新木優子主演『毎日、思ってた』はWEBドラマの枠にとらわれない傑作に 山戸結希短編作品を考察
物語のストーリーとしては、結婚式場で働く主人公が、恋人との関係に悩むというもの。スキンケア用品のCMと「一歩踏み出す」というテーマがどのように結びつくのか、というのを考えると、従来の化粧品CMでよくあるような「美しくなって気持ちも前向きに」といわんばかりに外見にも内面にも現状からの変化を強いるような安直なプロットを連想してしまうが、どうやら本作は違っているようだ。
何故なら、この物語の主人公は顔を洗うだけで、その行為自体が物語の転換の役割を果たしていないのだ。洗う前と洗った後に主人公に大きな変化もなければ、洗うという行為によってポジティブさが与えられるわけでもない(それでも何故か、CMとしての役割さえ果たしているから不思議だ)。あくまでも、自然な状態を蝕むひとつの悩み、というネガティブを洗い流す、ほんの“一息”にすぎず、洗う前と洗った後で本質的には変わっていない女と男が画面の中にいつづける。その2人の心の距離がひとつの化粧品を通して近付く、というより、一歩だけ踏み寄っていくのだ。
もちろん顔を洗うところで突如はじまるCM的な演出、粉末を神秘的に映し出したり、朝陽が射し込む窓のカーテンが揺らめいていたりというドラマチックさを空間の演出で補っているが、主軸たる物語にあるのは、2人の登場人物が明確に“変化”することではなく、現状をそのままに受け入れていく姿。いわばこれまでの山戸作品と同様に、女性は常に女性でありつづけて、男性はどこまでも男性でありつづけていく中で、異なる生物同士であることを冷静に受け入れるすべを模索していく物語なのではないだろうか。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■配信情報
『毎日、思ってた』 (9分9秒)
出演:新木優子ほか
監督:山戸結希
公開開始日:2018年9月4日(火)
「suisai」公式サイト:http://www.kanebo-cosmetics.jp/suisai/