人気ポッドキャスターに100億円払う時代ーー音声コンテンツ新時代の未来とは?

ポッドキャストから考える、音声コンテンツ新時代の未来

 世界で最も最も利用者が多いポッドキャスト・プラットフォームは、Appleのポッドキャストだ。長年iOSデバイスにプリインストールされるポッドキャストアプリや、豊富な配信番組のセレクションによって、Appleは業界1位の地位を確立してきた。

 同じプラットフォーム企業として、SpotifyとAppleのポッドキャストへのアプローチは、対照的と云える。例えば、Spotifyは、音楽とポッドキャストをプラットフォーム上で統合し始め、ポッドキャスト用のアルゴリズム・プレイリストやレコメンドを始めた。これに対して、Appleは2019年のアップデートで、iTunesを解体して、ポッドキャスト・アプリとApple Musicアプリをスタンドアローン型に移行し、機能の棲み分けを図ってきた。

 もう一点、2社の違いは、ビジネスモデルにもある。Appleのビジネスモデルから、ポッドキャストを考えてみたい。近年、Appleは、自社のエンタテインメント・サービスに巨額の投資を行ってきた。具体的には、Apple Music、Apple Arcade、そして満を持して始めたApple TV+のサブスクリプションだ。これらを、サービス事業の軸に成長させることが、現在のAppleの狙いだ。サービス全体からの売上は、いまや133億ドル(約1兆4300億円)にのぼり、年々成長している。

 しかし、Appleは、この戦略の中に、ポッドキャストのポジションが見つけられていない。その理由として考えられるのは、ポッドキャストの広告モデルだろう。

 現在、ポッドキャストで主流のビジネスモデルは、再生に伴う広告収入だ。そのため、基本無料で聴くリスナーは、番組の前後に挿入される、オーディオ広告やスポンサー広告を聴くことになる。

 だが、Appleの狙いは、サブスクリプションの成長であって、広告事業から売上を伸ばすことではない。そのため、無料で聴けるポッドキャストは、サービス事業での戦略的な優先事項に置きにくくなってしまう。

 そんな中、Spotifyは音楽ストリーミング業界で長年、広告収入モデルを運営してきた実績がある。正確に云えば、リスナーのデータに基づいた高度な広告ソリューションでの実績が多い。Spotifyの狙いは、無料のポッドキャストでプラットフォーム利用者を増やし、最終的には有料利用者に転換させる。その過程で、広告収入も伸ばし、売上に貢献させる。

 コロナ禍で、世界的にサブスクリプション利用者が伸びているこの時期に、AppleやSpotifyで、どれほどポッドキャストを再生した人が伸びたかは、今後を考える意味で、ベンチマークの一つになるだろう。

 Spotifyにとって、Appleから市場を奪うことは、簡単ではない。だが、確実に言えるのは、ポッドキャスト市場でも、他業種と同じく、ディストリビューションとデータのテクノロジーと資金を揃えた、デジタル・プラットフォームが、主導権を握る。

 ポジティブなことは、インディペンデントなポッドキャスターが、活動できる環境が広がることだ。

 しかし、中小のオーディオコンテンツ企業や、デジタルに移行できないラジオ局、個人ポッドキャスターは、プラットフォームと、いかに向き合うかを考える時代に、今後は変わっていくはずだ。コンテンツ流通や、消費者データ、レコメンデーションのアルゴリズムをコントロールするのは、プラットフォームと一部の人間に限られるからだ。

 ポッドキャスト業界の新たな潮流を予測するとすれば、それはAppleやSpotifyなど大手企業がポッドキャストのメガ・プラットフォーマーとなる流れは止められない。そして、プラットフォームが、日本の音声コンテンツ市場や、ポッドキャスターの創作活動に、影響を及ぼす可能性は限りなく高い。

(画像=Pexelsより)

■ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、All Digital Music
デジタル音楽ジャーナリスト。音楽ブログ「All Digital Music」編集長。「世界のデジタル音楽」をテーマに、日本のメディアでは紹介されないサービスやテクノロジー、ビジネス、最新トレンドを幅広く分析し紹介する。オンラインメディアや経済誌での寄稿のほか、テレビ、ラジオなどで活動する。
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