世界的イリュージョニスト・HARAが語る“奇跡の理由” マジックとテクノロジーの融合は何をもたらすか
風の軌道までもCGを使って再現したい
――テクノロジーとマジックを組み合わせようと思ったきっかけは?
HARA:昔から「自分の幼少期の思い出をテーマにしたマジックをやりたい」と考えていました。子どもの頃、保育園がすごく遠くにあった関係上通うことができず、また、近所に同年代の子どもも住んでいませんでした。だから当時、友だちがいなかったんですよね。そんな中、山の中にある家の庭には桜の木が生えてて、毎日その木の下で遊んでいました。春になったら木の枝に止まるウグイスの鳴き声を真似したり、それから桜が満開になってすぐに散り、冬になったら雪が木に積もるという光景を見てきました。
この桜の下で遊んだ思い出をマジックで表現したいという夢がずっとあって。高校生ぐらいの時に舞台美術を手掛けている会社に電話をして「いくらぐらいかかりますか?」と聞いたんです。そしたら、セットだけで何千万円もかかり、運搬にもとてつもないお金がかかると言われたんです。これでは海外に持っていけない。輸送費だけでも大赤字です。その当時、一人がオーバーチャージなしに海外もって行ける荷物の重量が最大で22kgのスーツケース2個まででした。
この限られた重量の中で、どうやったら桜のマジックを海外の人に持っていけるかと考えた時に、デジタル技術を駆使して自分のやりたいことを拡張して表現することができたら、荷物が少なくても壮大なマジックが実現するのではないかとひらめきました。それがプロジェクションマッピングに出会ったきっかけですね。
――和をイメージしたマジックが多いのは、やはり海外の観衆を意識してのことなのでしょうか?
HARA:海外に行く時は「日本を背負っていく」みたいな気持ちがあるので、やはり自分を一番鮮やかに見せるのが和のテイストを入れたパフォーマンスだと考え、そこはいつも大切にしています。それに、僕が海外で他のマジシャンと同じように燕尾服を着てハトを出しても、せっかく呼んでいただいた意味がないですからね。山の中で過ごしたその時間と、今まで見てきた日本の四季の光景をイリュージョンで届けることこそ、僕にしかできない特別なものだと確信しています。
――実際に披露してみて海外のオーディエンスの反応はいかがでした?
HARA:子供時代の思い出をテーマに作った「いぶき」という作品を、『アメリカズ・ゴット・タレント』(※米国の人気オーディション番組)でパフォーマンスした際、2,000人ほどのお客様が全員総立ちで拍手を送ってくださいました。また、辛口の審査員・サイモンも喜んでくれて。どんなコメント来るのか、酷評されたらどうしようと、ビクビクしていたのですが、「君のマジックを見ていると平和な気持ちになるんだよ。君が作った平和な時間から僕は抜け出したくなかった。魔法を信じたことはなかったけど、今だったら魔法を信じるよ」と声をかけてくれて、すごくうれしかったですね。
――称賛される一方で、斬新であるがゆえの「向かい風」はありましたか?
HARA:ありましたね。マジシャンがたくさん出る日本の番組で「いぶき」をやった時に、マジック界の人たちからクレームの電話がすごく掛って来たんです。「君がやってるのはマジックじゃない」って。でも、アメリカでやってみたらめちゃくちゃウケたんですね。
日本だとマジックというと、タネを見破ってやろうとかとインチキくさいとかそうゆう目線が来るのですが、アメリカをはじめとした海外だと、音楽やアート、ライブコンサートの中にマジックが入っているんです。「タネとか仕掛けとかどうでもいいから、とにかくこの不思議な時間を楽しもうよ」という文化があるんです。日本におけるマジックに対する偏ったイメージを変えていくためにも、自分のやっていることは意味があると感じています。
――マジックの着想はどのようにして得ていますか?
HARA:いつも自然の中で、新しいマジックを考えるようにしています。たとえば、秋に紅葉した銀杏の葉っぱが風に吹かれた時、どのような曲線で舞っているか、風の動きも絵コンテノートにメモしているんです。そのノートをもとに、CGを作る時にクリエイターの方に「こうゆう風に葉っぱが舞うようにしてください」と希望を出します。製作を進める中で、僕が表現したい自然と、CGクリエイターの方が作りたいビジョンが違う場合もあります。クリエイターの方は、自分の腕を見せたいので派手な演出が多くなってしまう。そのほうが華やかかもしれませんが、僕は風の軌道までもCGを使って再現したいんです。なので、決して派手すぎないよう、常に引き算というか。どんどん無駄なものを省いていき、わびさびのある作品になるよう意識していますね。
――お話を伺っていると、HARAさんの原点は熊野の自然であり、心にある原風景をマジックに投影させている印象を受けます。
HARA:僕にはそれしかないですからね。よく「和をやってるんですね」と言われるんですけど、「いや、それしかないんだよな」っていう。
――最後に改めて「CONNECT」の見どころと意気込みをお願いします。
HARA:今回最先端のテクノロジーを使っているマジックもあるのですが、一番お見せしたいのはやはり僕のルーツ。熊野の風を感じてもらえるようなものができたらと思います。お客様の思い出に残るような40分間にしていきたいですね。
HARA 体感型マジック『CONNECT‐コネクト‐』
■本番
2月19日(金)19時時開演
2月20日(土)14時開演/17時開演
2月21日(日)14時開演/17時開演
2月22日(月)19時開演(この公演をリモートライブ配信します)
■アーカイブ上映
3月8日(月)19時開演
3月9日(火)19時開演
3月10日(水)19時開演
3月11日(木)19時開演
■場所・金額
公演会場:
渋谷キャスト スペース 3000円
ライブ配信上映会場:ヒカリエホールA 1000円
リモートライブ配信500円
アーカイブ上映会場@渋谷キャスト スペース 500円
本番尺:40分~45分予定
主催:文化庁、東急株式会社 制作:アミューズ 技術協力:富士通株式会社
チケット販売サイト:「カンフェティ」https://www.confetti-web.com/HARA
※3歳以上は有料。2歳以下は保護者1名につき1名お膝の上で鑑賞可。但しお席が必要な場合は有料になります。