『ワンダープロジェクトJ』の貴重な資料もサルベージ スクエニで始動した「SAVE PROJECT」で“資料”を“資産”へ
昨年に引き続き、今年もコロナ禍の影響からオンライン開催となった『CEDEC 2021』。本稿では各セッションから「資料を資産へ、スクウェア・エニックスにおけるゲーム開発資料発掘プロジェクト[Wonder Project J編]」の模様を記す。
登壇者はスクウェア・エニックスから三宅陽一郎氏(テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー)と同じく藤本広貴氏(第四開発事業本部ディビジョン1 シニアマネージャー/プロデューサー)。三宅はSAVE PROJECTについて解説した。
スクエニが保有する資料を資産へ タイトーなどを含め約70年分
SAVE PROJECTは、スクエニの過去遺産をサルベージするプロジェクトの名称とのこと。立ち上げたばかりで、メンバーは開発経験者を含めた3名だという。その3名が互いに各々の長所を活かして連携し、多様な側面に対してフレキシブルに補完しながら進めていく。
開発者が担当するのは、経験から資料の分類や由来に関する判断が可能であるためだが、そのうちの1人はスクエニの事務業務全般にも精通しているそうだ。他の各部の業務内容から責任者・実査業者の顔も把握しており、問い合わせ先が不明瞭なもの、明確な窓口がない案件など幅広く対応できる。
とはいえ専任がいるわけではなく、各自が本業をこなしつつ行っている。過去遺産は子会社のタイトーの分も合わせると約70年分、それらが複数の倉庫に分散されて約1万箱が存在。その約1万箱には事務所類も含まれ、そのうち開発関連資料は1割強となっている。
ただ管理リストに記されているのは、ざっくりとした部署と内容。管理フォーマットが徹底されておらず書き方もバラバラである。宣伝素材は宣伝部、書籍は出版部、楽曲はサウンド部、映像は映像制作部、タイトー関連はタイトー、『FF』・『ドラクエ』・『キングダムハーツ』はそれぞれの部署が独自に管理していた。
そのため管理を開始した時期や前後の内容から検討をつける必要に迫られた。目的は内容物の可視化。リスト化することでGREP(文字列検索)が可能になり、目的の対象がどの倉庫のどのダンボールに入っているか分かるようにした。段ボール単位で全体写真、個別写真、内容物の一覧表(Excel)、紙の資料はスキャンしてPDF化(OCR読み取りも併用で検索も可能)といった管理方法で、今後の迅速な手配を可能にした。
SAVE PROJECT始動の経緯 先行していたバンナムの事例を参考に
SAVE PROJECTが始動することになった経緯は、2019年夏、研究に必要な技術資料を探すため旧エニックスのデータを調査したことだった。通常は社内のデジタルライブラリーで管理されているはずが、見つからなかったためアナログ資料を取り寄せることになった。
詳細な倉庫管理情報がなく、1倉庫分まるまる取り寄せてみたところ、開発者にとって宝の山が転がっていた。そこからきちんと管理しなければならないのではないかという話になり、2019年秋、管理が先行していたバンダイナムコゲームスの岸本好弘氏、兵藤岳史氏に相談した。
岸本と兵藤は『CEDEC 2018』でセッション「ビデオゲーム黎明期の開発資料を紐解く ナムコ開発資料のアーカイブ化とその活用」を実施。また同年は立命館大学にて開催された『Ritsumeikan Game Week 特別展』内の「『ギャラクシアン』→『ギャラガ』→『ギャプラス』展」もあった。
これが後にSAVE PROJECT立ち上げのきっかけになる。しかし先に述べられたように、当時は倉庫内に段ボールで管理されていて管理票には大まかな情報が書かれているのみ。中がどうなっているのかは不明で、どのような形で管理されているのか、どのような状況が想定されうるのか、どのような物が内包されているのかが分かりにくかった。
それらの状況をおおまかに把握できた2019年冬。管理フォーマットの定義、作業マニュアルの作成、必要機材の洗い出し、スケジュール概要の計画、予算の算定、関連部署への根回しと、対応策を検討した。