いま「VTuberに音楽を作ること」の意義は? Yunomi×Avec Avec×Norが語り合うキズナアイ楽曲制作秘話

キズナアイ楽曲はどのようにして生まれた?

“当たり前の世界”に出てきた、新しいエンターテイナー

ーーVTuberという存在を初めて知ったときは、皆さんどんな感想を持ちましたか?

Avec Avec:びっくりしましたし、すげー面白いと思いました。

Nor:面白くて、企画力もあって、そういうタレントのある人たちが自由にこの世界に出てきましたし、そのためのツールがあることはすごい良いと思います。

Avec Avec:今のVTuberの隆盛って、それこそ昔、「ニコニコ動画」が出てきた時にちょっと近い感じを覚えています。最初にVTuberを知ったときには、VTuberっていう「タグ」を使って面白いことをやろうとしてるんだなって、そういう面白い人が集まってるイメージがありました。昔知った色んなクリエイターの方々が、「VTuber」のタグのもとに帰ってきたというか、そういう感覚があります。

Yunomi:あの頃のネットってどんな感じですか? 「フラッシュ職人」とかですか?

Avec Avec:僕が1番近いと思ってる時代はもう少し後で、2007年当時、僕ニコ動で「マッシュアップ」(編注:既存の楽曲を組み合わせて、新しい音楽を作るリミックス方法)とか作ってて、みんなでわちゃわちゃ遊んでたので、その遊びの感覚とクリエイティブな感性がごっちゃになってるところがすごく面白かったんです。

Avec Avec。

ーー当時は、ニコニコ動画のインタラクティブ性に熱狂した時代だったと思います。たとえば今はTwitterで、「ハッシュタグ共有して皆で同時に映画を再生して、感想をつぶやきながら見る」というようなことが行われていて、そういうことの面白さに気づかせてくれたのがニコニコ動画だったなと。そんな双方向性がさらに加速した結果を今、VTuberの世界に感じます。VTuberの生放送にチャットを返したりする、そういう双方向性って、テクノロジーが進化したから生まれたものだと思うんですけど、同時にファンはそこに対象の「心」を見てしまうというか……。

Avec Avec:わかります! 放送を見てると、VTuberの心が浮き出てくる。僕はねこますさんを見て思いました。つまり……最終的に残るのは純な「心」だ、みたいな。アバターやボイスチェンジや、身にまとういろんな要素があるけれど、ファンとして見ているとそれが反転してプリミティブな純真さだけが浮かび上がってくるというか。

Yunomi:めちゃめちゃ深い話だ。

ーーVTuberの世界はすごくハイテックですが、そのテクノロジーの塊の中にプリミティブな気持ちが見えた時に、嬉しくなっちゃいますよね。そういう意味でVTuber人たちが歌を歌うことっていうのはすごく意味があると思います。音楽として発信してくれることで、パッケージングされた気持ちを提示できるのかなと。皆さんはVTuberが音楽を歌うことについて、どう思いますか。

Nor:VTuberさんだけではなく、YouTuberの、例えばヒカキンさんとかもライブをやったりしてますよね。お客さんを楽しませる手段として歌を歌うことはいいことだし、見ていて楽しいです。なのでVTuberが歌を歌うのも、当然の流れだと思ってます。

ーーエンターテイナーとして自然な行為であると。

Nor:そうですね。YouTuberがタレント性を発揮する、自分の個性とかキャラを出すうえでもすごくいいと思う。

Avec Avec:「音楽」には色んな側面があるんですけど、そもそもバーチャルな部分が僕の中では大きくて。だから「VTuberだから」というのは関係ない感じがします。リアルなアーティストさんも、ある種「キャラクター」をまとっているわけだし……だから、リアルとバーチャルの垣根もこれからどんどん無くなっていくんじゃないかと思っていますし、音楽が持ってるバーチャル性が多層的になっていくというか、色んな見方ができるようになるんだろうなと。

Yunomi:僕はVTuberを見てて安心しますね。おそらく僕よりも寿命が長いし、メンバーは抜けないし(笑)。僕は、アーティストがその活動の中で「何を生み出したか」じゃなくて、そのアイドル活動とか、VTuber活動、ひいてはそのアーティストの人生を見てしまうんです。その活動全てを通して、他人の心にどんなものを残すのか。だから1曲1曲じゃなく、「全活動の中で、何を残せたのか?」みたいなことにすごい興味がある。その点でVTuberはコンテンツの寿命がおそらく長いので、遠い未来まで残ると思うんです。だからすごい興味があります。僕、テクノロジーが好きなんですよね、きっと。わくわくするじゃないですか。VTuberを初めて見た時、少年の心になりましたもん。

Avec Avec:なりましたね。

Nor:わかります。

ーー声優さんへの楽曲提供や他のタレントさん、アイドルさんへの楽曲提供、そういう“リアル”で活動している方の楽曲を作ることと、“バーチャル”で活動している方に対して楽曲を作ることに、違いはありますか?

