ネットの企画を「テレビみたい」と言うのはさみしい。『勇者ああああ』とアルコ&ピースが目指す“笑い”のかたち

『勇者ああああ』とアルピーの現在

 新型コロナウイルスの影響もあり、多くの芸能人がYouTubeデビューを果たした。タレントのインターネットへの露出が増えたことにより、メディアとYouTubeの両方の存在を感じながら、番組や動画の企画を立てることはもはや当たり前になりつつある。連載企画「テレビとYouTubeの現在地」では両メディアに関わりを持つ有識者に、テレビとYouTubeは今後どんな関係性を築いていくのかをインタビューし未来を予測していく。

 狭く深い視聴者たちに支持され続け、一部の熱狂的な人気を集めてきたテレビ東京のゲームバラエティ『勇者ああああ』。2017年4月に深夜番組として始まり、2020年10月にはプライム帯に昇格、2021年3月に惜しまれながらも4年間の放送に幕を下ろした。現在は月に一度のオンラインイベントを開催し、より狭く深い視聴者層を狙いった番組を続けている。

 同番組はアルコ&ピース(平子祐希、酒井健太)がMCを務め、さまざまな企画を盛り上げるゲストの芸人やタレント、文化人などが登場。人気や話題性のあるゲームをプレイしながらトークを繰り広げる。演出とプロデューサーはテレビ東京の板川侑右だ。

 番組終了後にオンラインにて継続するという、今まであったようでなかった形態。幅広い層に広くアプローチする番組が多いなか、これほどまでに狭く深い層の熱狂的な人気を集める番組は、どのような思惑と仮説で作り上げられていて、これからオンラインイベントとして何を目指していくのだろうか。また、テレビ番組をインターネットの世界に昇華させることに対してどう考えているのか。昨年9月にYouTubeチャンネルも開設しているアルコ&ピース、そしてプロデューサーの板川に話を聞いた。(鈴木梢)

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生配信は反響が大きいけど、編集したくなってしまう

―― 『勇者ああああ』の地上波放送が2021年4月で終了しましたが、終了が決まったときはどう思いましたか?

平子祐希(以下、平子):1クールで終わると思っていたので、むしろ「よく4年も続いたな」と思いましたね。内容を考えると。

酒井健太(以下、酒井):よくここまでやったな、と本当に思います。視聴率めちゃくちゃ悪かったし、「なんで続けられるんだろう?」と思っていたので。

――それで2020年10月には、放送枠が深夜からプライム帯(※)に昇格していますからね。

※ プライム帯一般的にテレビが最も視聴率を獲得すると言われている19〜23時の枠(日本の場合)のこと。各局花形とも言われる番組が並ぶ。

酒井:それもおかしいんですよね。視聴率が悪いのにプライム帯に上がるのも。

板川侑右(以下、板川):あんまり言わないでくださいよ!いいときもあったんですから。

酒井:せいぜい1.1%でしょ?

板川:プライム帯へ行って、最高で1.1%ですね。

平子:(視聴者層が)狭くて深いんだろうな、とは感じるよね。

――実際、地上波放送が終わってから始まったオンラインイベントでは、「より狭く深い視聴者層を狙っていく」と豪語されていましたね。

平子:より目の細かい振るいにかけて、残ったド変態だけがチケットを買っている状況ですからね。

板川:(地上波放送の)最終回なんて、Twitterトレンド1位になったじゃないですか。「今まで観てたの?あなたたちどこにいたの?」と思いますけどね。よくわからない。まあ、現代のテレビの枠にはハマれなかったんでしょうね。

酒井:実際あれで視聴率10%とか取ったらおかしいもんね。

板川:でも、うち(テレビ東京)のご意見・ご要望フォームに「番組終わらせないで」的なメールは4,000件くらい来てました。メール自体そんなにくることがないので、窓口がパニックになって、ちょっと会社から怒られたんですよね。「みなさんの声で復活するかもしれません」と煽っちゃったのも悪いんですけど。

平子:しかし、もっと早い段階で声を上げてくれていればねぇ……。

酒井:それは本当に思う。いつまでもあると思うなよ、と。

――2019年12月に東京ソラマチで開催された「『勇者ああああ』1時間ちょっとで何かやりますライブ」の客層を振り返ると、男女比半々くらい、老若男女いろんな方々が駆けつけていたのが印象的でした。

