Lytro買収&ARアプリ「Just A Line」発表で、グーグルはアップルに追いつけるか?
iPhoneXで前面に装着されたTrueDepth IRカメラは、ユーザーの顔の3Dデータを使ってロック解除をするFace IDや、自分の表情をキャプチャーする3DアニメというAnimojiといったアプリケーションで世間を驚かせた。高性能な3Dセンシング技術がiPhoneに搭載され、AR開発プラットフォーム「ARkit」もバージョンアップを繰り返しており、Appleのティム・クックCEOの「ARはスマートフォンと同じくらいのビッグ・アイデアだ(9to5Mac)」という発言がこの1年で怒涛の勢いで実現してきている。さらには「2019年にはiPhone背面にも3Dセンサーを搭載する(Bloomberg)」「Apple独自のARヘッドセットを開発中か(Bloomberg)」という報道も出てきている。
Appleに追い越されたGoogle
しかし元々はGoogleの方がAppleよりもARの取り組みでは先を進んでいた。3Dセンサー技術を搭載したカメラを使ったARプロジェクトとして2014年にローンチされた「Project Tango」に従って、ASUSの「ZenFone AR」やレノボの「Phab 2 Pro」といった対応スマートフォンが昨年、発売されている。しかしTangoに対応するためには彼らが指定する特別なセンサーを搭載している必要があった。そのため対応機種は広がらなかった。
そして昨年夏には、既にマーケットに出ているハードウェアの性能の範囲でARアプリケーションを実現するソフトウェア開発キット「ARCore」をAppleのARkitに追随する形でローンチ。ユーザーたちが「あれ、Tangoはどうなった?」と思っていると、今年3月にはTangoのサポートを停止した。
地道な開発を続けるGoogle
iPhoneXのFaceIDのような派手な機能はまだ登場していないものの、Googleは着実にAR開発を続けているようだ。米Techcrunchの報道によると、ライトフィールド技術を用いたカメラで話題を呼び、現在はVRにも関連技術を発展させているLytroの買収を計画しているようだ。彼らが所有する59のライトフィールド、イメージング関連の特許はGoogleの今後のVR、AR、MR(Mixed Reality)といったコンテンツ展開に大きく貢献するだろうと海外メディアは報じている(Cnet)。
またARCoreによるARお絵かきアプリ「Just a Line」も発表された。こちらのプロモーション動画を見ていただくとその楽しみが分かるだろう。
ポイントは画面上で描いた線は空間上で固定されるため、カメラを動かすことで自分が描いた図の中を動き回るかのような体験ができるのだ。「拡張現実」という言葉にピッタリと当てはまるアプリケーションとなっている。
ARが最初に大きく注目を集めたのがゲームアプリ「ポケモンGO」だった。2Dで捉えたスクリーン上に2Dのポケモンが飛び跳ねる同アプリと比べるとARの可能性がどんどんと広がっていることが今回の「Just a Line」でもよく分かる。
Googleによるこちらのページでは、実験的に開発されたアプリケーションを色々と楽しむことができる。どれもスマートフォンが「次のレベル」へと移行しようとしていることを感じさせられる物ばかりだ。
ハードウェア面では遅れをとるAndroidハンドセット
AR技術が普及するためにはスマートフォンでの画期的なアプリケーションがどんどんと世に出される必要がある。消費者にとっては特別なデバイスを購入せずに、自分が持っているスマホができることが増えることが重要なわけだ。その点ではいち早く前面に高性能の3Dセンサーを取り入れたAppleは有利な地位に立っている。
3Dセンシングに必要なレーザー部品は、ハンドセット・メーカーたちからの需要に応えきれておらず、iPhone X以外のスマートフォンにおける導入が大幅に遅れている、という事態が多くのメディアによって指摘されている。AndroidのハンドセットがFace ID的な機能を導入するには2019年まで待つ必要があるとのことだ(Cnet)。ロイターも「AppleはAndroidに2年分、先をリードしている」と報じている。
立て続けにAR関連のニュースを出しているGoogleだが、ハードウェアではまだまだ遅れを取り戻すのに時間がかかりそうだ。
■塚本 紺
ニューヨーク在住、翻訳家・ジャーナリスト。テック、政治、エンタメの分野にまたがる社会現象を中心に執筆。
参加媒体にはDigiday、ギズモード、Fuze、GetNavi Webなどがある。
Twitter:@Tsukamoto_Kon