Avec Avec:やっぱりキズナアイさんにはキズナアイさんの世界観があるし、それを想定して作っています。「VTuberだからこういう曲」というのは、現段階では特になかったですね。

Yunomi:リアルもバーチャルも同じように捉えて作ってます。そのとき自分が1番面白いと思っている音……今回はたまたまフューチャーベース的な音色ですが、それはどんどん変わるかもしれません。その時その時、1番面白いと思うものを提案するだけです。

楽曲の中で光る、キズナアイの「槍のような声」

Nor。

ーーここからは今回皆さんがプロデュースされた楽曲について、聞いていきます。「キズナアイの音楽」について語る上では、やはりNorさんの「Hello,Morning」の話をしなければいけないな、と思うのですが、Norさんは「Hello,Morning」発表前後で身の回りの変化などはありましたか?

Nor:キズナアイさんはVTuber界隈では「親分」と言われている存在で、僕もいちファンとしてVTuberの界隈が大好きなので、関われること自体がまずすごく嬉しかったです。楽曲が発表されたあとは、そこからアイさんだけではなく、色んなVTuberさんたちが話しかけてくれたりして、VTuberの世界に近づくことができました。すごく嬉しい変化がありましたね。

ーーYunomiさんは、「future base」と「new world」を担当されていますが、曲の対比があざやかでした。「future base」は若干マイナーな曲調から始まってるのに対して、「new world」はかなりポップな、飛び跳ねるような楽曲だと感じました。

Yunomi:最初から2曲の依頼を頂いていたので、「対比を見せよう」というコンセプトを立てました。「future base」は彼女自身の思いを歌う曲で、「new world」はそれに対して僕たちがどう思うのか、僕たちがどう変わるのかという視点の違いを出している。歌詞を書いた曲「new world」については言葉として如実に出てると思うんですが、曲調に関しては立場の違い、目線の違いみたいなものを意識して正反対の曲調にしたつもりです。でもあの2曲、実はキーが同じなんですよ。

Yunomi。

ーーYunomiさんはこれまで初音ミクさんの楽曲制作や、花澤香菜さんの楽曲Remixなども手がけていますが、「素材」として見たときに、キズナアイさんの声ってどんな声ですか?

Yunomi:素直にいい声ですよ。結構「槍」っぽい感じというか。シュッとした、ツーン!って突き刺さるような、ブレずにまっすぐ飛んでいくようなイメージです。僕はほかの現場でも「霧のような声」とか「雲のような声」、みたいなイメージでアーティストの声を捉えてます。

Avec Avec:アイちゃんの声の鋭い感じ、すごいわかります。

Nor:ふわっとしてる感じじゃなくて、その中に硬い何かがある、形のある声だと思います。

Avec Avec:わかります。だからデジタルっぽい音とか、硬めな音にもめっちゃハマるんですよ。

Yunomi:そうそう。コンプレッサーのノリもすごくよかった。

ーーあと、“スーパーAI”なので当然なのですが、キズナアイさんは歌がとても上手ですよね。

Yunomi:うまいです。でも、こんなこと言うの失礼かもしれないですけど……「完璧じゃない感じ」があって、そつなくリズムに合わせて歌うというよりも、結構走っちゃう感じ、頑張ろうとして走っちゃう、みたいな歌い方が多い印象で。そんなところに彼女の人間味みたいなのを感じて、そこにキュンとしちゃいました。

ーーバーチャルに人間味を感じてしまう瞬間だったんですね。

Yunomi:本物より本物、みたいな。

ーーAvec Avecさんの「over the reality」はクラブミュージックの色を全面に出しつつも、アイドルソングの様式も感じました。制作の過程ではどのような思索があったのでしょうか。

Avec Avec:最初はアイちゃんの可愛らしさを全面に出した楽曲を作ろうと思ったんですけど、同時にアイちゃんの持っている切なさとか、かっこよさみたいなのも散りばめていきたいと考えました。もともとは生音を使ったジャズっぽいアレンジで作ってたんですけど、先ほども話題に出たように「デジタルな音が合う声質」だったので、結果的に今の形になりました。あと、すでにNorさんとYunomiさんの曲を聴いていたので、2人とは違う感じの曲を1曲作ってもいいかなと思って。そんな意識もあって、例えばメロディが「Aメロ・Bメロ・サビ」って進んでいく部分なんかは強く意識して作りました。そこがアイドルソングっぽく感じる部分なのかもしれません。

ーーキラキラしたデジタルな音が鳴ったと思ったら、サンプリングされた古いドラム音が入っていたりするところも印象的でした。

Avec Avec:あえて古い音も新しい音も鳴らしていますね。彼女に合うサウンドを色々試して、普段あんまり使わない音とかも使ってみたりとか。僕自身も今まであまりやったことのない冒険として、サビでテンポを倍にする展開も取り入れてみました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる