『takt op.(タクトオーパス)』特集
「クラシック楽曲のキャラクター化」に込めた創意工夫ーーDeNA×LAMが語る『takt op.』キャラデザの裏側
2021年3月26日、クラシック楽曲をモチーフにした少女たちが戦う新プロジェクト『takt op.(タクトオーパス)』が発表された。現在はあらすじと一部キャラクターが公開、TVアニメとゲームの展開が予定されているものの、未だ多くの謎に包まれている。
今回はそんな謎に少しでも迫るべく、本タイトルの総合プロデューサー・油井聡史氏(DeNA)とキャラクター原案を担当したイラストレーター・LAM氏にインタビューを決行。クラシック楽曲をモチーフにした理由、LAM氏に依頼した経緯、キャラクター制作の裏話やキャラクターに込められた様々な創意工夫など、キャラデザインを軸に今二人が語れる限りの『takt op.』の全容を聞いた。(阿部裕華)
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※インタビューは新型コロナウイルス感染症対策を徹底して実施しています。
※マスクを外した撮影も、空間内を最小人数かつ適切な距離を取った形で行いました。
“知っているようで知らない”「クラシック楽曲」に感じた可能性
ーーはじめに本プロジェクトのはじまりについて教えてください。
油井聡史(以下、油井):企画がスタートしたのは約3年半前になります。まだ発表前なので詳しく明かせないのですが、『takt op.』には原作のクリエイターがいて、その方と何か新しいことはできないだろうかとアイデアを出し合ったところ、ご提案いただいたのが「クラシック楽曲」でした。非常に可能性を感じ、「クラシック楽曲の力を宿した少女たちが戦う」というコンセプトのもと企画を動かし始めました。
ーー「クラシック楽曲」に感じた可能性とは?
油井:大きく二つあります。一つは「クラシック楽曲」が持つ“儚く、美しい”イメージです。クラシック楽曲をモチーフにするにあたり、とても魅力的なキャラクターやコンテンツをつくっていけるだろうと手応えを感じました。
もう一つは“知っているようで知らない”というギャップです。クラシックは日常生活など身近な場所にも使われるため、多くの人が何となく知っていると思います。しかし踏み込んで聴いたり、詳しく語れたりする人はあまりいないですよね。よく耳にする音楽であるにも関わらず、なぜか高嶺の花としての触れづらさもある。そんなクラシックの魅力を、コンテンツを通して届けられるのではないか。そして新しい面白さを見出せるのではないかと思いました。
ーークラシック楽曲に対するそれらのイメージが、LAMさんのキャラクター原案への起用にも繋がっているのでしょうか。
油井:そうですね。コンテンツの世界観を何となくイメージし、誰にお任せするか候補を挙げていました。本作においては性別問わず魅力的に感じてもらえるコンテンツにすることを意識していたため、スタイリッシュでカッコ良く意思のある瞳が印象的なLAMさんにぜひお願いしたいと思いました。自分だけでなくDeNAのほかのメンバーや原作のクリエイターの方もLAMさんがいいと。
LAM:出展していたイベントにDeNAの方が突然いらっしゃったのが始まりでしたね。
油井:そうでしたね(笑)。驚かれましたよね?
LAM:ビックリしました。その後メールを頂いて、何回かやり取りをしながら原作の方とも話をしていきました。
ーーキャラクター原案のお話をいただいた際のお気持ちはいかがでしたか?
LAM:本作の原作クリエイターの方をもともと知っていて、僕自身ファンだったんです。メインデザイナーとして打診いただいていると連絡が来たときは、率直にすごく嬉しい気持ちがありました。
また、フリーランスで仕事を始めて間もなくのタイミングでお声がけをいただいたので、とてもありがたく光栄でした。もともとゲームのメインデザイナーをやりたいと思っていましたし、そういう意味でも嬉しかったですね。
ーー「クラシック楽曲の力を宿した少女たちが戦う」このコンセプトについてはどのように思われましたか?
LAM:僕自身「擬人化」はすごく好きなジャンルです。さらにモチーフが「音楽」であることがとても魅力的でした。というのも、いつも音楽からインスピレーションを受けて作品へアウトプットをしているからです。そういう意味で自分と相性の良さを感じ、ぜひチャレンジしたいと思いました。
一方でクラシック楽曲に関しては初心者です。学生時代の授業で習った曲やCMで流れていた曲など多少知ってはいる程度でこの企画からクラシック音楽に触れたので、初めて知ることばかりでした。
「LAMの“運命”を目指しました」
ーー世の中にはとても多くのクラシック楽曲が存在します。その中からどのようにキャラクター化する曲を決めていかれたのでしょう。
油井:プロジェクトメンバーで「この曲は思い入れがあって、キャラクターにしたい!」という楽曲を持ち寄り、社内で喧々諤々プレゼン大会を開いて、LAMさんに描いてもらうキャラクターを選抜していきました。そこで多くの人が知っているであろうベートーヴェンの『運命』をメインヒロインに決め、LAMさんにキャラクター原案をお願いしました。
ーーLAMさん的に、最初に『運命』をキャラクターにしてほしいと依頼されていかがでしたか?
LAM:簡単だったような、凄まじく難しかったような、半々だったなと。もともと音楽を聴いてイメージが湧いたら絵に落とし込んでいたので作業自体は進めやすかったのですが……。一方で老若男女問わず多くの人が何となくでも知っているクラシック楽曲をキャラクター化することに対し、プレッシャーがすごくあって。みなさんの考えるクラシック楽曲像と僕の考えるクラシック楽曲像のすり合わせにかなり悩みました。
『運命』であれば「ダダダダーン」のフレーズが有名ですが、よくよく聴いてみると『運命』と認識せずに知っているフレーズやパートがたくさんあります。『運命』と聞いて「ダダダダーン」をイメージするのは浅いと気づきました。どういう曲調で、どう生まれて、世の中にどんな影響を与えて、みなさんが『運命』をどう捉えているのか、最初はそんなことを考えながら制作を始めました。
ーー誰が見ても『運命』だと分かるキャラデザインにしようと思っていたんですね。
LAM:はい。だけど、それは100%不可能だと気づきました。クラシック楽曲という抽象的なモチーフに正解・不正解はないだろうと。それにわざわざ僕にお願いをするということは、アンパイは取りに来てないだろうと思って(笑)。
DeNAさん側から「こういう要素は入れたい」とモチーフの提案に加えて、曲の生まれた背景、曲の生まれた年の時代背景、曲に込められたメッセージ、作曲者の感情、曲に対する評価、異名などキャラクターの足掛かりになりそうな資料や考察もいただいていたので、参考にしつつも最終的には「LAMの“運命”」を目指して描きました。とにかく何百回と曲を聴いて、浮かんだイメージをもとに奇抜な髪型や面白いデザインのドレスなど僕なりの解釈を存分に入れました。DeNAさん側にも「あくまでも一意見なので最終的には好きにやってください」とかなり委ねてもらったこともあり、最初は苦労しましたが結果的に楽しく制作しました。
クラシックの世界を掴むため、音楽の都ベルリンへ取材視察を決行
ーー制作にあたり、ドイツのベルリンへ取材視察に行かれたんですよね。
油井:実際に現地の雰囲気を感じ取ってキャラクターや世界観設定を落とし込んでほしいと考え、LAMさんと背景コンセプトアートのわいっしゅさん、シナリオライターの方と一緒に取材へ行きました。2019年後半のことなので、もう1年半以上前になりますね。クラシックの生音を聴いておこうとベルリン・フィル(ハーモニー管弦楽団)を巡ったり、作曲家たちがどういう世界で曲を生んでいたのか理解するためにメンデルスゾーンの家やバッハゆかりの地などを見て回ったり。見れるものは全部見よう!といろんな場所へ足を運びました。楽しかったですよね。
LAM:信じられないくらい強行軍で歩き回りましたが、めちゃくちゃ楽しかったです。各地の音楽にまつわる場所やヒントになりそうな場所に行って、あれ以上は無理と思うほどの取材密度。実りのある取材でした。
モチーフとなる曲の生まれた場所や世界が実際にあるのに、それを知らないのはキャラクターを描く側としてとても気持ち悪かったんです。なので、取材に行けたのはとてもありがたくて。土地を知って描けるものもあると感じました。
ーーキャラクターのインスピレーションになることも?
LAM:ドイツの寒い空気の中でこういうことをするのではないかとインスピレーションを得たり、街並みや建物が細かい印象やヒントになったり。例えば、サンスーシー宮殿の壁紙の模様を見て“木星”の配色を決めました。“ワルキューレ”も取材の影響をかなり受けているキャラクターの一人です。
油井:LAMさんが“ワルキューレ”を飛行機の中で描いていて、日本に着いたら「できました」と見せていただいたのを覚えています(笑)。