アドビスタッフに聞く「ハリウッドへオフィスを構えた理由」 フィンチャー作『Mank/マンク』をはじめとした“密な連携”の裏側に迫る
ビデオグラファーやYouTuber、インデペンデント映画など独立系の映像クリエイターに愛用されてきた編集ツール、Adobe Premiere Pro。近年では国内外の超大作映画の編集で使用されるケースも増えている。
世界の映画産業の中心地、ハリウッドでもPremiere Proの導入が相次いでいる。ハリウッドを代表する名匠の1人、デビッド・フィンチャー監督は『ゴーン・ガール』以来、Premiere Proを愛用している。2021年のアカデミー賞に10部門がノミネートされた『Mank/マンク』でも、編集において大活躍している。
そうした状況を踏まえ、アドビ株式会社はハリウッドの現場でPremiere Pro利用促進のため、2018年にハリウッド近郊にオフィスを開設した。このオフィスではどのようにプロの現場をサポートし、どんな意見を製品開発に反映させているのか。アドビ・フィルム・エンジニアリング・チームリードのトッド・リーダー氏と、映画『タイタニック』でアカデミー視覚効果賞を受賞した経験を持ち、現在はアドビ・プリンシパル・ストラテジック・デベロップメント・マネージャーを務めるマイク・カンファー氏に話を聞いた。(杉本穂高)
アドビがハリウッドにオフィスを構えた理由
――アドビがハリウッドにオフィスを開設したのはなぜでしょうか。
マイク:我々は、ハリウッドからアクセスしやすいサンタモニカのビーチ寄りの場所にオフィスを開設しました。それはやはり、ハリウッドのクリエイターたちがアクセスしやすい場所に常駐して、彼ら・彼女らと直接インタラクティブなやり取りをするのが目的です。今日、同席しているトッドがLAオフィスのテクニカルリーダーで、彼が最新の機材やソフトウェアを用いたPremiere Proのワークフローデモをしたりしています。
――ハリウッドのプロのクリエイターを、どのようにバックアップしているのでしょうか。
トッド:まず前提として、私たちのプロダクトのメインユーザーは、ビデオグラファーや放送局など、長編映画以外の映像作品を作る制作現場でした。そこで、より広く顧客に使いやすいプロダクトを開発していくために、ハリウッドの長編映画をサポートしていくことを決め、サポートプログラムを開始しました。
ハリウッドのプロフェッショナルたちは、いかに長編映画編集のためのインフラを組み立てることができるか、と口をそろえて言います。そうした声を反映させて開発したのが、昨年リリースした「プロダクション」機能です。この機能は、長編映画を編集する上で重要なものを一つに包括したようなものになります。
そのほかにも、ハリウッドのクリエイターたちの声を受けて開発した機能がたくさんあります。中でも特筆すべきものは「フリーフォーム」という機能で、これはプロジェクトビューのサムネイルを自由にグループ分けして整理できる機能です。フリーフォームを使ってサムネイルをアレンジしていけば、探しているショットがすぐに発見できるので、作業の効率化に大きく寄与します。
ハリウッドの長編映画の編集素材は、500時間以上のような膨大な量になりますから、素材を整理・アクセスするのもマシンに莫大な負担をかけますが、これらの機能を用いれば負荷を大幅に軽減して必要なショットにアクセス可能になります。