NANAのテック・アルテミス 仕事に役立つBizテック観測所(第29回)
インテルの新チップ「Arc G3 Extreme」搭載ハンドヘルドを試す 携帯ゲーム機市場の勢力図は変わるか

2026年6月、台湾で開催された「COMPUTEX TAIPEI 2026」で、Intelの新プロセッサー「Arc G3 Extreme」を搭載した新型ハンドヘルドPCを体験した。会場にはMSIの『Claw 8 EX AI+』やAcerの『Predator Atlas 8』などが展示されており、実際にゲームをプレイできるデモ環境も用意されていた。
ハンドヘルドPC市場では、これまでAMDの「Ryzen Z」シリーズが圧倒的な存在感を示してきた。Valveの『Steam Deck』やASUSの『ROG Ally』シリーズ、中国メーカー各社の製品まで、多くのモデルがAMD製プロセッサーを採用している。そうした中でIntelが投入するのが、ハンドヘルドPC向けに新設計された「Arc G-Series」だ。
今回試した『MSI Claw 8 EX AI+』と『Acer Predator Atlas 8』はいずれも上位モデルの「Arc G3 Extreme」を搭載しており、IntelはAMDの「Ryzen Z2 Extreme」を上回る性能と電力効率をアピール。実際に触ってみると、単純なフレームレートの高さだけではなく、動作の安定感や操作時のレスポンスの良さが印象に残った。
AMD一強だったハンドヘルド市場に向けたIntelの新戦略
「Arc G-Series」は、IntelがハンドヘルドPC向けに投入する新しいSoC(System on Chip)だ。IntelのAI PC向けプロセッサ「Core Ultra Series 3」(開発コード名:Panther Lake)の技術をベースとしながらも、ハンドヘルドPC向けに最適化された専用設計を採用している。
COMPUTEXでの説明会でIntel FellowのTom Petersen氏は、「CPUにGPUを載せた製品ではなく、GPUにCPUを組み合わせた製品として考えてほしい」と説明した。従来のプロセッサーとは異なり、ゲーム性能を中心に据えた設計思想を採用しているという。
「Arc G3 Extreme」は、2基のPコア、8基のEコア、4基のLP Eコアを搭載。製造プロセスにはIntel 18Aを採用する。グラフィックス機能には最新のXe3アーキテクチャを採用し、上位モデルではIntel Arc B390相当のGPU性能を備える。リアルタイムレイトレーシングにも対応する。

AIを活用したゲームアップスケーリング技術「XeSS 3」も大きな特徴のひとつだ。低解像度でレンダリングした画像を高解像度にアップスケールする「XeSS Super Resolution」、フレーム生成技術の「XeSS Multi-Frame Generation」、入力遅延を抑える「Xe Low Latency」で構成されており、描画性能と応答性の向上を図っている。
さらに、Windows 11向けの「Xbox Mode」に対応する。コントローラー操作に最適化されたフルスクリーンUIを利用でき、Windowsのデスクトップ画面を頻繁に操作することなくゲーム機感覚で利用できる。
このほか、事前コンパイル済みシェーダーをクラウドから取得する「Intel Precompiled Shaders」、Wi-Fi 7 R2、Bluetooth 6、Thunderbolt 4などもサポート。この性能面について、Intelはかなり強気だ。同社のデータでは、「Arc G3 Extreme」は35W設定時に「Ryzen Z2 Extreme」と比較して平均42%高いゲーム性能を発揮するとしている。
また17W設定時でも35W動作の「Ryzen Z2 Extreme」に対して約2倍の電力効率を実現し、12W設定時でも平均37%高い性能を示したという。
『ホグワーツ・レガシー』が100fps超 実際にプレイして感じた完成度
会場では『MSI Claw 8 EX AI+』と『Acer Predator Atlas 8』の両方を試遊することができた。最初に触れた『MSI Claw 8 EX AI+』は、8インチディスプレイを搭載する大型モデルながら、見た目ほど重さを感じさせない。グリップ形状も自然で、手に持った瞬間からハンドヘルドPCとしての完成度の高さが伝わってくる。
ホールエフェクト式のアナログスティックとトリガーは操作感が良好で、ボタン類の反応も軽快だ。振動機能も含め、全体として高品質なゲームパッドに近い印象を受けた。
一方の『Acer Predator Atlas 8』はややコンパクトな設計で、アナログスティックの剛性感が特徴だ。ショルダーボタンやトリガーのクリック感はMSI機に軍配が上がるが、スティックの操作精度についてはAcer機も非常に完成度が高い。両機とも8インチ・1920×1200ドットのディスプレイを搭載し、120Hzの可変リフレッシュレートに対応する。表示品質も高く、屋内展示会場でも十分な明るさを確保していた。
試遊タイトルとして用意されていたのは『ホグワーツ・レガシー』や『バトルフィールド6』などだ。特に印象的に残ったのは『ホグワーツ・レガシー』だった。筆者はこれまで『Steam Deck』を含む複数のハンドヘルドPCを試してきたが、『ホグワーツ・レガシー』は決して軽いタイトルではないにもかかわらず、「Arc G3 Extreme」搭載機では100fps前後を維持し、場面によっては120fps近くまで到達していた。
120Hzディスプレイとの組み合わせもあり、画面スクロールやカメラ移動は非常に滑らかだ。ハンドヘルドPCというより、ゲーミングノートPCや据え置きゲーム機に近い感覚でプレイできた。『バトルフィールド6』でも高画質設定で60fpsを超える動作を確認できた。8インチクラスのディスプレイで見る限り、映像品質は現行の据え置きゲーム機と比較しても見劣りしない。
特に評価したいのは、単純なフレームレート以上に動作が安定していたこと。プレイ中に大きなフレームレート変動やカクつきを感じる場面は少なく、操作に対する反応も素直だった。
Intelによると、その背景にはハンドヘルドPC向けに最適化した電力制御機構があるという。Arc G3ではGPUを優先して電力を配分し、Eコアを中心に処理を実行する。さらに13W以下ではPコアを停止させることでCPU側の消費電力を抑え、GPU性能を安定して維持する仕組みを採用している。
もちろん、Intelが示した性能比較は同社によるベンチマーク結果であり、最終的な評価には製品版による第三者検証が必要になる。それでもCOMPUTEX会場で実際に触った限りでは、「Arc G3 Extreme」搭載機はこれまでのIntel製チップとは明らかにインプレッションが異なった。長らくAMDが主導してきたハンドヘルドPC市場において、初めて本格的な競争が始まるかもしれないと感じさせる完成度だった。
搭載製品は2026年6月以降、順次発売される予定だ。『MSI Claw 8 EX AI+』は北米で約1,500ドルでの投入が予定されている。一方で、メモリーやストレージ価格の高騰が続く中、ハンドヘルドPC全体の価格上昇は依然として課題となっている。価格面のハードルはあるものの、今回試した『Arc G3 Extreme』搭載機は、ハンドヘルドPCの次の世代を予感させる仕上がりだった。AMD一強だった市場にIntelがどこまで食い込めるのか、今後の製品展開に注目したい。



























