アメリカでスマートホーム事業が成功 HOMMA本間毅に聞く「これからの住宅と技術革新」
住宅関連のスタートアップ企業で、米カリフォルニア州シリコンバレーを拠点に独自の建築デザインと自社開発のスマートホーム技術を融合させたユニークなアプローチで次世代のスマートホームの実現を目指しているHOMMA。同社CEO・本間 毅氏にスマートホーム事業に取り組むまでの経緯や、曖昧に定義されがちなスマートホームのあり方について聞いた。
何の変哲もない「大きくて古い家」からの革新
――はじめに、本間さんがスマートホーム事業に取り組まれたきっかけを教えてください。
本間:私はソニーに勤めていた2008年に、駐在員としてカリフォルニアに赴任しました。そこからカリフォルニアに住みながら楽天へ転職し、4年前にこの会社を作りました。アメリカに12年住んでいて気づいたのですが、アメリカの家ってサイズが大きいものの古い家が多い。戸建て住宅取引の約90%が中古で、新築が10%程度しかない。古い家を直して使う、というのは悪くないのですが、その分設備が古かったり、定期的に直さないといけないところも多い。そういう背景から住宅にイノベーションが持たされていない点を、テクノロジーとリアルビジネスで変えていけるのではないかと思い、スマートホーム事業に取り組むことを決めました。
――アメリカにおける住宅取引の割合は中古が多いということですが、新築を立てない文化に関しては、どういうルーツがあるのでしょうか。
本間:理由はおそらく二つ。日本は戸建て住宅を建てても、30年くらいすると売り物としての価値はほとんどゼロに近くなります。一方、アメリカでは100年前の家でも価値はそこまで変わらず、直して使うことが多い。これは気候風土の要因もあると思います。とはいえ、アメリカにも湿気と雨が多いところはあるので、あくまでこれはそのうちの一つです。次に、日本は狭い国土の中にみんながひしめき合って暮らしていて、そこで人口が増えた結果、住むところが無くなったため、既存の住宅を壊して高い建物を建てたりしている。一方、アメリカの場合は新しい土地を開拓していけば土地は広がっていくので家を壊す必然性っていうのがなかった、というのもあると思います。
そして、もう一つ重要なのが「家を建てる期間」です。日本で家を建てようと思えば、大体一年以内に収まるのですが、アメリカだと設計をしてから建築申請を出して建築許可を取得をするだけで一年以上掛かってしまう。そこから建てる工程に入ると、結果的に完成まで二年から三年かかってしまいます。大抵の場合はどこかに住みながら新しい家を建てるので、二年くらい平行してローンを走らせなければいけないとなってくると、到底無理です。そのうえ、アメリカの新築住宅はマーケットの10%くらいで、そのうち80%くらいが建売なので、結果的には建っているものを買わなければいけなくなります。ただ、建っているものもそこまで良くないので、イノベーションが起こらないんです。
――建売の家が良くないというのは、なぜなのでしょう。
本間:家はロケーションとサイズで値段が決まるので、そこに創意工夫を凝らす、テクノロジーを入れるというのは、あくまで各会社のこだわりですが、基本的に建売業者としては早く安く建てて、早く売ることが重要という考え方になります。デザインもそうで、頑張ればモダンで未来的なデザインにできるけれど、リスクをとりたくないのでクラシックなものになる。結果的に「これだったら老若男女誰でもOKだよね」という物件が多く、新築の建売を見に行くと「これが2020年の家?」と驚くことが少なくありません。もちろん、デザインが古いものは歳をとらないので、40年後に建っていてもなんの変哲もないという意味では普遍性があるともいえるのですが。
――そういった価値感が凝り固まってしまっている業界とか文化に参入していくのは、苦労も多かったと思います。それでも勝算を感じて参入された決め手は?
