混雑経路の回避、魔法の窓、量子キャンパス……「Google I/O」2021注目発表ピックアップ

「Google I/O」2021注目発表ピックアップ

 昨年はコロナ禍により中止となったGoogleの開発者向け会議「Google I/O」が、アメリカ現地時間5月18日から20日にかけてオンラインで行われた。発表内容は多岐にわたるのだが、そんななかから注目すべきものを紹介したい。

混雑を回避し、通知を最適化

 地図アプリとして不動の地位にあるGoogle Mapsに関して、以下のような5つの新機能が発表された。

・目的地のまでの経路算出時に、混雑した経路を考慮するようになった。具体的には、最短経路と同時に混雑を回避した経路も算出。ふたつの経路の到着予定時刻を比較して、ほぼ同じか許容できる時間差であるならば、混雑回避経路を提案。この提案により、急ブレーキが減って交通事故を予防できる。

・ライブビューとのAR表示連携。地図表示から現実の光景を表示するライブビュー(Live Biew)にアクセスできる。ライブビューには、画面に写っている店の名前などがAR表示される(下の画像参照)。

・詳細なマップがベルリン、サンパウロなどの50以上の都市で利用できるようになる。詳細マップからは、歩道や横断歩道の正確な形状と幅が確認できる。こうした情報は車いすやベビーカーを使った移動に役立つ。

・混雑エリアの表示。混雑したエリアをマップ内に強調表示する。コロナ禍には重宝される機能である。コロナ禍が終わった後には、週末に活気のあるエリアに行きたい時に役に立つだろう。

・情報表示の最適化。時間帯に合わせてマップに表示される情報が変わる。例えば、平日の早朝にはコーヒーショップの情報が多く表示され、休日の同じ時間帯にはランドマークや観光スポットが表示される。

以上の新機能は今後数ヶ月以内に世界各国のAndroid版とiOS版のGoogle Mapsで提供され、詳細マップは年末までに展開する予定だ。

まるでリアルに対面しているよう

 Google I/O 2021では新しい通信技術も発表された。Project Starlineと呼ばれるプロジェクトでは、簡単に言えば新しい動画通信デバイスが開発されている。現在、動画通信で思い起こされるのはZoomをはじめとした動画通信アプリだろう。こうしたアプリを使えば通信相手の表情や動きを見ながらコミュニケーションできるが、あくまでディスプレイ越しの二次元的に表示された相手との交流となる。

 Project Starlineで開発された特殊なディスプレイを使えば、VRヘッドセットやARメガネを装着することなく、立体感のある相手とコミュニケーションできる(下の動画参照)。このディスプレイにはコンピュータビジョン、機械学習、空間オーディオ、リアルタイム圧縮といった最先端技術が活用されている。

 もっとも、Project Starlineのディスプレイは特注品であり、現在は限られた場所で実験的に利用されているに過ぎない。今後は、エンタープライズパートナーへのトライアル展開を今年後半に予定している。一般消費者が使えるようになるのは、当分先のようだ。

次の10年のために

 最近耳にするようになった量子コンピュータに関する発表もあった。Googleは今後10年以内の量子コンピュータの実用化を目指して、カリフォルニア州サンタバーバラに研究施設「Quantum AI Campus(量子AIキャンパス)」を建設した。

 量子コンピュータはまだ実用化されていないものも、その可能性は高く評価されている。その応用として期待されているのは、省電力バッテリーの設計、炭素排出量が少ない肥料の開発、パンデミックを予防する創薬と多岐に及ぶ。応用範囲が広いのは、量子コンピュータを使えば分子の挙動を正確にシミュレートできるからだ。物質の構成素である分子が詳しく分かれば、あらゆる分野でイノベーションを起こせるというわけなのだ。

 量子AIキャンパス内には量子コンピュータを格納する冷蔵庫3個分程の大きさのクライオスタットが置かれており、そのなかは10ミリケルビン(約マイナス273°)に保たれている。格納されている量子コンピュータの形状は、最先端デバイスでありながらレトロフューチャーな雰囲気もある(下の画像参照)。


 量子コンピュータの実用化にあたっては量子トランジスタの開発を含むいくつかの科学的マイルストーンに到達しなければならず、Googleの技術力をもってしても数年単位の取り組みが必要なのだ。

 以上のほかにもAndroid 12のパブリックベータ版や新検索技術が発表された。Google I/O 2021の開催によって、Googleは改めて世界トップの技術力をもつ巨大テック系企業であることを誇示したと言って良いだろう。

トップ画像出典:YouTube「A few things to know from Google I/O 2021 in under 9 minutes.」より画像を抜粋

■吉本幸記
テクノロジー系記事を執筆するフリーライター。VR/AR、AI関連の記事の執筆経験があるほか、テック系企業の動向を考察する記事も執筆している。Twitter:@kohkiyoshi

〈Source〉
https://blog.google/products/maps/five-maps-updates-io-2021/
https://blog.google/technology/research/project-starline/?_ga=2.170034144.1329369461.1621379614-2040674602.1620878592
https://blog.google/technology/ai/unveiling-our-new-quantum-ai-campus/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる