Apple「フォートナイト公判」地裁判決の意義とは? 〈フォートナイトの乱〉勃発からの1年を振り返る

Apple「フォートナイト公判」地裁判決の意義

そしてつば競り合いは続く

 2021年9月1日、Appleはアプリ開発業者にさらに歩み寄るApp Store改革案を日本の公正取引委員会と合意したと発表した。その内容とは、デジタル版の雑誌、新聞、書籍、オーディオ、音楽、ビデオの購入済みコンテンツまたはサブスクリプションコンテンツを提供する「リーダー」アプリケーション内に、「ユーザーがアカウントを設定または管理できるように」アプリ開発業者のウェブサイトに移動するためのリンクを1つ設定できる、というものだ。この合意は、日本だけではなく世界中のリーダーアプリケーションに適用される。

 以上の合意内容が正式に適用されると、例えばNetflixのiOSアプリのユーザビリティが向上すると推測される。現在のNetflixアプリで「アカウント」ボタンをタップすると、「アカウントを管理するにはNetflixのウェブサイトにアクセスしてください」と表示される。近い将来、この表示の代わりにNetflixウェブサイトへのリンクが設定されるだろう。

 そして、2021年9月10日にロイター通信が報じたところによると、フォートナイトの乱をめぐってアメリカ・カリフォルニア州の連邦地裁は、Appleに対してアプリ開発業者に課している課金ルールを緩和するよう命じた。具体的には、外部決済システムへの(リンク等を使った)誘導が認められるようになる。その一方で、アプリ内課金に関しては、従来通り15%ないし30%のApple税を徴収できることが改めて認められた。

 連邦地裁の命令は、Appleと日本の公正取引委員会の合意内容と比較して、「リーダー」アプリケーションという限定がない点においてさらに踏み込んだものとなっている。しかし、アプリ内に独自決済システムを実装することは、依然として認められていない。

 フォートナイトの乱が勃発してからAppleが示したApp Store運営の譲歩案およびフォートナイト公判の第一審を精査すると、同社が定めたプラットフォーム使用料を徴収する収益構造は変わっていないことがわかる。

 前述のロイター通信の記事によると、Epicは今回の第一審を不服として上訴する意向を示した、とのこと。同社が求めるのは、あくまでアプリ内に独自決済システムを実装する自由なのだから、上訴は当然と言える。

 ところで、EpicはなぜNetflixやAmazonのように外部決済システムへの誘導で良しとしないのか。その理由は、フォートナイトの乱をめぐる決意表明を記した「Free Fortnite」に書かれている。同社が外部決済システムの実装で満足しない理由は、「アプリ内購入において障害がなくてシンプルな選択肢をすべての顧客に提供したい」からである。同社にとって、アプリから外部決済システムに移動すること自体がひとつの障害なのだ。

 Epicがアプリ内の独自決済システムにこだわる理由は、同社がメタバースを目指していることからも説明できる。メタバースとは、ゲームだけではなく各種イベント、さらにはアイテムの売買といったさまざまな活動が行われる仮想空間を意味する。同社がフォートナイトにおいてバーチャルライブ「Astronomical」「Ariana Grandeリフトツアー」を開催したことに、メタバース実現への熱意がうかがえる。

 メタバースを実現するにあたって、外部決済システムを採用した仮想空間を構築した場合、アイテムの売買が発生する度に仮想空間から決済を行うための空間に移動しなければならなくなる。この移動によって、メタバースへの没入感が大きく損なわれることは明らかだ。それゆえ、メタバースを損なう障害を今のうちに除去したいとEpicが考えていても不思議ではないだろう。

 以上のようにEpicとAppleの争いは、まだ終わりそうもない。アメリカは日本と同様に三審制なので最高裁判所まで争うことになった場合、決着するまで数年を要するかも知れない。この争いには、デジタルプラットフォーム改革やメタバース実現といった大きなものが賭けられているので、双方とも簡単には引かないだろう。

トップ画像出典:Apple Newsroomより画像を抜粋

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる