演劇はリアルかデジタルか 藤原竜也主演舞台『てにあまる』劇場&配信の違いから考える

演劇はリアルかデジタルか

 紅一点奮闘するのが、佐久間由衣演じる緑(ミドリ)。勇気の妻であり、彼の横暴な一面に嫌気が差し、彼のもとを離れようとする。佐久間の持つ軽やかな声質は、唯一の希望を感じさせる不思議な存在となっている。画になる存在感は生で観るとそのオーラに感嘆した。

 前半の途中から登場するのだが、佐久間のスラッとした佇まいは、流石モデル出身だけあって見応えがある。パッと目につく華やかさは、物語の重い雰囲気を中和してくれる清涼剤のようなもの。彼女の洗練された雰囲気を感じながら演技を観たいのであれば劇場だろう。

 しかし、今回が初舞台の佐久間の声質は劇場では少し届きづらいと感じた。どの演者の声も平等に聴きながら楽しみたいという場合は配信の方がストレスなく観られる。

 そんな3者のトライアングルの外にいるのが、高杉真宙演じる、勇気の部下・三島(ミシマ)だ。3軸の輪の中に入れず、一歩引いた立ち位置にもかかわらず、終盤へ向けて異様さを醸し出していく。余談になるが、終演後、退場する観客の口から「高杉くんって演技上手いんだね」という言葉を多く聞いた。劇場では動きの細かさに眼を見張る。配信では表情の変化や目線の動きがダイレクトに伝わるので、怪しさがよりにじみ出ていた。

 劇場で鑑賞している際は、必ずしもセリフを発している俳優を観なければいけないというわけではない。つまり、好きな俳優をずっと観たり、物語のキーパーソンを追い続けても良い。筆者は劇場では高杉の演じる三島から目が離せなくなり、彼の挙動や所作に注目していた。こういった見方も劇場ならではの楽しみ方だ。

 配信では、そんな三島の怪しげな表情や、嘘をつくときの嫌らしさ、誤魔化しが見やすかったため、ミステリー映画を観るように洞察できた。映画やドラマのように気になるキャラクターの変化を注視できるのは、配信のメリットだ。

 配信では切り取られた画角のみを観るので、画角から外れた動き(例えば上手から歩いてきた)などがわかりづらい。逆に劇場では、全体を観ることができる反面、目や表情、所作の確認が難しく、キャラクターの本意を知る難しさがあった。

 融和と崩壊を感じる演劇『てにあまる』。劇場で空気を感じながら観るもよし、配信でじっくり観るもよし。エネルギーのある芝居を受けようじゃないか。

■こんどう巨神兵
老舗アンドロイドサイト『アンドロナビ』の編集者。ライターとしても活躍し、身長190cmの本も出している。Twitter190センチの世界

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