スクエニ、シーマン、バンナム、モリカトロン……ゲームAIを牽引してきた開発者4人が語る「20年の歴史と未来への展望」

スクエニ、シーマン、バンナム、モリカトロン……ゲームAIを牽引してきた開発者4人が語る「20年の歴史と未来への展望」

 8月22日〜24日にかけて、ゲーム開発者向けのカンファレンス「CEDEC 2018」がパシフィコ横浜で開催された。24日に行われたセッション「ゲームAI技術20年の進化とこれから」では、スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏をモデレーターに、モリカトロンの森川幸人氏、シーマン人工知能研究所の所長の斎藤由多加氏、バンダイナムコスタジオの長谷洋平氏といった、日本のゲームAIを牽引してきた開発者たちが登壇した。あらためてその内容を振り返ろう。

 まず最初に三宅氏が、自身の自己紹介とともに国内外のゲームAIの歴史を振り返った。ゲームにおけるAI技術は、1995年頃からMIT Media Labなど学術機関での研究室からゲーム産業に移転されるようになった。それらのAI技術は2002年から2008年にかけて、海外のFPSを中心としたゲーム内に実装されることで発展していった。

 ゲームAIが大型ゲームに使われるようになったのは、上記のFPSにおけるゲームAIの発展に加えて、2008年頃にプロシージャル技術といわれるグラフィックやマップなどの自動生成技術が実装されるようになった影響が大きいという。2009年にはアニメーションパスファインディングや、ゲーム全体を制御するメタAIといった技術が実装されるようになった。そして2010年には、それらを統合したキャラクター制御が高度化し、2011年には大型から小型のゲームまで幅広くゲームAIが使われるようになった。そこに学習進化アルゴリズムが導入されたのが2014年である。そして現在は、より学習に特化したディープラーニングの実装が本格化し、またそれと同時に開発工程においてもデバッグの自動化やQAなどにAIが利用されるようになった。

 ゲームAIの開発者コミュニティで最も大きいのは、AI Game Programmers Guild という団体である。ここには700名くらいのゲームAIエンジニアが登録して、メーリングリスト上で毎日のように激しいディスカッションが行われている。日本もまた、試行錯誤を経ながらこれに近い形のコミュニティが立ち上がりつつあるとのことだ。このようにして過去20年の間にゲームの技術および開発者コミュニティが、GDCやCEDECといった開発者向けカンファレンスを介して徐々に拡大していった。

AI Game Programmers Guild

http://www.gameai.com/

日本のゲームAIコミュニティ

Google Group: game-ai 
Slack: game-ai-ja 

 ゲームAIの学習に役立つ資料についても紹介されていた。人工知能学会のサイトには、「私のブックマーク『ディジタルゲームの人工知能(Artificial Intelligence in Digital Game)』」という、ゲームAIに関するリンク集と解説が、三宅氏によって集められている。また、英文のみとなるが『HALO』を開発したバンジーのサイト「BUNGIE PUBLICATION」には、同社のゲームAIの情報があり、ゲリラゲームズのサイト「 Guerilla Games publications 」にも、詳細なムービーやAIの解説が掲載されている。メタAIの金字塔と言われるタイトル『Left 4 Dead』のディベロッパーValve Corporationのサイト上にある「Valve publications 」にも、同社のゲームAIの解説やGDCでの発表スライドなどが公開されている。

先駆者が語る今の日本でゲームAIが必要とされる理由

 続いて登壇したのは、2017年にゲームAIに特化した企業、モリカトロンを設立した森川幸人氏である。1990年代まではフジテレビの「ウゴウゴルーガ」などテレビ番組でCG制作に携わっていた森川氏がゲーム開発に関わるようになったのは、1997年にソニー・コンピュータエンタテインメントから発売された『がんばれ森川君2号』を制作したのがきっかけである。

 「自分でも、なぜゲームにAIを使おうと思ったのか、全然覚えていないのですが、何となく企画を出したら、『いいんじゃない?』ということで通ってしまったので、そこからAIの勉強を始めて作ることになりました」と森川氏。その技術は当時のゲームとしてはめずらしいバックプロパゲーション(誤差逆伝搬法)というニューラルネットワークの教師つき学習アルゴリズムであった。ちなみにこのゲームのタイトルが『がんばれ森川君2号』になったことは、開発当時の森川氏は知らず、東京ゲームショウで初めて知らされて驚いたという。

 さらに遺伝的アルゴリズムにも関心持った森川氏は、翌年の1998年に『アストロノーカ』というゲームをエニックスからリリースした。このゲームのプレイヤーは宇宙で野菜を育てる宇宙農家(アストロノーカ)となり、バブーという害獣から野菜を守りながら野菜を育てるというゲームである。ところが、バブーは実装された遺伝的アルゴリズムによって、仕掛けたトラップの回避方法を学習する。プレイヤーが強力なトラップを仕掛けるほど、それを学習して回避能力が高くなってしまうので、やみくもにトラップを仕掛けると却って不利になってしまう。

 2003年には、歌詞やメロディを自動生成して音声合成でアニメーションのクマが歌う『くまうた』をリリースした。これは演歌歌手を目指すクマに歌を教えるという設定の育成シミュレーションで、2007年の初音ミク以降にブレイクしたボーカロイドの走りとなるタイトルである。

“Scarcity value” (Original Enka song of Hatune Miku)

 この動画では、クマが初音ミクと歌っているが、これはファンが自主的に作ってYouTubeに投稿した動画であるとのこと。「初音ミクの大ブレイクを見ていると、キャラクターをクマにした自分の商才のなさを、すごく反省した覚えがあります」と森川氏は苦笑しながら当時を振り返った。

 その後しばらくはAIゲームの制作から離れ、AI関係の書籍の執筆などをしていたところ、2010年代からディープラーニングが普及したことによる第三次人工知能ブームが訪れた。日本のゲーム業界が再びAIに関心を向けるようになった最も大きな要因は、世の中でAIが大きく話題になっていることに加え、スマートフォンで遊ぶソーシャルゲームの流行の影響が大きいと森川氏は指摘する。

 曰く「色々なお話を持ってきてくださる会社さんの7割か8割くらいはソーシャルゲームを作っている会社さんです。恐らくコンシューマーゲームよりも、さらに厳しい予算管理やコスト管理があるので、AIを使うことで少しでも作業を軽量化したいと注意を向けられている人が増えているのだと思います」。そのような需要の増加もあり、森川氏らは2017年8月に、ゲームAIに特化したモリカトロンという会社を設立した。

 モリカトロンでは、クライアントから開発中のゲームに、AIを使って入れたい内容をヒアリングしながら、それらに見合ったAIのモデルや現在の技術で可能なことを提案しながら設計する仕事を受託している。「開発工程の終盤で、にっちもさっちも行かない状態の案件も、実は多かったりします。このままスクリプトをカリカリ書いていたら膨大な作業になっちゃうので、AIで何とかならないかというご相談をよく受けることもあります」。その場合、例えば今までスクリプトで動かしていたキャラクターの行動を、スクリプト部分を取り外して、行動判断をするAIを組み込むことも行うという。

 また、よく相談が来るのは、ソーシャルゲームのキャラクターのパラメータやデッキを調整する案件である。ソーシャルゲームでは、新しいキャラクターが出てきた際に、全体のゲームバランスが崩れることを防ぐために既存のキャラクターに合わせてパラメータを調整する必要がある。これらをすべて人力でやるのは大変な手間がかかるため、AIで自動調整する。それと同時にキャラクターのセリフもAIを実装することで、プライヤーのライフログを参照した会話ができるようにしている。

 他にもゲーム全体の難易度やイベントの発生などを、プレイヤーの動向を見ながら調整するメタAI、ゲーム内のマップやパズル画面の自動生成などもAIで行っている。また、ゲーム内のみならず、デバッグやQAなど、ゲームを開発する過程で活用するAIの設計もチャレンジしていくと、今後の意気込みを語った。

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