コロナ禍でもオーダーメイドスーツが求められた理由 D2Cブランドの先駆者が語るテクノロジーファッションの成功哲学

FABRIC TOKYOインタビュー

 ECサイトが普及し、いまやオンラインで物を購入するのが当たり前の時代となった。

 そんななか、台頭目覚ましいのがD2C(Direct-to-Consumer)ブランドだ。

 企業やインフルエンサーの伝えたい想い、そしてブランドストーリーを反映させたD2Cブランドはいまやアパレル、化粧品、食など様々なジャンルへと派生している。

 こうしたD2Cブーム全盛において、早くからそのビジネスモデルに着目して業界をリードしてきたのが、オーダースーツなどを中心としたビジネスウェアを展開するD2Cブランド「FABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)」だ。

 国内アパレル産業の常識に風穴を開け、D2Cブランドの成功例として業界内のプレゼンスを高めてきたFABRIC TOKYOは、コロナ禍でも屈せずに成長を続けている。

 同ブランドを手がける株式会社FABRIC TOKYOの代表取締役・森雄一郎氏に、D2Cブランドの将来性や今後の展望について話を聞いた。(古田島大介)

「ファッションに人生を救われた」という学生時代の原体験

 森氏がFABRIC TOKYOを立ち上げたきっかけには、学生時代にファッションを通して交友関係を深めていった原体験があるという。

 「『ファッションに人生を救われた』と言っても過言ではないくらい、ファッションは自分にとってなくてはならない存在でした。中学、高校と転勤族だったゆえ、なかなか友達が作りづらい状況だったのと、勉強やスポーツもあまり得意ではなかったので、周囲と打ち解けるような要素がなかった。ただ唯一、洋服が好きだったことで、同じ趣味を持つ友人ができて、ファッション談義やショッピングなどへ行くようになりました。そして、大学ではちょうどmixiが流行っていたので、ファッション系のコミュニティを通じて、波長の合う仲間同士で交流していたんです。当時から無類のファッション好きでして、自分でブログメディアを立ち上げ、ファッションスナップやファッションショーの取材にも出向いていましたね」

 熱い情熱を持ち、いつしかファッションにのめり込んでいった森氏は、就職活動をせずに自身のメディア運営をしながらファッションショーの演出家のアシスタントとして働くようになる。

 「華々しいファッション業界を支える裏方として日夜働くなかで気づいたのは『旧態依然とした業界の慣習が色濃く、若手が活躍できるチャンスがない』こと。昔からある価値観に固執していて、随所にアナログさを感じたというか、ファッション業界特有のヒエラルキー構造に驚いてしまった。また、当時から斜陽産業と言われていたこともあり、業界内でイノベーションを起こそうとする人もいなかったんです」

スタートアップの興隆に刺激され、不動産系ベンチャーへ転職

 他方、森氏が注目していたのはUberやAirbnbといったスタートアップ企業の勃興だった。

 テクノロジーを生かしたサービスが、既存の常識に風穴を開ける様子を見て、「スタートアップに関わりたい」と考えるようになったのだ。

 「色々と企業を探していくうちに、不動産系のスタートアップにセールスとして入社しました。デザイナーズのシェアハウスや賃貸物件を展開する企業で、建築やインテリアもファッションと同様に好きだった手前、創業期のベンチャーの風を感じながら仕事をしていたんです」

 森氏は営業職ということもあってスーツを着ていたそうだが、腕が長い体型にフィットするスーツになかなかめぐり会えずに悩んでいたという。

 「休日にお店を巡ってもなかなか見つけられず、どうにかならないかと思っていたところ、友人にオーダーメイドのスーツを紹介してもらったんです。これまで既製品のスーツを着ていましたが、自分でカスタマイズして、スーツを作る体験に感動して(笑)。愛着が湧くのはもちろん、体型に合わせたオーダー品だったのですごく着心地がよく、気分が上がりました。自分のような課題を持っている人が他にもいるのではと思い、オーダーメイドスーツについて調べたり、実際にビジネスパーソンの声を聞いてみると、オーダーメイドの品質の良さはわかっているけど、テーラーに足を運ぶのは敷居が高く、かつ金額も高いと感じる人が多いことに気づいた。そこから自分がオーダーメイドのハードルを下げるようなブランドを立ち上げればいいと考えるようになりました」

先見の明を持ち、オーダースーツのブランドを立ち上げた理由

 こうして起業に向けて動き出した森氏だが、オーダースーツに事業の可能性を感じた理由について、次の2つの理由を挙げる。

 「まず1つ目は、SNSの台頭によって価値観の多様性が生まれ、ことファッションに関しても、個人の趣味嗜好に合わせて最適化される時代が来ると予見できたこと。そして2つ目は、これからサスティナブルがキーワードになってくること。海外では環境問題やフードロスなどがトピックになっていて、ファッションも少なからず持続可能性が求められるだろうと悟りました。これら2つに加えて、アパレルのEC化率の上昇が予想できたことも、事業を立ち上げる上で参考にしたポイントです。アパレルのEC化率は2030年に30%くらいにまで伸びるというデータがある一方、スーツのEC化率は1%に届くかどうかという極端に少ない状況でした。『これは0から市場を切り開いていける』というやりがいとともに、やり続ければいつかは実るだろうと思いましたね」

 そして2014年2月にFABRIC TOKYOをローンチ。

 本格的にオーダーメイドスーツのブランド展開を始めることになる。

ビジョンと実利を両立させ、顧客ニーズに沿ったサービス体験を研ぎ澄ます

 しかし、アパレル事業の中でも敷居の高いオーダーメイド品を広めていくために、どのようなことを心がけたのだろうか。

 森氏は「盲目的なビジョンを掲げたり、顧客ニーズをでっち上げたりせずに、現実的な目線で考えることが大切だ」と話す。

 「よく創業間もない起業家にあることですが、ビジョナリーに世の中を捉え、ビジネスの将来性を語るがゆえに、拡大解釈しすぎてしまうところがある。確かにビジョンを掲げるのも大事ですが、同時に実利も伴っていないといけない。つまり、目の前の顧客ニーズや課題をしかと見据え、いかに解像度を高めていけるかが重要で、ビジネスの成功確率を上げていけるか否かの瀬戸際なわけです。FABRIC TOKYOはサービス開始当初から、テックカンパニーとしてサービスの体験を研ぎ澄ませることに注力していたのと、顧客ロイヤリティを重視していたこともあり、成長の軌道に乗せることができたと考えています」

 また、FABRIC TOKYOのブランド認知を広めたのは、リアル店舗の存在も大きい。

 2016年の渋谷を皮切りに、現在では全国の主要都市に14店舗を構えている。

 創業当初は東京と大阪に旗艦店(フラッグシップ)があればいいくらいの気概だったというが、「ポップアップストアを開いたことで、リアル店舗の重要性に気づいた」と森氏は説明する。

 「創業の頃は出張採寸をやっていましたが、結果としてリピート率は上がらなかった。一方で、別の施策としてポップアップを出したところ、そこに来ていただいたお客様のリピート率が良かったんです。リアルで商品に触れられること、そしてスタッフとの会話を通じての交流が図れるという、『手触り感』を持ったコミュニケーションが生まれるからこそ、ブランドの信頼や安心が構築されると身にしみて感じたのがポップアップでした。以来、主要都市へのリアル店舗出店を積極的に進めてきました。今では、商品を売る店舗ではなく、悩みやオンライン購入の相談・サポートをスタッフにいつでも聞きにいけるような体験型の店舗として位置づけています」

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