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Real Sound Tech × agehasprings 『Producer's Tool』第二回:田中秀典

agehasprings 田中秀典が語る“作詞のツール”とK-POP訳詞のポイント

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 音楽プロデューサーの玉井健二(a.k.a. 元気ロケッツ)が代表を務め、蔦谷好位置、田中ユウスケ(a.k.a. Q;indivi)、田中隼人、百田留衣、飛内将大、釣俊輔など、今や日本を代表するヒットメーカーが多数在籍し、最近ではライブプロデュースやレーベル設立、AI開発など、音楽業界の未来を見据えるクリエイティブカンパニー・agehasprings。彼らの考えていることを、直近のプロジェクトや使用している機材などを通じて紐解いていく連載『Producer’s Tool』の第二回には、田中秀典が登場。

 YUKI、関ジャニ∞、SCANDAL、三浦大知、井上苑子などへの作詞・作曲や、少女時代やSHINeeなど海外アーティストへの日本語歌詞などを手がける彼の制作スタイルや、作家としての転機、使用ツールやワークショップ『agehasprings Open Lab. vol.3』について、じっくりと話を聞いた。(編集部)

 「そもそも一人称を使わないことが多い」

ーー田中さんは作詞・作曲・ボーカルディレクション・プロデュースのほか、最近は訳詞のお仕事も多く手がけられています。幅広い活動をされているというイメージですが、ご自身でどこに軸足を置いている、と思っていますか?

田中秀典(以下、田中):そうですね……それは僕の経歴を話すとわかりやすいと思うんですけど、元々はシンガーソングライターとして、2000年から2002年まではメジャーで活動していたんです。レコード会社さんとの契約が切れたタイミングで、どうしようかと思っていたときに、当時プロデュースをしてくれていた上田ケンジさんに声をかけていただいて、彼がプロデュースするバンドの歌詞を手伝うことになったんです。その経験を経て、作詞家・作曲家として人に楽曲を提供することに対する意欲が増していきました。どこか、自分のなかで作るのは好きなんですけど、人前で何かをすることに自信がなかった部分があったんです。

ーーもともと音楽作家としての自分に適性を感じていた、ということですね。

田中:はい。そうして活動をしていくなかで、友人でもあったプロデューサーの野間康介がagehaspringsに入ったこともあり、その後に続く形で加入することになりました。当時は作詞作曲の両方を満遍なくやりたいなと思ってたんですけど、あまりアレンジャーとしての経験がなくて。弾き語りのデモテープみたいな音源を作って、それを編曲してもらって、という形で作っているなかで、だんだん作詞の仕事が多くなってきたんです。自分でも作詞として関わったお仕事に手応えを感じたこともあって、作詞に特化していくべきだろうと思いました。

ーーそう思ったのは、どのタイミングなんですか?

田中:agehaspringsに入る前は、作詞作曲が同時に決まることが多かったですし、初めてのコンペで採用された高橋瞳さんの「青空のナミダ」がヒットしたこともあって、自分はどちらもできるのでは? と手応えを感じていました。でも、agehaspringsに入ってからは作詞だけの依頼が多くて。歌詞を書くシンガーソングライターの方に共作詞として入るケースもあったり。そういう時にキャッチボールしながら歌詞を作っていくのが楽しいなと思いましたし、同じagehaspringsのクリエイターが書いた良い曲に歌詞を書いて一緒に作り上げたりするうちに、こういう形で自分が活躍できるならどんどんやっていこうと思うようになりました。

ーーなるほど。作詞作曲などはこれまでの経験も活きる場所だと思うんですが、先日のワークショップ(『agehasprings Open Lab. vol.3』)のテーマでもあった訳詞というのは、作詞とはまた違った難しさがあるように思えます。

田中:全然違いますね。

ーー具体的に、どんな違いがありますか?。

田中:僕は英詞よりもK-POPの訳詞が多いので、そちらを例にして説明すると、K-POPの場合は最初にまず直訳されたものと、原曲の歌詞にカタカナでルビを振ったものが一緒に届くんです。なので、それを聴きながら、まずは原曲の歌詞を音として捉える作業から入るんですよ。

ーーその響きから日本語っぽい場所を探していったり?

田中:まさにそうです。最初は訳の意味と離れない言葉を探すのがすごく大変でした。語尾や韻を踏む場所にぴったりの日本語が見つかると、そこに聴感上、語尾が似ているものを嵌めていけば、原曲を崩していないように聴こえるんです。

ーー韓国のポップ・ミュージックは、ビートが厚いうえ、語感としてはハネたリズムのものが多いですよね。

田中:ハネてますし、世界のトレンドを意識したサウンドも多いです。なので、聴感的に似た英語を探して、そこに近い日本語を嵌めるというやり方もあります。原曲自体が英語詞の場合は、基本的にそのまま残しています。逆にいうと、ハングルの部分はなるべく英語を使いたくないという自分なりのこだわりはあるかもしれません。例外として、カタカナ英語は使ってもOKとしています。

ーー最近はより世界的なヒットも出てきていますから、英語詞の割合も変わってきているような。

田中:少女時代が出てきたころとは全然違いますね。Red Velvetをはじめ、英詞が多いグループが増えました。

ーー直訳から日本語に直すというのが田中さんの訳詞における1つの特徴だとすると、逆に日本語詞を書くときの個性はどういうものなのでしょうか?

田中:パッと思いついたのは、女性アーティストの歌詞でもあまり「私」という主語を使わずに作ることが多いですね。かといって「僕」という言葉を使ったりもしないのですが。「私」って、女性感が強く出すぎてしまう気がしているのと、単純に3文字使っちゃうなと思っちゃいます。

ーー他の一人称より文字数が多いのは、作詞においてはマイナスになることもあると。

田中:英語だと「I」(アイ)で2文字ですし、ハングルだと「ナ」の1文字なんですよ。最近の音楽がそうである、ということも含め、僕の歌詞は抽象的な世界観を意識していることもあって、そもそも一人称を使わないことが多いかもしれません。

ーー確かに、田中さんの歌詞って抽象度が高くて、あまり特定の対象に定めたものがないんですよね。あえて余白をすごく残して、誰でも自分ごとにできるようになっているというイメージです。

田中:そこはすごく意識しています。かといって、全部を抽象的にするのではなく、具体的になる場面を作るようにはしています。アイテムも積極的に使いたいんですけど、あまりにも対象を特定するアイテムは使いません。夕焼け、公園、駅、改札とか、そういう風な日常的な道具を使って、斬新な表現ができないかをずっと探しています。

ーーその視点でいうと、寿美菜子さんの「アンブレラ・アンブレラ」がすごく良い歌詞だと思いました。

田中:ああ、良い球を投げてくれました(笑)。自分でも最近の仕事のなかで、すごく好きな歌詞の一つです。表現の制限があまりなく、割と自由にやらせてもらったこともあり、ちょっとぶっ飛んだ歌詞になったかもしれません。個人的に“綺麗なダークファンタジー”が好きなこともあり、非現実的なことに毒を混ぜて、ちょっと日常的に戻すというのはよく使う手法ですね。着ぐるみを登場させながら、「実は後ろにチャックが付いてるんです」って話しちゃうみたいな(笑)。ファンタジーに浸っている人に、あえてチャックの方に目を向けさせて現実に引き戻すとドキッとするじゃないですか。「アンブレラ・アンブレラ」だと、〈Ah あれはそう 2000年前〉という非現実的な設定から始めて、傘というアイテムを使ったラブソングになっていく、という。

      

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