1990年代のような恋愛映画は現代で成立するのか? 『オフィス・ロマンス』がぶつける問い

製作会社とNetflixとの契約により近年、優先的にNetflixの配信作品に出演している、歌手にして人気俳優の「JLo(ジェイロー)」こと、ジェニファー・ロペス。50代半ばにして、輝くような魅力で観客の心を掴んでいる。近頃はアクション映画への参加が多いイメージのある彼女の新作は、ロマンティックコメディ『オフィス・ロマンス』。タイトルの通り、社内恋愛を題材にした一作だ。
#MeToo運動以降、組織内における恋愛が成立しづらくなってきていると感じたことはないだろうか。とくに権力勾配のある関係において、上の立場にある者が恋愛感情を出してしまうと、“不適切な行為”だと見られがちになる。映画界では、ハーヴェイ・ワインスタインによる、立場を利用した性加害への告発が相次いだことが、業界全体を激震させた。
そんな時代に、JLoが若者だった1990年代のような恋愛映画は、果たして成立するのか? という一つの問いをぶつけることが、本作『オフィス・ロマンス』の大きなコンセプトとなっている。ここでは、そんな要素を扱った本作が描いたものと、それが引き起こすものに対する率直な評価を述べていきたい。
JLoの相手役になっているのは、ブレット・ゴールドスタイン。Apple TVのドラマシリーズ『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』で、エミー賞コメディシリーズ部門の助演男優賞を獲得して注目を集めた俳優兼コメディアンである。脚本の手腕も評価されている彼は、本作でも共同で脚本家を務めている。本作においては、そのユーモアセンスと、JLoとの化学反応が期待されていた。しかし本作は、アメリカの批評家、観客ともに高い評価が得られなかったようだ。
本作のメインの舞台となるのは、大手航空会社「エア・クルーズ」である。JLo演じるCEOのジャッキーは、能力主義と規律によって会社を引っ張る、非の打ち所がないトップエグゼクティブだ。彼女は自身のポリシーから、厳格な「社内恋愛禁止規定」を掲げていた。彼女にとって職場とは、私情や曖昧な感情を完全に排し、業務に打ち込むべき場所に他ならない。
そんなジャッキーの前に現れるのが、ブレット・ゴールドスタイン演じる、新任の企業弁護士ダニエルである。雇用主であるジャッキーを一目見て、たちまち惹かれてしまったダニエルは、初仕事で彼女にいいところを見せることに成功するが、握手をした途端に“不適切な部分”が反応するという醜態を見せてしまう。
そんな下品なトラブルをきっかけに、二人の関係は少しずつ接近していく。しかし、二人の関係の深まりを邪魔するのが、社内規定なのである。CEO自身が規定を破っては、企業として示しがつかない。ダニエルもまた、ジャッキーの立場を考えて、自分の気持ちを抑えつけようとする。
公私の境界を引いていたはずのジャッキーが、ダニエルのどこか不器用で人間味あふれるアプローチによって、徐々にほだされていく過程は、ロマンティックコメディの王道的な流れだ。ジャッキーがもともと英国文化にフェティッシュがあり、それを察知した英国出身のダニエルが、近衛兵のコスプレをしてステレオタイプな英国人を演じてあげるという、笑っていいのか分からない一種の“プレイ”も描かれる。
こうした表現において本作が打ち出すテーマとは、そのような抑えきれない、どうにも人間的な衝動が、ルールや概念によって縛られてしまっているという、現代の社会の一側面なのだろう。90年代ならば、劇中のような職場での恋愛は、違和感なくラブコメとして楽しめたのかもしれないが、いまではそういった人間性や、相手を思いやりリスペクトを払った上での関係すらも築けなくなっているのかもしれない。
ゴールドスタインらの脚本は、そうした現代的なシステムがもたらす、ある種の閉塞感に対し、ジャッキーとダニエルという二人のぎこちない恋愛を通じて、人間性の復権を描こうと試みているのだ。その意味で本作は、90年代あたりまでの牧歌的な雰囲気へと、意識的に回帰しているように見える。






















