『ブレードランナー』に『∀ガンダム』まで手がけた“レジェンド”の作家性を知るーー「シド・ミード展」レポート
そんな伝説の存在であるミードは、まだまだ現役である。近年でも、『ミッション:インポッシブル』シリーズで3作目以降に登場する、3Dプリンターのように好きな顔の覆面を自動で製作できる“マスクメーカー”や、『エリジウム』(2013年)、『トゥモローランド』(2015年)の未来世界の表現、そして『ブレードランナー 2049』(2017年)では、荒廃したラスベガスの街をデザインしている。
工業デザイナーでもあるミードの特長は、未来的でありながら実際に使用できそうな説得力を持っているという部分であろう。本展でとりわけ目を引くのは、アニメーション『YAMATO2520』(1994年)における、“NEW YAMATO”の断面図だ。そのあまりに詳細なデザインは、工学的な知識がなければ製作できない見事な出来映えである。
さらにその技術を活かしてデザインされたのが、『∀ガンダム』の機体、「∀(ターンエー)ガンダム」や、「ターンX」などの、従来の“ガンダム”の概念を打ち崩すようなデザインだ。美しい流線型のフォルムは、ガンダムの印象を残しつつも、兵器としての機能的なリアリティが感じられる。さらに会場には、TVアニメ『機動戦士ガンダム』がハリウッド映画として企画されていた際のイメージボードと思われる作品も展示されていて、必見。
そんなミードの創作のルーツが分かる展示パートが、本展の柱でもある「PROGRESSIONS」だ。ここでは「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」で、カーデザインを勉強していたミードの、1957年からの作品が展示されている。当時20代前半であることを考えると、「天才……!」としか思えないほど、詳細な説得力と美しさを持った、年齢による青くささなど微塵も感じられない、おそろしい完成度である。シド・ミードは、初めからシド・ミードだったのだ。その車体の美しさは、『ブレードランナー』の乗り物「スピナー」にも応用されている。
ここまでのクォリティーがあってこそ、世界に名を馳せるレジェンドになることができる。多くのクリエイターにとっても、この凄まじいレベルの作品群は参考になるはずである。くわえて、製作途中の下絵も公開されているのも興味深い。会場では、スマートフォンによる、AR(拡張現実)演出も楽しめる。ミードのデザインした車体が飛び出したり、カメラを近づけることで、その部分の下絵を画面に表示することが可能だ。
いままでに存在しない、未来の技術に裏打ちされたものを作り出す。それは、まさに
“オーパーツ(その時代にはあり得ない人工物)”の創造といえよう。乗用車という比較的身近なものから、宇宙船や未来都市、モビルスーツ、機械生命体などに至る創造力の飛躍……。
日常の繰り返しのなかで、どうしても人間の考え方は、次第に小さく凝り固まってしまいがちだ。そんな我々に、ミードの作品群は、固定観念から抜け出すヒントを与えてくれるかもしれない。そう、常識を超えて創造の翼を手に入れること。その方法を見つけ出すための答えが、この展覧会に隠されているように感じるのだ。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■イベント情報
「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019!」
場所:3331 Arts Chiyoda 1F メインギャラリー(東京都千代田区外神田6丁目11-14)
日時:4月27日(土)〜5月19日(日)
前売:一般 1800円
当日:一般 2000円/学生(大学生・専門学校生以下)1000円/障害者手帳お持ちの方および付添1名 無料/※小学生以下無料
公式サイト:https://sydmead.skyfall.me/