ソニー・ミュージック、Spotifyとライセンス契約締結へ 新CEO ロブ・ストリンガーの戦略を読む
7月11日、Spotifyがソニー・ミュージックエンタテインメントとライセンス契約を締結したと報じられた(参考:SonyMusicがSpotifyと契約(ロイター))。Spotifyは4月にもユニバーサル・ミュージック・グループと複数年にわたるグローバルライセンス契約を締結しており、報道によればワーナー・ミュージック・グループとのライセンス契約に関しては現在協議中とのこと。そこで今回、海外の動向にも詳しいデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏にSpotifyやソニー・ミュージックの動向について解説してもらった。
「今回Spotifyとソニー・ミュージックが締結した契約は、4月のユニバーサルとの契約と内容がほぼ同じだと言われています。レーベルに払うロイヤリティを低くする代わりに、新作を有料会員限定に配信する、というものですね。これまで新譜は発売日に店舗やECサイトに並ぶというのが当たり前でしたが、ストリーミングの場合は各プラットフォームでトップに並ぶ作品やタイミングが違っています。今回ソニー・ミュージックが契約締結したことで、ストリーミング全体に何か変化を起こす良いきっかけになるかもしれません。個人的にはメジャーレーベルとの契約更新がまだできていないApple Musicが、次にどういう仕掛けをしてくるのかが気になるところですね」
今後Spotifyがユニバーサル、ソニー・ミュージックに続いてワーナーとも契約を締結し、世界三大レーベル全てとライセンス契約が成立すれば、他のストリーミングサービスにも大きな影響を与えることだろう。またジェイ氏は各アーティストがSpotifyとApple Musicを戦略的に使い分けていることについても言及した。
「現在西野カナさんや乃木坂46はApple Musicで配信していますが、Spotifyには配信していません。一方、SuchmosやMAN WITH A MISSIONはSpotifyでも最新曲を積極的に配信している。Apple Musicはグローバルに展開しているサービスながら、トップには自国のアーティストが多く並ぶなどドメスティックに受けやすいプラットフォームです。また、今までiTunesを使っていたユーザーがそのまま使いやすいという利点もあります。一方、Spotifyで配信すると海外ユーザーのプレイリストに入れられやすくなり、海外のミュージシャンやリスナーに聴かれるチャンスが広がる。アーティストによってプラットフォームの使い方が明確に違うので、ソニー・ミュージック所属の全アーティストの楽曲配信を一気に解禁することが正解でとは限りませんし、どう配信するのが適切かはそれぞれのアーティストやクリエイターが考えるべきことでしょう」
日本でのユーザー数はSpotifyを上回るApple Music。ソニー・ミュージックの契約後の動き次第では、両サービスのユーザー数や層に大きな変化がありそうだ。さらにジェイ氏は、ソニーが今回の契約締結に至ったのは内部の組織改編も関係があると指摘した。
「2017年上半期に全米でヒットしたアルバムを見てみると、ケンドリック・ラマー『DAMN.』、エド・シーラン『÷』、ドレイク『More Life』、Migos『C U L T U R E』、ブルーノ・マーズ『24K MAGIC』……。実は上位にソニー・ミュージックのアーティストは入っていません。偶然かもしれませんが、この結果を見ておそらくソニー・ミュージック側も焦っているのではないでしょうか。同社は4月にロブ・ストリンガー氏が新CEOに就任して、大きな組織改編を図っています。彼はコロムビア・レコード(ソニー・ミュージックの一部門)の前CEOで、ソニーのハワード・ストリンガー前CEOの弟。ビヨンセなど確固たるファンを持っているアーティストを抱えつつも、カルヴィン・ハリスのようなあまり一般的ではないジャンルのアーティストにもスポットを当てたり、オーディション番組出身のOne Directionをトップグループにまで押し上げてきたことからわかる通り、コロムビアは才能あるアーティストを発掘して売り出すのが得意です。今後のソニー・ミュージックには、彼が持っているノウハウを生かした戦略が期待できると思います」