『風、薫る』りんとシマケンは似たもの同士? “恋心”では測れない2人の距離感

NHK連続テレビ小説『風、薫る』の第15週「差し出せぬ手」でりん(見上愛)は自分が担当した患者・山本辰治(本田大輔)の最後の願いを叶えたが、彼の命まで救うことはできなかった。辰治が亡くなり、りんは仕事で脈を測ったり包帯を巻くことさえ出来なくなってしまう。見かねた直美(上坂樹里)や看病婦のフユ(猫背椿)がサポートするが、りんは気持ちを切り替えられそうにもない。

手先は器用で人当たりはいいが患者に寄り添いすぎてしまい、りんは本来の看護婦の仕事から逸脱しがちだ。逆に手先が不器用でも機転が利き、状況によって器用に仕事をこなす直美はりんの分も仕事をこなしたうえでフォローも完璧にこなしている。仕事だけでなく、シマケン(佐野晶哉)との仲まで察知して取り持ってあげている。
りんがなぜ肝心な場面で間違えてしまうのか。りんの一番そばにいて、同じ家で家族のように暮らし、仕事も一緒にやってきた直美はりんの失敗を目の当たりにしているうちに看護とは何かという答えに近づいているようだ。自分の仕事としての看護に責任を持ち、成長した直美は、憔悴しきったりんを助ける余裕を身につけた。仕事が好きだからこそ迷ったり、他人の影響を受けやすいりんと小説家志望なのに思うように書けないシマケンは似たもの同士といえるかもしれない。

そもそもシマケンは読書好きで、外国語も話すし、自分の感情や恋心には鈍感だけど、ロマンチストで小説家志望。頼まれて書き始めた書評が話題になり、人気があるため執筆の時間もなく仕事をこなしている。
そんなシマケンは以前「僕は看護婦になるのがワクワクする。患者さんの話を聞くのが楽しいって話してたりんさんが好きだから」と言っていた。自分自身も好きなこと、興味のあることに夢中になり、その世界で生きていくのが理想だから、目の前にいる笑顔の素敵なりんの仕事に対する思いに強く共感するのだろう。

りんにとってシマケンの存在は仕事の悩みや葛藤を軽くしてくれるもので、恋愛というより友情に近いものであるように、シマケンにとってりんもまた進むべき方向に迷ったときに道標のような存在なのかもしれない。好きか、嫌いか、恋愛対象か、対象外なのか、人はわかりやすい答えを示されると安心するものだ。
とはいえ、好きという感情にもさまざまな思いが含まれており、単純に恋愛対象として好ましく思っている場合もあれば、もっと大きな意味で相手を支えたいと思ったり、つらそうな表情を見ていたら励ましたい、元気になってもらいたいと自然に思える関係もある。
シマケンの場合、製薬会社に勤める虎太郎(小林虎之介)が東京にやってきてから、意識してりんとの距離を縮めたいという思いが強くなったようでもある。ただシマケンの場合、強引に押すとかノリで告白というタイプではないので時間はかかりそうだ。恋愛も仕事も、迷いながら自分のペースで、自分なりに納得しながら進んでいくシマケン。りんだけに見せるとびきり幸せそうな笑顔もりんへのリスペクトがあるからこそ、とも思える。

それから気になるのが、シマケンは小説家を諦めるのかということ。それとも奮起して小説家となれるのか。恋心に疎く、鈍いシマケンの本心を見抜く良き相談相手であり、親友の槇村太一(林裕太)は小説家になることを本気で応援している。執筆活動にしても、恋(りんへの思い)にしても、シマケンが悩んだときは背中を押す存在だ。
シマケンの人物像は明治時代に活躍した社会運動家であり小説も遺した木下尚江がモチーフの1人であるといわれている。明治という激動の時代で新聞記者や評論を入り口としながら、のちに社会に影響を与える小説を遺した。
書評を書くことで新しい視点を身につけ、笑顔が魅力的なりんが仕事で落ち込み、りんを励ますことでより愛情を強く感じる。まだ何者でもないといいつつ、シマケンも成長を続けているようだ。りんがシマケンの小説を書く原動力になり、新作が発表される日もそう遠くはないかもしれない。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK




















