『ワンダープロジェクトJ』の貴重な資料もサルベージ スクエニで始動した「SAVE PROJECT」で“資料”を“資産”へ

コロナ禍で在宅ワークが推奨 個人開発資料の破棄が懸念材料に

『ワンダープロジェクトJ』の開発資料より。藤本「こちらは作画監督の飯田馬之介さんから出てきたイラスト。ディレクターの米田喬さんから『こういう島なんです』と説明されたら『こんな感じですかね』と出てくる。ラフの段階からスゴいものが出てきていた」

 2020年春、社長に直接プレゼン。バンナムの事例および岸本と兵藤との打ち合わせ内容、社内外に向けたメリットを主張し、正式なプロジェクトとして発足することになった。

 人材のアサイン、予算の取得、年次目標の設定と進めていたところ、新型コロナウイルスの影響により作業が滞った。物理メディアをデジタル化する作業には出社する必要があるが、全社的に在宅ワークが推奨され、緊急事態宣言下では原則的に出社は不可となった。

『ワンダープロジェクトJ』でキャラクターデザインを担当した川元利浩氏によるラフ。藤本「ピーノその2って書いてあるけども、その1だったり3だったり色々あって、その中から選ばれた。川元さんには、それ以外にもキャラクターを作って頂いた」

 さらに在宅ワークが推奨されるとなると、オフィスが縮小する可能性も出てくる。正式な話はないものの、考慮すべきと判断。オフィスの縮小に伴う開発資料の廃棄、特に個人が管理している資料が対象になるのではと懸念された。

 2020年秋、社内向けの報告会でSAVE PROJECTの活動概要を報告。この報告は各社員が視聴可能で、個人資料は廃棄せず譲渡するようお願いした。社内で広報活動はしていなかったが、この時点でSAVE PROJECTの存在は全社の知るところとなった。

『ワンダープロジェクトJ』の開発資料より。藤本「普通のアニメのように原画・動画を描いて、それを取り込んで色をつけるというのをやっていた。通常はドット絵を作って、その絵を切り替えて表現していくけども、非常に生き生きとした主人公を作れた」

 報告が奏功してか、他の部署から問い合わせが入るようになってきた。偉い人の退職で扱いに困っていた個人的、使途不明な荷物などの相談も寄せられた。2020年冬には、総務部が個人的な荷物の持ち帰りを推奨。ワークスペースの効率化も始まった。

 在宅ワークが恒常化すると、より個人開発資料の破棄の可能性が高まる。そこで総務部とも連携し、個人開発資料をSAVE PROJECTへ譲渡してもらうよう推奨。これによって、各部や個人から資料を回収する速度が上がっていった。

リモートで失われる帰属意識 会社のルーツを明確にする意味も

過去資料の整理の目的・ゴール。開発支援・広報支援・人事支援

 そして今年2021年夏。個人開発資料は散発的に依頼が舞い込んでいる。タイトルごとの分類作業は今後だが、旧エニックスの資料はデータ化・インデックス化が終了。それでもまだまだ膨大な量の資料が倉庫に眠っている。

 当セッションでは、旧エニックスの資料から藤本が『ワンダープロジェクトJ ~機械の少年ピーノ~』についても語った。本作はピノキオをモチーフとした企画『ジェペットの息子』が元ではあるが、その前にPCの中で架空のペットを育てる『コンペット』と題した企画もあった。

 三宅は藤本が語った内容も例に挙げ「当時はROMやCPUに限界があってできなかったことが、今のハードウェアならできる。その本質は、できなかったことを拡張すること。これからの流れを探るために過去の流れを構築する。先輩の頭の中にはあるかもしれないものを誰にも分かる形で残すのは、新人教育としても重要なことになっている」と言及した。

お伝えしたかったこと。それぞれの仕事、1つ1つをつないで流れを作ることに意味がある

 また「リモートで仕事していると会社への帰属意識を持てない人も多いと思う。場所があれば一体感を得られるが、そういったものが失われつつある中で、会社のルーツを明確にする仕事がある」と三宅。「こういった資料を整理して目に見える形でビジュアライズしていく人事支援でも価値を持つ。開発支援、広報支援、人事支援で意味がある」とした。

 三宅は最後に「今回の標語にしたような『資料を資産へ』というのがキーフレーズかと思う」と話し、「役に立つかは職種や立場それぞれだと思うので、特定の資料というよりは体系的に掘り起こして資産に変えていく。確かにコストはかかると思うが、それに見合う価値がどれだけあるか証明していく。継続的にSAVE PROJECTの活動を続けていくことが可能になる」とセッションを終えた。

資料を資産へ、スクウェア・エニックスにおける
ゲーム開発資料発掘プロジェクト [Wonder Project J編]
https://cedec.cesa.or.jp/2021/session/detail/s6062e3579b5be
CEDEC 2021
https://cedec.cesa.or.jp/2021/

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