絵があって、キャラクターがいて、物語だけが欠けていたーー『Dweller's Empty Path』が描く、ある少女の空っぽな1日

“筋書き”だけが排除されたゲーム

 『Dweller's Empty Path』はイラストレーターのTemmie Chang氏が開発したRPGだ。対応プラットフォームはPC/Mac(itch.io)で、無料/投げ銭制で入手することができる。Temmie氏は『Undertale』のデザイン・アートワークで知られるアーティストで、本作の音楽は『Undertale』開発者のToby Fox氏や、『beatmania』シリーズで知られるかめりあ氏が楽曲を提供している。

 本作はゲームボーイ風のビジュアルで描かれるアドベンチャーゲームだ。主人公は森の奥に住む兎耳の少女ヨキ。ここのところ悪夢にうなされ続ける彼女は、気分を晴らすため長い散歩へ出かけることにする。本作で戦闘などは起こらず、フィールドを自由に散策することが目的。道中ではよき理解者の魔法使いクレアやちびっこ少女のエイモトル、厳格で気難しい王子など、さまざまな住民たちとの交流を楽しめる。イベントでは特殊なカットインが挿入され、使用されたイラストレーションは100枚以上にもおよぶ。

 個性的なキャラクター、魅力的なイラスト、ほのぼのした会話……本作はあらゆる要素に賑々しく満たされている。しかし数々の楽しげな要素が目につくほど、この世界にどこか欠落感を感じてしまうのではないだろうか。それは、作り込みが甘いといった話ではない。意図的に後退させられていると感じる出来事が多すぎるのだ。たとえば巷ではビーストタイプ(=モンスター)が謎の凶暴化を始めた噂が影を落としている。北方では兵士が行方不明になる事件があり、ヨキは王子から数日後に調査協力を命じられる。その調査の様子が描かれ、謎が明かされる……のかと思いきや、本編でその場面は描かれない。ヨキが1日を終えればゲームは終わってしまうからだ。約束の数日後は物語の外側に追いやられている。

 あるいは、本編より手前に置き去りにされた出来事も多い。たとえば獣耳の生えたヨキは今でこそ人々に親しまれてるものの、かつてはビーストタイプと間違えられることも多く、村や街の人々との確執があったことが語られる。しかし考えてみれば、その隔たりを乗り越えることこそが物語の主題になってもよさそうだが、すべての問題は片づいた後になっている。後半には、ある事件を起こしたというキャラクターとの印象的なシーンも存在するが、それすらも事後的に語られるだけなのだ。ほかにも、ある場面では「他人の冒険を覗き見する」というイベントがあり、露骨に“ヨキ自身の”冒険を描くことは避けられている。

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