地上最速の義足は身体概念をアップデートするーーパラリンピック競技とテクノロジー
いくつかの歴史的記録を生み出した平昌オリンピックが熱狂の中、閉幕し、そして平昌パラリンピックが始まる。オリンピックに比べいささか注目度の低いパラリンピック競技もテクノロジーの視点で分析してみると、そこには人類の技術と努力、それによって生まれる未来へのヒントが詰まっている。そんなテクノロジーとサイエンスが、抱えた障がいを凌駕する「身体拡張の時代」とは。
生身を超える機械の身体
機械の身体を求め旅をするのは『銀河鉄道999』の話だし、ましてや全身をサイボーグ化すると聞けばサイバーパンク作品の金字塔『攻殻機動隊』を思い出すかもしれない。だが、そのように機械によって身体の一部を拡張することは、子供じみたSF話ではなくなってきている。
ロボティクスの夢、Xiborgの挑戦
「遠藤謙」という男がいる。かの最新工学の権威、MITが発行する科学誌『Technology Review』が選出した35才以下のイノベータ35人のうちの1人にも選ばれる彼は、下肢義足の開発に心血を注いだ後、ソニーが運営するソニーコンピュータサイエンス研究所のリサーチャーとして働く傍ら、2014年、「世界最速の義足」を作る会社として株式会社Xiborgを起業した。
そして、2015、2016年の全米選手権チャンピオンであり、世界パラリンピック陸上選手権で優勝の経験もある、最速の障害者「ジャリッド・ウォレス」ーーXiborg社はそんな彼と共同開発と提携を発表。
パラリンピック陸上は身体能力が大きく物を言う、通常の陸上とはまるで違う。つまり、開発者の技術とテクノロジー、それに着用者の努力と義足を文字通り足として使いこなすコントロールが全ての世界だ。そんな中で最速の義足開発を目指すのであればウォレスのような世界レベルの着用者のアドバイスは、何ものにも代え難い。Xiborg社が目指すのは「すべての人が動く喜びを感じられる世界」。 2年後に迫った東京オリンピック、そしてパラリンピックを見据え、障がい者が健常者を超越する「脚」の開発を続けている。
身体のアップデートが概念を更新する
実際に、2016年には義足のスプリンターのタイムは健常者のそれに近付いている。現・地上最速の男、ウサイン・ボルトの登場は陸上界の歴史の針を100年分進めてしまったと言われているが、科学技術の革新は人間のアップデートよりも早いサイクルで更新されている。人間はいい意味でも悪い意味でも「身体」という箱に制限された生き物だ。体機能はトレーニングによって向上するが、身体に限界はある。その点、素材の軽量化、板バネの技術向上など義足にはまだまだ計り知れない「更新性」がある。
Xiborg社のWebサイトにはこんな言葉が掲げられている。
2020年、東京では障害者陸上にどのようなことが起こるでしょうか? 我々は、義足のアスリートが100m走で健常者のアスリートのチャンピオンよりも速く走ることを夢見ています。
現在行われている、平昌パラリンピックでも多くの日本人選手のメダル獲得が期待されている。2020年のパラリンピック陸上ではきっと「Xiborg製」の義足を装着した選手が活躍することだろう。技術の革新は人々の予想をはるかに上回る速度で進む。パラリンピックがオリンピックと同じくらい、いや、それ以上に熱狂を生むイベントになるのもきっと遠くないだろう。
いつの時代もテクノロジーは規定の概念を覆す。今後の世の中では障害がハンディキャップとなるというこれまでの概念は、身体の拡張によってアップデートされていくはずだ。
■ げんきくん
埼玉県出身。整形を経てダッフィーと同じ顔になった。左肩に入ったQRコードのタトゥーを読み込むと松屋の公式サイトにアクセス出来る。
@genkl_kun