『プレバト!!』『林先生の初耳学!』生み出したMBSプロデューサー・水野雅之に聞く「テレビとYouTubeの関係性」

MBSプロデューサー・水野雅之氏インタビュー

 昨年、地上波の全番組から選ばれる放送人グランプリで企画賞を受賞した『プレバト!!』の総合演出を手がけ、さらに『林先生の初耳学!』『教えてもらう前と後』といった全国放送のプライム・ゴールデン帯の人気レギュラー番組を生み出してきた毎日放送(MBS)プロデューサー・水野雅之。数々のヒット番組の制作に携わる水野は、あらゆるジャンルやメディアを横断してコンテンツの“今”を知り、そこから次の一手を誰よりも考えているテレビマンでもある。

  はたして彼はどのような基準でコンテンツに触れ、何を見出しているのだろうか。今回は特に「テレビ(地上波)とYouTubeの関係性」について、具体的なコンテンツ例と時流を軸に語る。(鈴木梢)

YouTubeならではの“視聴者との距離感”が新しいコンテンツを生む

――以前『田村淳のコンテンツHolic』(MBS)で注目のコンテンツについてお話しされていましたが、非常にYouTubeやSNS、noteなど幅広いコンテンツに触れられている印象を持ちました。

水野雅之(以下、水野):YouTubeやNetflixなどは話題のコンテンツや、周りから勧められて見るものが多いです。普段は仕事柄、地上波番組のチェックが中心になりますね。天文学的に増えるネット動画には全く追いついていませんが、限られた時間の中で見ているだけでも刺激を受ける面白いコンテンツはたくさんあります。

――では実際にご自身が「面白い」と感じたコンテンツはどういったものですか?

水野:「面白い」と思うコンテンツって、どんな状況でどのデバイスで見るかで全然変わりますよね。移動中にスマホで見るものと、夜中に仕事しながらマルチタスクで見るものは全然違う。たとえば移動中にピッタリなのが、『サラタメさん【サラリーマンYouTuber】』

 「7つの習慣」「嫌われる勇気」といった人気の自己啓発本の内容を20分くらいに要約してる動画です。僕は自己啓発本があまり好きじゃなくて、それを読む時間があるなら他のジャンルの本を読みたいと思っています。一方で、本を他人が要約した文章は正確にまとまってるとは思えず、あまり好きではないのですが、どうせ移動20分の時間潰しだし、あまり好きではない自己啓発系なら要約でいいかってイッキ見したのが最初です。アニメーションや図解もわかりやすいし、軽快なテンポでよくまとまっている。まさに今の時代っぽい動画だと思います。あと移動中といえば、3月からコロナウイルスの感染対策で、仕事も公共交通機関を使わずに全て徒歩で移動してるんですけど、そんな時にYouTubeを“聴いています”。

――YouTubeを“聴いている”?

水野:はい、動画を見ずに音声がメインのコンテンツを再生しています。例えば、ロザンのYouTubeチャンネル『ロザンの楽屋』は、時事問題にどんな視点を持ったらいいかをチェックするのに最適です。宇治原さんはいろんな時事ネタに対する自分の意見を絶妙な言い回しで発信しています。地上波に出てる時のコメントより冴えている気がします(笑)。

――家で見るときのYouTubeコンテンツはいかがでしょうか。

水野:アーティストが一発録りの緊張感の中で歌う『THE FIRST TAKE』から展開した企画『THE HOME TAKE』は、いい企画だなって思いました。地上波の企画を考える時は、テレビの前の視聴者がどんな状況で何人で見ているかを意識するんですけど、アーティストが家で歌う『THE HOME TAKE』の設定は、一人でPC画面で見る気分にピッタリですよね。

YOASOBI - 夜に駆ける / THE HOME TAKE

 『THE FIRST TAKE』って、既成概念の盲点を突いたヒット企画ですよね。CDも音楽配信も収録のテレビ番組も一発録りが“暗黙の了解”じゃないですか。でも本当はそれが当たり前じゃないから、アーティストの緊張感に視聴者が食いつく。しかも一発録りのパッケージが強いから派生しやすい。ほしのディスコのガチ歌(「Superfly-愛をこめて花束を/THE FIRST TAKE ほしのディスコver #2」)は上手いから笑えるし、かまいたちがネタの設定(「かまいたち/THE FIRST TAKE」)にもしてる。これらも視聴者が1人で見るネット動画ならではのコンテンツで面白いです。

――ネット動画ならでは視聴者との距離感なんですね。

水野:そうです。見るデバイスによって、視聴者とのベストな距離感って全然違いますよね。一方でコロナ禍において、地上波の音楽コンテンツで最も心打たれたのは『音楽の日』(TBS)のいきものがかりの『YELL』。全国の中高生とオンライン生中継を繋いだ合唱は、今までに見たことのないスケール感でした。人が集まれないという制約を逆手に取って企画を進化させているのを見ると、本当に刺激になります。

――見せ方、という点で気になっているコンテンツについても伺えれば。

水野:株式会社チョコレイトが制作している『6秒商店』とあさぎーにょさんの『ハロー!ブランニューワールド』の視聴者との距離の取り方は、地上波ではなかなか実現できないコンテンツですね。2つの共通点は、どちらも現実っぽく始めていて、途中でフィクションってわかるってこと。

 もう限界。無理。逃げ出したい。

 『6秒商店』は、その商品が実在するか特に説明はないけど、観ていると存在しないことがわかる。観る側にある程度の読解力が求められるわけです。現実の商品だと思われても別にいいって思っているんじゃないかな。あさぎーにょさんの動画も現実のVlogのようで、展開していくとカラクリが見えてくる。2企画ともフリは親切とは言えないけど、日本って以心伝心とか阿吽の呼吸でなんとなく通じるハイコンテクストな社会だから実は日本人向きなのかも……って思います。

――『ハロー!ブランニューワールド』は短編映画という位置付けでしたが、コロナ禍で生まれたフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」も大きく話題となりました。

水野:そうですね。コロナ禍の制約を逆手に取った、新しいコンテンツですよね。実はコロナ禍とか、出演者のスケジュールとか、制作費が足りないとか……制約がある時って、斬新なアイデアが出やすい気がするんです。というのも、そういうトラブルは自分の頭では到底考えつかないので、それを乗り切ること自体が新企画になるんです。逆に制約がない時は、自分の思考の外側になかなか企画が飛ばないんですよね。だから意外と撮れ高に満足できなかったりします。

――「劇団ノーミーツ」のどんなところが印象的でしたか。

水野:ZOOMだから出演者一人ひとりの背景を一瞬で変えられるのは、劇場の演劇ではできない新しい演出ですよね。あと、視聴者が書き込むコメント欄を使った演出の可能性を感じました。仮にちょっと分かりづらい演出があったとしても、演出に関わっているスタッフがコメント欄に書き込むことで、野暮ったくなく物語を展開できる。ドラマや演劇で出てくる、説明くさい状況説明や人間関係を説明する変なセリフってツッコみたくなりますもんね(笑)。

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