人気YouTuber「パチンコ店を買い取ってみた」のひげ紳士が語る、“大衆娯楽を守る”ことの意味
大衆娯楽を守るーーそんな理念で、レトロなパチンコ店とゲームセンターを経営し、奮闘の模様をYouTubeで配信している人気者がいる。その名は「ひげ紳士」。彼が買い取った埼玉県幸手市にポツンとたたずむ「幸手チャレンジャー」は、収益よりも人々の憩いの場であることを志向し、懐かしき“街のパチンコ屋さん”の雰囲気を守り続けている。
コロナ禍の苦境にありながらも「お客さんにあまりお金を使ってほしくないんです」と笑うひげ紳士に、パチンコ店を買い取った経緯から、現在の業界への疑問とパチンコが本来持っている魅力、視聴者とともに作り上げている理想のホール像、そして進化著しい「アプリ」でパチンコ/パチスロ を遊ぶことの意味まで、じっくり語ってもらった。
ーーひげ紳士さんは「大衆娯楽を守る」という理念のもと、レトロなパチンコ店「幸手チャレンジャー」を経営しており、YouTubeチャンネル「パチンコ店買い取ってみた」も多くのファンに支持されています。そもそも、ホールを買い取って経営するに至った経緯から聞かせてください。
ひげ紳士:僕はパチンコで遊べる年齢になると同時にのめり込み、32年前にパチンコ業界に飛び込みました。パチンコが好きで、ワクワクする空間を作り上げているホール側にも興味があったんですね。そのなかでたまたまご縁があり、ホールを経営できるチャンスに恵まれて、一歩踏み出すことを決めたのが9年前。経営が簡単ではないことは分かっていましたが、自分の好きなホールを作りたい、という思いがどこかにあったというか。
ーーどんなビジョンがあったのでしょうか。
ひげ紳士:パチンコ店は時代を追うごとに大型店舗化が進み、また大当たり回数や出玉数もデジタルなデータで見られるようになったり、アミューズメント施設として大きく進化していきました。ユーザーに対して親切ですし、接客もきちんとマナーが徹底されていて、それは素晴らしいことなのですが、一方で、かつてあった味のある店舗がどんどんなくなっていったんです。スペースは小さく、新台入れ替えも少なくて、接客もフランクだけれど、採算ギリギリで地域のコミュニティを支えてきたような、大衆娯楽としての豊かさを伝えてくれた愛すべき“パチンコ屋さん”。時流からは外れたものかもしれませんが、そういうホールを残したいと考えました。
ーー実際に、パチンコ好きなら誰もが懐かしい気持ちになる、ノスタルジックな空気感でファンを集めていますね。
ひげ紳士:みなさんのおかげで成り立っているホールです。大切にしているのは、「昔を思い出す」のではなく、それぞれの人にとって「最初にパチンコに出会ったときのワクワク感を思い出す」ホールにしたい、ということで。大人の世界に一歩踏み込んだようなソワソワする感じ、ビギナーズラックで大当たりした人も多いでしょうし、もしかしたら、仕事でむしゃくしゃすることがあって、サボって遊んだ人もいるかもしれません(笑)。そういうことも、まあいいじゃないか、という大らかな空気感があり、日常から解放される空間で少し遊んで、また日々を頑張る気持ちを取り戻せる場所だったんです。世代は違っても、その感覚はきっと共有できますし、常にワクワクしながら遊んでいれば、それは気持ちが麻痺しないということですから、昨今問題になってる依存症や中毒のようなことにはならないと考えています。
ーーそれが「大衆娯楽を取り戻す」という意味なんですね。
ひげ紳士:そうですね。自分はパチンコ屋さんに向いていないかもな、と思うのですが、お客さんにあまりお金を使ってほしくないんです。その人のキャパシティを超えてお金を使ってしまわないようにする、というのは業界として取り組むべき課題ですし、もっと純粋に楽しめる場にしたい。私は他のホールもよく見にいくのですが、楽しそうにパチンコやパチスロを打っている人がとても少ないように思うんです。皆さん、ムスッとされていたり、スマートフォンの画面をずっと眺めていたり……遊びに来ているというより、仕事をしている感覚に近いというか、かえってストレスを溜めてしまわないかと心配で。うちに来てくださるお客さんは本当に楽しそうに遊ばれているので、その点では、作りたかったホールが作れているかな、という手応えがあって。変な言い方になりますが、「パチンコに疲れたら、うちの店に来てください」という気持ちで日々、ホールに立っています。
ーー「幸手チャレンジャー」にはレアな台が多く、設置店舗数や設置台数が掲出されていたり、漫画や古い筐体が置いてある休憩スペースがあったり、水槽にメダカが泳いでいたり、至るところにパチンコ台から離れても楽しませてくれる仕掛けがあり、お客さんが熱くなりすぎない空間になっていますね。
ひげ紳士:そういうことを考えてくれたのは、動画の視聴者さんなんですよね。5年前にYouTubeチャンネルを立ち上げたのですが、そのきっかけは、経営難でホールが潰れそうになったことで。そこでホールの状況やパチンコ業界への思いを伝えるなかで、みんなが応援してくれて、漫画を寄贈してくれたり、「こういうお店に行きたい」という夢やアイデアを寄せてくれて。僕が計算して設計しているというより、視聴者の方々が楽しいと思える空間を考えてくれているんです。
ーー視聴者からしても、こんなホールがあったら……という夢を叶えてくれるホール経営者がいた、というのは幸運なことだったと思います。自分でそれを見つけたり、ましてや作ったり、というのは本当に難しいですから。
ひげ紳士:そう思ってもらえたらうれしいですね。僕のようにもともと無名な人間でも、思いを伝えて共感してくれる人たちのパワーをいただける、というのは、YouTubeというプラットフォームの素晴らしいところだなと思います。