“74歳シニア起業家”がテクノロジーの力を借りて水族館を創り上げた理由

“74歳シニア起業家”がテクノロジーの力を借りて水族館を創り上げた理由

 人生100年時代と言われ、「生涯現役」や「アクティブシニア」といった定年退職後も仕事を続けるシニア世代が増えてきている。

 若年層にはない社会経験や懐の深さを生かし、年齢関係なく果敢にやりたいこと、好きなことに打ち込む姿は、セカンドキャリアの新しいあり方として脚光を浴びているのだ。

 そんななか、自分の思い描いた夢や目標を実現するために「シニア起業」という選択肢を選ぶ者もいる。

 そのひとりが、73歳で水族館を企画運営するベンチャー企業を立ち上げた坂野新也氏だ。

 同氏がなぜシニア起業を選び、普通の水族館でなく「テクノロジーと融合した水族館」を創りあげたのか。その原体験に迫るとともに、今後の事業展望について聞いた。(古田島大介)

沖縄海洋水族館のプロジェクト参画がひとつのきっかけに

 坂野氏は和歌山・太地町にあるくじらの博物館で勤務したのち、縁あって1973年に沖縄海洋水族館(現 沖縄美ら海水族館)の立ち上げに参画することになる。これが同氏にとっての水族館との馴れ初めだった。

 「沖縄海洋水族館は国の一大プロジェクトだったので、魚の飼育や展示、建築などあらゆるプロフェッショナルの知見が集結していました。当時は東大教授であり一級建築士の槇文彦(まきふみひこ)さんの建築事務所でお世話になっていたんですが、プロジェクト全体の事務局もそこで担っていたため、各分野のプロデューサーと関わる機会もあった。その道の専門家と話す機会は、自分の知見を広げる意味でとても学びになりましたね。また、外洋性のサメやマグロといった珍しい魚を展示したり水族館全体の企画をしたりするなど、様々な経験をさせてもらいました」

 スケールの大きい国の事業を通し、水族館の世界へ本格的に足を踏み入れることとなった坂野氏。その後も、サンシャイン水族館や葛西臨海水族園など名の知れた水族館の開発に携わってきた。

 長年の経験に裏打ちされた見識から、自分の水族館を創りたいと思うように

 しばらく水族館へ関わるうちに、いつしか自分の中である種の「自信」が芽生えてきたのだという。

 「60歳を過ぎたくらいですかね。水族館にまつわる仕事を長年やってきたことで見識がだいぶ深まり、『自分で一から水族館を創りたい』と思うようになった。というのも、水族館はほとんどが公立で、新しい水族館を建築するにも10~20年スパンが一般的。それゆえ、なかなか水族館の企画運営に際しての技術や知見などのノウハウが残っていかない状況でした。

 ただ私の場合、水族館自体のものづくりを長年経験してきており、他に類を見ないキャリアを培ってきた自負があったので『もし自分が水族館をプロデュースしたら面白いのでは』と考えていたんです。さらに、水族館というテーマパークを創り上げる建築や空間、装飾などを専門とするブレーンが周りにたくさんいたのも心強い存在でした。このメンバーとなら『自分の思い描いた水族館を理解してくれ、安心して現場を任せられる』と。そう感じていたんです」

2社が降りたコンペでも「いい水族館になる」と確信していた

 転機となったのは、川崎にある商業施設「川崎ルフロン」のリニューアルに伴って行われたコンペに、坂野氏が参加したことだった。

 その頃、川崎ルフロンは築30年を超える老朽化が進んでおり、開業時に比べて客足が遠のいていたため、新しい風を吹き込む必要性に迫られていた。

 そんな状況下、館内の9階・10階の2フロアに水族館の誘致を行うためにコンペが開催されたというわけだ。

 またとないチャンスに坂野氏は企画を立案し、名乗りを上げた。

 「コンペには自分のところ含めて計3社が応募したんですが、そのうち2社は条件の悪さから辞退する形となったんですよ(笑)。まず築30年という建物の構造上、どうしても耐えられる水の重さは制限され、既存の水族館のような大きな水槽は置けない状況でした。加えて、お客様を呼ぶ導線も立地的に集客が見込みづらく、ネックになっていたんです。こうした悪条件から他社は断念せざるを得なかった。一方で自分は、長年の勘から十分に水族館を運営していけるだけのポテンシャルがあると悟っていたため、降りなかったんです。過去の経験から様々なアイデアが浮かんだんですよ。水槽の見せ方を工夫したり、リアルな熱帯雨林を再現した温室を作ったり……。“いい水族館とは何か”を念頭に置きながら、思い入れのある空間を創りたかったんです」

“玄人魂”と“創意工夫”を融合させた唯一無二の世界観

 こうして2020年の7月に「カワスイ 川崎水族館(以下、カワスイ)」が開業。

 川崎で初めてとなる水族館でありながら、日本初となる既存駅前商業施設内にオープンしたこともあり、多くのメディアから脚光を集めた。

 場所柄、東京のすみだ水族館のような「都市型水族館」として日の目を見たわけだが、他の水族館とどのような差別化を図ったのだろうか。

 坂野氏は「どうしたら他のところに負けず劣らない水族館にできるか試行錯誤した」と語る。

 「限られたスペースや耐荷重の関係の中で、どうすれば魅力ある水族館にできるのか。あれこれ考えた結果、川や湖に生息する淡水魚をメインにしようと考えました。過去に淡水魚を扱ったことがあるため、展示や運営の方法は見当がつきましたし、なにしろ世界の淡水魚をテーマにした水族館は他になかったからです。これは強みになると。そう考えたんですが、『淡水魚なんて地味で、映えない』と最初はビルオーナーから反対されてしまった……。ただそこは、水槽と映像をうまく駆使して広がりを作り、空間演出にこだわった“見せ方”にすることで、理解してもらえたんですね。他の水族館に比べれば、大々的で華やかな世界観は作れないかもしれない。でもそこへ長年に渡って培ってきた“玄人魂”と“創意工夫”を融合させることで、ユニークさ溢れる新たなエンターテインメントを見出すことができたんです」

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