演劇はリアルかデジタルか 藤原竜也主演舞台『てにあまる』劇場&配信の違いから考える

演劇はリアルかデジタルか

 演劇やミュージカル、舞台といえば、劇場に行って観るものと思われるが、昨今は生配信やオンデマンド配信で自宅にいながら鑑賞できる。

 現在配信している主なサービスは、全国466劇団の作品が揃っている「観劇三昧」や大手劇団四季の配信をしている「U-NEXT」、「Rakuten TV」、劇団キャラメルボックスなどを昔から配信している老舗の「衛星劇場」、三谷幸喜や宝塚まで豊富な作品を揃えている「WOWOW」、2.5次元ミュージカルを主に配信している「DMM.com」など、全体で15配信サービスほどある。

 特に、「WOWOW」はメインの作品が多く配信されており、知名度もあるため加入しやすいハードルの低さが魅力。演劇だけでなく映像作品も充実しているので、演劇を観つつ、映画やドラマも観たい方には特におすすめのサービスだ。

 今回は、そんな「WOWOW」がチャレンジした生配信ライブ『てにあまる』を、両方観た筆者が劇場と生配信の違いを紹介したいと思う。

 故、蜷川幸雄の秘蔵っ子といえば藤原竜也だろう。『身毒丸』でデビューし、その後映画『バトル・ロワイアル』や『デスノート』といった数々のヒット作品に出演。さらに、演劇界でも『ジュリアス・シーザー』や『ハムレット』などの戯曲に参加し、今や知らない人はいない名優だ。

 そんな藤原竜也を主演に迎え、松井周が脚本、演出を巨匠・柄本明が手掛けた『てにあまる』が、2020年12月19日から2021年1月31日まで、東京を皮切りに全国で公演されている。

 本作は、藤原竜也演じる勇気(ユウキ)が過去のトラウマと苦悩の末、崩壊していく悲しい物語。筆者は藤原竜也を劇場で観たときに「どうしてそんな姿勢でそんな声が出てくるのだろう」と、感動の連続だった。肉体訓練をしっかり受けてきた発声は劇場内を響かせ、席の場所に関わらず、セリフがすんなりと耳に入ってくる。

 個人的に藤原竜也の真骨頂は、泣き笑いだと思う。悲しいはずなのに笑ってしまう。涙を流しながらも笑顔が溢れるような。そんな切なさを本作でも垣間見え、もらい泣きしてしまうほど。生配信ではアップで映るためより細かい表情が見えた。

 劇場では臨場感のある声がダイレクトで聞けるため、迫力のある演技を直に感じられる。例えば、あるシーンで藤原が突っ伏しながらセリフを言うが、聞きづらいなどはなく、むしろ人間らしい生の声が聞けた。このリアル感は劇場ならではだと思う。

 逆に、中盤から藤原の身に起きる怒涛の展開の中で、配信では涙を溜めている様子や額から溢れる汗などがわかり、生々しさを感じられた。これは配信の特徴だろう。

 その藤原竜也を手のひらで転がすのが、柄本明演じる掴みどころがない謎の男だ。通りのよい藤原の声を、柄本の柔らかく弱々しい発声が、柔よく剛を制すかのようにひっくり返す。長台詞の掛け合いが心地良い。

 劇場では、舞台装置全体を含めて俯瞰で観られるため、藤原と柄本の二人の距離感や意図的に距離を離そうとする柄本の計算が理解でき、恐ろしかった。一定の距離から生まれる牽制もあり、その間合いすらも劇場では楽しめる。

 しかし、テンポの良い会話ならば、配信の方がドラマや映画のように見やすいというのが本音だ。これはもう好みになるが、間や空気感を重視するならば、劇場で観劇を。ドラマや映画のように会話を重視するならば、配信の方が合うのかもしれない。

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