聖秋流:あります(即答)。めちゃくちゃあります。私の場合、一つひとつの動画に対して賛否両論のコメントがあるので、そういう時期があったというより、今もその都度揺らぎますね。感情の起伏が激しいです。
そういうことには、長く接しててもやっぱり慣れないですね。というより、慣れる人っているんですかね? そういう人って初めから気にしないタイプの人だと思うので、私みたいな人はずっと慣れない気がします。人間やから、気になりますし、落ち込みますよ。
ーーでもそんなコメントへの切り返しのうまさや鋭さは、聖秋流さんの強みでもあると思います。アンチ的な人にも、的確かつおもしろく返せる人って多くないので、自分自身も動画に励まされている部分もありますから。
聖秋流:それは嬉しいです。アンチコメントって、直接ズバッと言うものが多いじゃないですか。それって関西人の感覚からすると「しょうもない」んですよ。もうちょっとおもしろい言い方をしてくれたら、こっちもおもしろがれるのに。そんなしょうもないコメントやからこそ、おもしろく返したろうという精神が出るんですよね。
ーー同じ関西人なので、どうせイジるなら面白くイジってくれ、という感覚はよくわかります。過去の動画やコメントを見ても、“おもろくありたい”という気持ちは聖秋流さんの中で一貫してあるのかなと思いました。
聖秋流:ほんまはカワイイ系になりたかったんですが、うまくいかなかったので、しゃべるスタンスに変えたんです(笑)。
ーーでも、見た目の華やかさとしゃべりのおもしろさのギャップが、良い意味で作用していますよ。
聖秋流:個人的には自分のことをおもしろいと思ってないんですよ。これは謙遜とかじゃなくてほんとに。1人でスマホに向かってしゃべってるときにおもしろさを出すのって難しいんです。
ーーそれでは少し俯瞰した目線で撮影してるから?
聖秋流:そう。普段あった出来事を普通にしゃべってるだけなんで。見てるひとが面白いって感じてくれるのは、関西弁やから、というのも大きいと思うんです。あと、関西人ってオチを先に決めてしゃべり出すことが多いのかな、とは思います。この話を最後にもってこようって決めて、頭の中で順番を決めながら話すというか。
ーー頭の中でパパッと流れを組み立てる構成力があるんでしょうね。関西弁って声に抑揚がつくから、シンプルな話題でも多少面白く聞こえがちなマジックはかかると思いますが、とはいえ聖秋流さんのように、短い尺の中でおもしろいトークができる人はそんなに多くないですよ。
聖秋流:うれしい、ありがとうございます。
ーー聖秋流さんのおしゃべりのルーツはどんなものなのでしょうか。好きな人や、影響を受けている人はいますか?
聖秋流:とにかく家族でしゃべるのが好きなんですよ。身内でいるときだけおしゃべりで。内気な人ってそういう人が多い気がします。3人兄姉なので、ずっと友達感覚でしゃべってます。
ーー家の中でお互いをいじり合うみたいな雰囲気だったんですかね。
聖秋流:そうです、家族への“笑わしたろ精神”みたいなのはありますね。
ーーそのほかに、影響を受けたものはありますか?
聖秋流:ちっちゃいころからバラエティ番組や漫才を見るのが好きだったんですよね。それこそ土日の昼間にずっと長い時間やってる漫才番組とか。家の中では、自分はどちらかというとボケよりツッコミで、イジったり回したりすることが多いです(笑)。