『オクトパストラベラー』、懐かしの“ドット絵”はなぜ人々を虜に? ファンタジックな魅力を考察
『オクトパストラベラー』は単なる懐古主義ではない
レトロなドット絵のゲームが、その価値を改めて見出されているのは間違いのないところである。『オクトパストラベラー』が生まれた背景には、こうした流行も影響しているはずだ。しかし、それだけでは100万本を超えるヒットにはならないだろう。『オクトパストラベラー』が人々を虜にしている理由は、もっと別にあるのではないか。
スクウェア・エニックスの高橋真志プロデューサーは、本作の絵をドット絵にした理由について、「開発チームのメンバーにスーパーファミコンのゲームを深く遊んでいた世代が多く、あの頃の感動を自分たちの手で作りあげたいという情熱からドット絵にしました」と語り、一方でディレクターを務めるアクワイアの宮内継介氏は、「ドット絵の世界観をリッチに見せるというテーマがあり、ドットを3Dモデルに貼ったり、ドットの荒さを調整したりした結果、“HD-2D”に行き着きました」と述べている。(参考:電撃オンライン/『オクトパストラベラー』インタビュー。EDまでの想定プレイ時間やドット絵にした理由は?【E3 2018】)
なるほど、たしかに『オクトパストラベラー』のビジュアルを見て受ける感動は、スーパーファミコンで『ファイナルファンタジー』シリーズを初めてプレイした時のそれに似ている。現在、ゲーム開発の現場で中核となっているのは、新作が出るたびにそのシステムやビジュアルが進化していった初期作品を熱心にプレイした世代だろう。「ドット絵の世界観をリッチに見せる」のは、おそらくは当時の他のRPGにも掲げられていたテーマのはずだ。『Ⅶ』以降はPlayStationへと移行し、ドット絵を見る機会はグッと減ってしまったが、あの世界にはあの世界にしかないファンタジーが確実にあったし、それは当時最新のテクノロジーを駆使したものでもあったのだ。『オクトパストラベラー』は、あれから20数年を経て、現在のテクノロジーであの世界の続きを見せてくれるものなのである。それは単なる懐古主義ではなく、想像力を駆使した未知の世界への憧れだ。
ゲームシステムも、当時と比べて格段に進化している。選んだキャラクターには特有の「フィールドコマンド」が備えられており、ほぼ全てのNPCに対して違うアクションをすることができる。見た目はドット絵でも、中身は最新のRPGで、想定プレイ時間はメインストーリーだけで50~60時間を要するという。この自由度とボリューム感は、かつてのスーパーファミコンでは叶わなかったことだ。
『オクトパストラベラー』が多くの人々の心を掴んでいるのは、「あの頃を思い出させてくれるから」だけではない。懐かしくも感じるその絵柄が、今なおゲームが進化を続けていることを、その果てない夢とともに教えてくれるからである。
■ダム黒部
ゲーセンに入り浸る青春時代を過ごし、好きが高じてゲーム誌の編集部でキャリアをスタートさせる。その後、アニメ関連の雑誌や書籍の編集を手掛ける。現在はフリーライターとして奔走中。得意ジャンルは漫画、アニメ、音楽、生活ネタまで、基本なんでも屋さん。