性別不詳のVTuber・緑仙が切り開いた、成功の“スペシャルパターン”

緑仙が切り開いた、成功の“特殊パターン”

 2018年秋からスタートし、現在では海外所属を含めて150人近いヴァーチャルライバー(≒Vtuber)が所属するにじさんじ。YouTubeを中心にしたライブ配信をしている彼らにとって、ほぼ毎日のように頭を悩ませるのが「配信のネタ」だ。

 大部分のライバーが行なうネタと言えば、ゲーム配信だろう。ゲームが上手であればリスナーはナイスプレーを期待して応援するし、ゲームが下手であっても「いかに上手くなっていくか」もしくは「ゲームそのものを楽しむ姿」を見てハッピーになれるだろう。各ライバーが見せる悲喜交々な姿は、コメント欄は応援とブーイングが混ざり合い、余人をもって替えがたい配信動画へとなっていく。

 ここで一つ問いかけたい。「ゲーム配信を好んで配信しない」ようなVTuberやライバーはどのように活動をするのだろうか、と。トーク配信、カラオケ、多くのゲストを呼んだコラボ企画、もしくは事前に制作した動画投稿などが挙げられる。こういった配信にしても、にじさんじ・ホロライブ・774 inc.といった企業に属しているタレントならば、多くの目を引き付けやすいし、視聴者も集めやすいのは事実だ。

 個人活動しているVTuberにとっては羨ましくも見えるが、「企業」の看板を背負っている以上、リスナーの評価基準も潜在的に高いものになっている。「面白くて当然」というような状況で、面白い配信を届け続けるだけでなく、大人数が関わることで不確定要素がより増え、一人で配信するよりも工程数が増える。このパターンで活動を続けるのは、こなすだけでも難しい。

 今回の主役である緑仙は、このスペシャルパターンを切り開き、人気を集めたライバーの一人だと言える。

 2018年12月24日に配信した、『大乱闘スマッシュブラザーズ』を用いたゲーム実況。ジャンプも歩くのもうまくできるか分からないと話す緑仙、「なんでだよ」というコメントからのツッコミに対し、なかばカミカミになりつつ冗談めかしてツッコミ返したのが以下の言葉だ。

「全員が全員ゲームが買い与えられるような家庭環境のなかで生活していると思うな。経済状況的に問題があったからこそ、ゲームが買い与えられていない環境下の中で、『ごめんね緑仙、でもパソコンは使っていいよ』って言われた結果がこれなんだよ!」

「口ばっかりが悪くなり、ネットのいらん知識ばっかり増え、漫画・アニメを読み漁り、気付いたらこの結果でございます。みんながゲームにリソースを割いていた分、こちとらアニメやマンガにリソースを割いてたんじゃ!」

 緑仙のゲームへの苦手意識は現在でも続いており、『Minecraft』『ARK』以外のゲームにはあまり手を出しておらず、ゲーム配信をメインにしているとは言い難い。

 その代わりに、緑仙はデビュー当初から歌ってみた動画やカラオケ配信に注力してきた。男性とも女性ともつかない中性的な歌声を活かし、男女関わらず多くのアーティストをカバーし、これまで歌ってきた楽曲は100曲をとうに超えている。

 にじさんじ内の歌ユニットや複数人のコラボカバーも数多く、以前に執筆した樋口楓とともに、一時期にはにじさんじの歌ってみた動画の半数近くがこの2人であった時期もあるほどだ。

 2019年後半からは自身のオリジナル楽曲を発表し始め、2021年2月14日にはファーストEP『It'sLie』をリリース、ソロシンガーとしての一歩を踏み出している。

緑仙 1st EP「It'sLie」クロスフェード (2021.2.14 On Sale)

 さらには、2020年1月には6人組ボーカルユニット・Rain Drops(緑仙、三枝明那、童田明治、鈴木勝、える、ジョー・力一)のメンバーにも選ばれ、2021年8月26日にはファーストワンマンライブ『雨天決行』を開催、9月22日にはファーストフルアルバム『バイオグラフィ』を発表。緑仙にとって現在の活動は「歌うこと」を中心にしているといって過言ではない。

Rain Drops『エンターテイナー 』Music Video(9/22発売『バイオグラフィ』収録曲)

 これだけでなく、これまでも多人数コラボ配信を企画・運営・進行などに数多く参加し、にじさんじきっての“企画屋”とも呼ばれる顔もある。

 それらの配信にはネットカルチャーから確実に影響を受けた磨かれてきたセンスが垣間見える。その一端をタイトルだけでも記しておこう。

・にじさんじライバー妄想トーナメント戦
・SEEDs全員集合!!!24時間生配信
・【本人希望】引退したメンバーでエピソードゲーム【#アズマを偲ぶ会】
・健屋を喜ばせろ!第一回嘔吐プレゼン大会
・にじさんじ格付けチェック
・元気になるにじさんじ歌配信リレー
・にじロックフェスティバル
・にじさんじクイズ王決定戦

 明らかにテレビ番組をパロディにしたような配信もあれば、斜め上からの発想で自身のチャンネルから配信されたものもあり、「歌うこと」にかける熱意や行動力で押し切った企画配信もある。

 これらの配信には、緑仙以外のライバーが立ち上げ時点から協力した企画もある。黛灰から立案されて企画協力した「にじさんじクイズ王決定戦」が「にじクイ」へと公式番組化していることからも分かるように、にじさんじ公式が音頭を取ってオリジナル番組として制作されていくこともある。

 ライバーが大人数・大規模な企画を配信し、ファンがそれを楽しんできたからこそ、「にじさんじ自前のネット番組の制作と配信」という流れへと繋がっていく。緑仙は、その轍を残したライバーの1人だといえよう。

 先にあったように、マンガとアニメの知識は非常に豊富で、「漫画プレゼン同好会」とし天開司、因幡はねる、社築、漫画家/VTuberの伊東ライフ、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』などで知られる漫画家の西義之とともに漫画語り企画を定期的に開催。週刊誌・月刊誌だけでなく、webマンガや昔のマンガに至るまでもチョイスする見識と審美眼で、コラボ相手や視聴者をつねに驚かせてくれている。

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