本間:10%しか新築がないとはいえ、国土が大きくて人も多いですから、年間では70万件くらい家の新築住宅が売れています。それは、日本の新築全体と同じくらいのボリュームです。そのうえ、アメリカは人口が増え続けているので、日本みたいに少子高齢化で家が不要になっていく、という流れでもなく、業界全体に伸びしろがあると感じました。それから、日本のように2割ぐらいの大手住宅メーカーがマーケットを持っているという状況でもない。アメリカには住宅メーカーというものがなく、建売業者がいるだけなので、建て方やデザイン、テクノロジーといった部分にイノベーションの種があるのですが、誰も想像できていない。そういった背景を考えると、勝算は大いにあると思いました。
洗練されたテクノロジーから成る住宅を作る
――1軒目の住宅である「HOMMA ZERO」は、シリコンバレーに建てましたよね。テクノロジーが発展している地域で、関心が高い人が多い場所というのは、やはり意識していたのでしょうか。
本間:そうですね。とはいえ「HOMMA ZERO」はあくまでオフィス兼ラボの住宅として、テクノロジーを実験する場所として機能しています。実験場兼ショールームは必要だと思ったのですが、最初から家を建てるのは時間もお金もかかります。自分たちでどのようなスマートホームのテクノロジーを作るべきかを考えなければいけないですし、そのためにはとにかく家を自分たちでいじってみなきゃわからないだろうということで、シリコンバレーの東の方にある築50年の住宅を見つけて、最初から家を建てる期間よりは短縮して自分たちでリノベーションしたのが「HOMMA ZERO」です。
そこで色々なテクノロジーや使い勝手の良さ悪さなどを試し、「建築のプロセス」も学びました。たとえば、壁の作り方に関して、アメリカでは50年前も今も変わらないのですが、柱や梁のレベルまで落とし、電気の配線、ダクト工事、石膏ボードの壁を貼るという工程を目の前で見て、スマートホームを作るなら、家全体の設計とテクノロジーの導入は一緒にやらないといけないというのを確信しました。後からつけるとちぐはぐなものになったり、見た目が良くなかったり、配線が足りなくなったりするのだと勉強になりました。本当はLANケーブル1本でデータ通信も給電もできるものもあるのに、わざわざUSBのアダプタをつけなければいけない、というような不具合が発生しますから。と、そのような経験を経て、世の中に出回っているものと足りないもの、全く誰も手をつけてないところを分析し、理解したうえで作った新築が『HOMMA ONE』です。
――テック企業勤めの人など、スマートホームに関心の高い層であれば、同じくシリコンバレー周辺に建築するというのがベターだったように思います。「HOMMA ONE」をカリフォルニアのベニシアに建てた理由を教えてください。
本間:いま、シリコンバレーでは非常に土地の価格が急騰しているので、「HOMMA ONE」もこれからの住宅も、実際に家を建てる場所に関しては、シリコンバレー以外で進めています。現地では、「シリコンバレーへの一極集中ははたしていいことなのか?」という議論が巻き起こっており、若い世代はシリコンバレーに固執せず、様々な地域に分散しています。だからサンフランシスコ市内から車で40分ほど離れたカリフォルニアのベニシアというところに「HOMMA ONE」を建てましたし、「HOMMA X」も、そこまで地価が高くなくて、自分たちのオリジナリティを大事にする風土がありつつ、住民の都市計画に対する参画意識が高いところを探していく中で、オレゴン州ポートランドを選びました。
――「HOMMA ZERO」から「HOMMA ONE」を建てるまでの間で、一番改良した点とは?
本間:「HOMMA ZERO」ではテクノロジー面を含め、正直やりすぎたことがいっぱいあったので、「HOMMA ONE」ではもう少し削ぎ落とす形で、洗練されたテクノロジーの入れ方を意識しました。建てるにあたっても、改めて何十軒か家を回ってみて、そのうえで出てきたいろんな発想も取り入れています。例えば、みなさんが家で仕事をしたり、子どもたちがパソコンを使って学校の勉強をするとなったとき、リビングルームを大きく作って、その端っこの方にちょっとだけプライバシーがあるようなワーキングスペースを机を作りつけて入れたり。また、ビデオカンファレンスはみんな家から入るはずなので、ベッドルームの中にも机を作りつけて、そこからビデオカンファレンスへ入れるようにしよう、といった、この時代ならではの考え方も大きく取り入れました。
――一方、これから展開する「HOMMA X」、「HOMMA 100」に関しては、どういったターゲット層やコンセプトを想定していますか。
本間:「HOMMA X」以降は、若いミレニアル世代向けに対して良質な住宅を提供したいと思っています。建てるエリアは、歩ける範囲にカフェやレストランやスーパーがあって便利なところですが、そのようなエリアは人気住宅街のため値段が高いこともあるため、1部屋あたりのサイズを小さくして賃料や購入価格が高くならないように押さえるようにします。家のターゲットを定めるのはなかなか難しくて、家よりもロケーションで選んだり、デザインが古いから若い人が住まないとも限らないし、新しいからといってシニア層が住まないわけではなかったりします。
コンセプトについては、まず「HOMMA 100」の話をさせてください。「HOMMA 100」は、住民の目線でもって作られたスマートシティ、スマートタウンを想定しています。我々は家をひとつ作って終わるわけでも、家の中に入れるIoTを作って終わるわけでもなく、人の生活をより先に進めることを考えた結果、100軒の家を作ること、つまりはスマートコミュニティやスマートタウン、スマートシティを作ることを考えています。そこを一つのゴールとしたときに、10軒だからXね、1軒だからONEね、スタート地点だからZEROね、という形で名付けて行きました。
――そういう単位決めが、結果的にネーミングになっていたんですね。
本間:ゼロからイチを作る(Zero to One)って、ピーター・ティールをはじめ、スタートアップ界隈の人がよく言うじゃないですか。そういう考え方の延長線上でもあるし、1から10、10から100を愚直に刻んでいくのが、結果的に目標へ一番近づけることになるだろうと思いました。
――なるほど。そうした目的の途上にある「HOMMA X」は、18ユニットからなる総合住宅ですね。
本間:6つの建屋の中に18世帯が入っています。
――これはミレニアル世代とかだけっていうよりはもう少し大きいいろんな属性世代の人たちが入り混じったコミュニティが一つHOMMAの住宅を通して出来上がるみたいなイメージってことですよね。
本間:真ん中に中庭のスペースがあるので、それを一つのまとまりと考えたときにどういうことができるかということを考えています。せっかくスペースがあるので、ただ空間を置いておくというよりは、そこをみんなが生活の一部として使って楽しめるようなものを作りたいと思っています。テクノロジー的にみんながより便利になるような機能をそこで共有できないかと。