亀田誠治、蔦谷好位置らが語る“ストリーミング時代におけるJ-POPの世界戦略”

亀田誠治らが語る「J-POPの世界戦略」

 そして、最後に鈴木が提示した3つ目のポイントは、ドラスティックに変化を遂げつつある音楽状況のなかで求められる人材や組織戦略について。蔦谷は自身の先の話を受けつつ、「ちゃんと危機意識をもって、椅子取りゲームではなく、新しい椅子を作るために、自分たちがやれることは何なのかを考えられる人材や組織が必要」とした。一方、亀田は、「お金の流れ自体を変えていく必要がある」と提言。「CDが売れなくなるのに伴い、日本の音楽業界で動くお金の量が少なくなっている。切実な問題としては、音楽の製作費が少なくなっている。ここ数年で何十%減ったことか。僕も蔦谷くんも最前線で音楽を作っているけど、それですら、そういう現実を味わっている。同じようなお金の掛け方で、同じような取り組みをしていると、結果的に同じような音楽ばかり生まれてしまう」と危機感を吐露した。そして、「既存のレコード会社やプロダクションに頼るのではなく、企業など別の組織から音楽を作るための資金を持ってくるなど、新しいお金の流れ方を考えるべき時代なのかもしれない」と自らの見解を述べた。

 さらにコウガミは、海外における近年の流れとして、「権利の領域の見直し」があることを紹介。「ストリーミングが伸びている状況で、今までCDで結んできた権利がワークしなくなっている。アーティストやマネジメントは、その契約をもう一回見直して、レーベルや音楽出版社と契約をし直そうという流れがある」と語った。それと同時に、作家をサポートしている業界団体も、若いアーティストや音楽関係者に向けて積極的にワークショップを行うなど、業界全体として変えていこうとする動きがあるという。「やはり教育は大事ですよね……」。そう言いながら亀田は、「ミュージシャンって純粋だから、極端な話、自分の作品が発表できたら、それでいいってなってしまったりするんです(笑)。だけどそれだと、サステイナブルな活動はできないし、世界に届くような音楽も出てこない。なので、ビジネスの仕組みや権利の仕組みを、ちゃんと教育していくことが重要」と語った。それを受けてコウガミは、「アーティストの得意分野は、音楽を作ること。それ以外のことは、それ以外の人がちゃんとサポートすることも大事である」として、新しい時代の音楽業界人を育てることの重要性を説いた。

 今回のトークセッションで印象だったのは、ストリーミングの時代が到来しつつあることを前提としながら、登壇者全員が「その未来は明るい」と同意していたことだった。ただし、その明るい未来を築く上では――とりわけ、日本においては、作り手と聴き手、そしてそのあいだに位置する音楽関係者たちの意識の変化が、まだまだ必要であるという。アーティストの意識改革のみならず、その周辺にいる人々、さらには聴き手までもが、しっかりと世界を見据えながら、意識を変化させ、そして行動に出ること。「J-POPの世界戦略」の前提条件として、まずはその意識改革こそが大事なのかもしれない。

(取材・文=麦倉正樹)

■イベント概要
『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI』
日程:9月29日〜30日
会場:六本木ヒルズ(六本木ヒルズアリーナ、ヒルズカフェ、大屋根プラザ他)
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/iwf2018/

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