Apple Musicの空間オーディオ&ロスレス音源対応は「第二次音楽ストリーミング戦争」の号砲か?
Appleが日本時間の5月18日にApple Musicが空間オーディオやロスレス音源に対応すると発表。6月8日より一部楽曲での提供を開始した。
アリアナ・グランデ、ザ・ウィークエンド、J・バルヴィン、ケイシー・マスグレイヴスといったアーティストの楽曲において対応が始まっており、空間オーディオ+ドルビーアトモスの音質で、これらのアーティストの楽曲が楽しむことができる。現在はアメリカをはじめとした海外で提供がスタートしているが、日本でも使用言語を変更することでサービスを体験することが可能だ。
Dolby Atmosの技術を利用した空間オーディオの対応機種は、iPhoneやiPad、Macの内蔵スピーカー(M1チップ)、そしてH1 / W1 チップ搭載のAirPods / AirPods Pro / AirPods MaxまたはBeatsのヘッドホンとなる。今回の高音質への提供が示すAppleの戦略について、デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏はこう語る。
「空間オーディオに関しては、アップル製品はOSでも対応していた部分が多かったため(Air Pods MaxやApple TV Plusの対応製品など)、アップルは準備し始めていたといえます。つまり、デバイスやOSはすでに対応できており、あとはサービスの対応や音楽を提供するレコード会社待ちでした。業界全体を見渡してみると、SpotifyがSpotify Hi-Fiの6月からのサービス開始を今年3月に発表したり、AmazonがMusic HDへの無料アップグレードを6月からスタートさせるなど、他社の動向も見逃せません。Spotifyはポッドキャストや音声コンテンツの有料サブスクリプションの発表をしました。Amazon Musicはすでに、プライム会員用のMusic PrimeやMusic Unlimitedの上位版として高音質のAmazon Music HDの提供で、複数のレイヤーのカスタマーが選べるサービスを提供しています。これまで、Apple Musicは音楽ストリーミングに特化してきましたが、先日アップルはポッドキャストのサブスクリプションを発表したり、Apple TV+で音楽コンテンツを増やすなど、アップルユーザーの期待値を高める付加価値を追加し始めてきました。今回、ロスレス音源やDolby Atmosへの対応で価値を広げるのもそうした戦略の一貫性を示しています。音楽ストリーミングの戦いは楽曲数や機能の充実から、周辺のサービスやオプションを充実させて戦う「第二次音楽ストリーミング戦争」という状態に突入しているといえるのではないでしょうか」
CDや楽曲ダウンロードから月額のストリーミングへの移行に業界一丸となって取り組んだ「第一次音楽ストリーミング戦争」が終わり、それぞれのサービスで顧客の奪い合いを加速させる「第二次音楽ストリーミング戦争」が始まっていると断言する同氏。通常の音源をストリーミングに配信しつつ、高音質の音源を高価格でダウンロード販売して収益を立ててきたアーティストには悪影響という声もあるが、その点についてジェイ氏は下記のように答えた。
「各サービスが高音質へ対応することは、各社が曲と制作背景を大切にしているという意思表明だと思います。一方、アーティストやクリエイターにとっては、楽曲使用料が高音質になれば分配額も上がらなければ困る、という主張もあります。とはいえ、通常の音質と高音質が同じ料金で楽しめる価格設定でApple Musicは配信を始めます。高音質なので高価格、という従来の価格設定が崩れたのです。この変化は、音楽業界の関係者にとっては大変な出来事です。ストリーミングからの収益とアーティストへの利益分配は、現在進行系の議論なのです。この点を踏まえて、Apple MusicやSpotify、Amazon Musicはアーティストやレーベルへの収益還元を見直す必要があると感じます」