NHKエンタープライズ・田邊浩介が語る、“ライブでは味わえない映像体験”の可能性

NEPスタッフが語る、体験型エンタメの未来

 「“シンプルで分かりやすい”がキーワード」

ーーテクノロジーについて、日本の強みを挙げるとしたら?

田邊:Perfumeの「Reframe」など、ライゾマ(Rhizomatiks)の手掛けたステージや作品を観て感じるのは、緻密に計算されたクリエイティブですよね。OK Goのプリンタを使用したMV「Obsession」(SIXの斉藤 迅がCD、Rhizomatiksの真鍋大度がTD、MIKIKOが振付を担当)は衝撃的でした。ひたすら紙をプリントする、という単純なギミックですが、ものすごく緻密で複雑に設計されていて、あれは日本人ならではのクリエイティブだなと思いましたね。

ーーSXSWでは、『8K:VRシアター「Aoi -碧- サカナクション」』や『8K:VRライド「東京VICTORY」』も評判になりましたが、なぜだと思いますか?

田邊:特に、トレードショーで展開した「8K:VRライド」に言えることですが、パッと一目見ただけでどんなものか把握できる「分かりやすさ」があると、世界中どの国の人でも反応が良いですね。そして言葉は関係なく、シンプルに楽しさが伝わる体験がやっぱり強いです。言語化しにくい、複雑な体験ほど他者との共有は難しくなるので、シェアのしやすさという意味でも「シンプル」は大事な要素かと。海外でアピールするためには、“シンプルで分かりやすい”はエンターテイメント体験におけるキーワードになってくると思います。

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ーー今回の2作品はいずれも音楽と親和性を持ったものになります。田邊さん自身も音楽との繋がりがあった?

田邊:もともと音楽が好きだったので、これまでも音楽絡みの企画を提案することは多かったです。ただ、本格的に動き出したきっかけは、『ロックの学園』(2007〜2014年までNEPが取り組み、廃校や大学の学園祭を舞台にした音楽イベント)というプロジェクトを始めたことですね。これまでの仕事のすべてがエンタメ系というわけではなく、専門は映像制作ですが、NEPではイベント、DVDパッケージ、キャラクター商品、WEBサイト、アプリなども制作してきましたし、今はショーの演出もやっています。

ーー幅が広いですね。

田邊:NEPでもここまで幅広くやっている社員はいないと思いますね(笑)。でも、とにかく新しいものが好きなんですよ。新しいことはすぐ手を出したくなるし、初めてやることにワクワクします。僕にとっては最新のテクノロジーは新しいおもちゃのような感覚なんです。

ーーそもそも映像制作に関心を持ったきっかけも教えてください。

田邊:もともとは父親の影響で写真を撮っていたんですよ。大学時代にバックパッカーをやっていて、海外で撮影したフィルムを暗室に改造した自宅の風呂場で現像して、モノクロ写真を紙焼きしていました。大学3年生の時に奥出直人(当時、慶應義塾大学環境情報学部 助教授)先生の「都市生活のメディアデザイン」というゼミに参加して、東京のストリートカルチャーを映像で撮るようになり、映像制作に興味を持ちました。

ーー田邊さんは1995年に慶應義塾大学を卒業されていますが、その当時影響を受けた作品や人物はいたのでしょうか?

田邊:当時はビート・ジェネレーションが個人的に盛り上がっていて、ウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグの小説や、ロバート・フランクの写真にハマりました。ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』に触発されて、突然アメリカに旅立ったくらいです。大学時代はすぐに影響を受けるタイプで、ジャマイカに行ったらラスタ思想にハマり、インドに行ったらベジタリアンになったり。今の仕事にも少しずつ、間接的に影響しているかもしれないですが、まだ脳がフレッシュで柔らかい年頃に、海外の文化から刺激を受けたことは良かったと思います。

 「“VR”はいかに優しく脳を騙すか」

ーー新しいものや新鮮な体験を欲する気持ちは、そういう青春時代のなかで培われたのかもしれませんね。ちなみに、これから制作したいコンテンツやエンターテイメントはなにかありますか?

田邊:フィジカルなアクションと立体映像を組み合わせた、MR(ミックスド・リアリティ)的なコンテンツを制作してみたいです。先ほども言いましたが、バーチャルがリアルに勝つのは難しい。だから、リアルな表現にバーチャルな表現を重ね合わせることで、より魅力的に見えるようなエンターテイメントを実現したいと考えています。そして、いかにテクノロジーの存在を気付かせないように演出できるか……これは2020年に向けて考えなければならない課題のひとつですね。

ーーVRにおいては、視覚と聴覚以外の、たとえば触覚などへのアプローチも進んでいます。

田邊:そうですね。“嗅覚”と“聴覚”だけでバーチャルな体験ができるエンターテイメントを作れないかと考えています。懐かしい匂いは思い出を鮮やかに蘇らせ、美味しそうな匂いは食欲を誘います。視覚を塞いだとしても、匂いは潜在記憶を刺激するから、ビビッドにイマジネーションを与えてくれるのかなと。そして、最先端の音響技術を駆使すれば、視覚よりも聴覚の方が解像度の高い表現が可能です。バーチャルリアリティって「いかに優しく脳を騙すか」なんですよ。脳に優しければ優しいほど現実に近い、純度の高いバーチャルリアリティということ。ただ、それを実現するためには、まことしやかな噓やトリックの積み重ねが必要です。これからもより鮮やかに、より優しく騙せる演出を研究して、いままで誰も体験したことのないエンターテイメントを実現したいですね。

(取材・文=泉夏音)

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