平子:子どもも観ていたんだな、と思うと本当に胸が痛くなりますね。それこそ、街を歩いていると、お母さんが小さなお子さん連れで「『勇者ああああ』が大好きで子どもも楽しく観てます」と言われたとき、自分らが発した言葉を振り返るんですよね。僕もやっぱり父親なので、一つひとつを振り返ると本当に申し訳なかったなと。その場だけのウケを求めて、カメラの向こう側を意識できていなかった。

酒井:現場は楽しかったですけどね。

板川:僕の中では「これ以上やったら本当にゲームと関係なくなっちゃうな」のボーダーラインは一応持っていて。僕自身がゲーム好きで始めた番組でもあるんですけど、フルスイングでお笑いをやってみたかったのはあります。「ゲームといっさい関係ない」と言われるのを覚悟で、ゴリゴリにお笑いに振った企画を30分まるっとやりたい。でもそれだといよいよなんの番組かわからなくなっちゃうので、ボツになった企画はたくさんあります。

酒井:でも板川さんが本当にやりたかった、ゲームの部分を削ぎ落としたフルスイングのお笑いって、いまのオンラインイベントなんじゃないの?板川さんだけがフロアでカンペ出して笑い転げてるけど。

平子:その後ろの技術さんたちは全然笑ってないからね。

板川:いや、これが流れているんだなと思ったら面白くなっちゃって。

――地上波終了後、すでに2回のオンラインイベントを開催されていますが、たしかにゲームと全然関係のない振り切った内容になっていると感じます。

板川:でも生配信って、編集したくなっちゃうんですよ。面白いところだけを凝縮してお届けしたい。生配信はどうしても芸人さんの力で成り立っている部分がかなり大きくなってしまいますし、ディレクターの腕が発揮されないところも大きいので。自分でやっといて言うのもおかしいですけど、悩んでるところではあります。

目指すのは「地上波復活」ではなくNetflix?

――実際、(オンラインイベントの)視聴者の反応はどうなんですか?

板川:めちゃくちゃいいですね。1回目やって、2回目やって、月1のレギュラー配信になって(視聴者が)減るかなと思ったんですけど、逆にどんどん伸びています。もともと1,000枚くらい売れたらいいなぐらいだったんですけど、2回目の今回は2,000枚を超えていたので。でも、「これいつまでやるんだ?」と思うときはありますよね。

酒井:たしかに、最後どうなるんだろう。

板川:わからないですね。地上波とかで復活するために始めたんですけど。

――そのわりに実際のオンラインイベントでは、地上波に戻る気がまったくなさそうな放送コード的に問題がありまくりの企画が実施されてますよね。

板川:そうなんですよ。そこがいま一番難しいところで。お金を払って観てくれている人がいて、それを地上波で観られるように編集してしまうと、さすがに「パンチ弱い」と思うはずなんです。

 ベストの理想は、面白い部分はそのままに、動画配信プラットフォームでレギュラー番組化されることですかね。月に2,000円のチケット代を考えたら、月1,000円くらいの会費でほかの動画も観れるほうが、視聴者的にもすごく便利じゃないですか。後輩の上出(遼平)の『ハイパーハードボイルドグルメリポート』とか、Netflixでめちゃくちゃ再生されてますし。

平子:Netflixいいじゃん。

酒井:Netflixがいいな。

平子:でもNetflixって会議室で撮ってる人なんていないんだろうな。

酒井:Netflixカッコいいな。

平子:『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の小籔さんみたいに、VTR観ながらコメントしたい。326がメシ食ってるだけとか。園山真希絵が作った料理を326が食うみたいな。

板川:Netflixだったら予算も正直、信じられないくらい多いらしいですからね。

――予算が増えたら何をしたいですか?

板川:番組セットを立てたいです。

酒井:子どもたちを入れて番組やろうって言ってたじゃないですか。『ゲーム王国』とか『スーパーマリオスタジアム』みたいな(いずれもテレビ東京でかつて放送されていたゲーム情報番組)。

板川:そんなの我々の魅力が出ないじゃないですか。

酒井:でも一度、子ども入れてたじゃん。

板川:「親子で遊ぼう!Nintendo Labo」の回ですね。カシスプリンさんの。僕はあんまり笑ってなかったですけどね。

平子:俺は好きだったな。ああいうことだけをやっていたかった。あれを続けてたら、ゴールデンいけたかもしれない。

板川:あれで?(笑)

平子:子どもと家族を巻き込むっっていう。地下芸人観るより全然いいじゃん。

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